すこやかであれ

首都圏の夏の昼は暑い。さあ部活をしよう!と意気込んで飛び込んだ体育館はとんでもなく暑くてサウナのようだった。体育館のすぐ傍に設置されている熱中症の危険レベルを示す温度計の数値が『今すぐ活動を休止すべき』みたいなメーターに達したらしく本日の練習は中止になったのだ。帝光中バスケットボール部の練習が午前中に終了することなんて滅多にない事態なので、青峰は私にメールを寄越した。「今日部活休みになったけどどっか行くか?」という内容で。彼がそんな提案を他の友達にでなく私に持ちかけたのも、前日に私が「どっか遊びに行きたい」とごねたせいであろう。類稀なる正真正銘バスケ馬鹿な青峰は当然「練習あっからやだよ」と言いだした。まあ仕方ないか青峰だしな、と諦めていたが神は私を見捨てていなかった。今日はどうしても外せない用事が私にはあったのだ。青峰を連れていきたい場所がある。




「ときに青峰くん、今日は野菜の日であるそうだよ。っつーことで野菜食べろ」

割と早い時間に青峰が連絡をくれたのでお弁当を作って持参することが出来た。ウキウキピクニック気分である。丁度つけていたテレビの料理の番組が野菜の日だから今日はたっぷり野菜を使いましょう!と言っていたので便乗してみたのだ。電車に揺られること一時間、レタスとハムと玉子を挟んだサンドイッチを手渡すと長旅で疲れた顔をしていた青峰は露骨に不満気な顔をした。
「やけに横暴な言い草だな」
「何てったって野菜の日だからねえ」
「野菜関係なくね?あー、オレ今てりやきバーガー食いたい気分だったのに」
「マジバ行けばいいじゃん」
「行かねーよ金ねーし。そんでお前は野菜よりカルシウム取るべきだとオレは思うぜ」

何だとそれ身長伸ばせってことなのかよこの野郎。休憩地点の公園のベンチに腰掛ける青峰の太ももを軽く叩いてやると「カルシウム取って落ち着けっつってんだよ」と彼は言葉を投げかけてきたが無視してサンドイッチにかぶりつく。ちなみに野菜ばっかりじゃなくて昨日の夕飯の残りで作ったカツサンドもあるよ。てりやきじゃなくて悪かったなとは言わない。うちのお母さんの豚カツ美味しいんだからな!


さて、腹ごしらえもすんだところでいっちょ行きますか!後ろで青峰が「腹いっぱいになったから眠ィ」なんて言い出したけれど、手をぐいぐい引っ張って着いてこいと促すと何も言わずに大人しく着いてきた。日没までには何としても到着したいものだ。日差しは容赦なく私と青峰の肌を焦がそうとする。
「つーか、お前何差してんだよ」
「日傘」 「それくらい見りゃ分かるわ。何で日傘なんか差してんだ」
「そりゃーあんた、どっかのアホ峰くんみたいに黒すぎて写真撮っても髪と肌の分かれ目が認識できないようになる事態を未然に防ぐためにだな…」
「何だとテメェ誰がアホ峰だ」
「あー、そっちね!アホ峰に反応するのね!だってバスケ部の子も言ってたよー帝光バスケ部で写真撮っても黒すぎて青峰だけは一発で分かるって」
「うるせーなお前これはアレだ、名誉の勲章」
「名誉って何。バスケ?」
「セミ獲り」
「セミ獲りかよ!」

こういう男の子っぽい無邪気な一面が好きだ。本人には言ってやんないけれど何だかんだ言ってサンドイッチも全部食べてくれたりとか部活で忙しい中でも遊ぶのに付き合ってくれたりとか。青峰のいいところはたくさん知っている。本日はその気持ちをちょっとだけ伝えてみようというわけなのだよ。さくさくさくさく。歩く。ひたすら歩く。歩幅で考えるともっと距離が開いたって不思議じゃないはずなのに私が青峰よりも前を歩けているのは、まあ、きっと、……そういうことなんだろうな。
「着いたよ!」

青峰より数歩だけ先に到着した私は少しだけ走って青峰と更に距離を広げたあと、振り返って空を背負うような気持ちで両手を広げた。青峰の目線からだったらきっと私の向こうに辺り一面黄色に染まった景色が見えているだろう。あと空の青も。おー青峰が驚いてるめっちゃ驚いてる。
「青峰の誕生日の花って向日葵なんだってー!だからこれ!向日葵畑!凄いでしょ!」

枯れてたらどうしよう、と少し心配していたが向日葵はきちんと咲いていた。連日のこの暑さのせいなのかもしれない。向日葵はお日様のいる方に向かって咲くらしいので、まさに青峰にぴったりじゃないか!と私は思った訳なのである。もちろんこの向日葵とは別に誕生日プレゼントだって用意してあるけれど、それは後に置いておくとして。
「青峰ー!誕生日おめでとー!大好きだー!」

どさくさに紛れて日頃の想いの丈を叫んでみると青峰が「アホか!」と言ってからこちらに向かって走り出した。そう簡単に捕まるものかと向日葵畑に向かって一直線に駆け降りる。当たり前だが青峰の歩幅と私の歩幅は倍くらい違うのであっという間に捕まってしまった。うわーすごい。青峰向日葵より背高いじゃん。
「恥ずかしいこと叫ぶんじゃねえよバーカ!」
「何かテンション上がっちゃって言うなら今しかないと思ったんだよ!」

私の腕をがっちり掴んだままの青峰が「どうせなら二人のときに言えっつーの」なんて言うもんだがら嬉しくて日傘と鞄を放り出して抱きつくと暑い!と言われた。でも離れろって言わない。青峰の後ろで向日葵が揺れている。うーん、やっぱり向日葵もそうだけど、この人自身が太陽みたいだよなあ。…なんてね!

20120831 Daiki Aomine Happy Birthday!!