Machine-gun Talk! 125

どれだけ練習したところで所詮練習は練習でしかなくて、本番でその成果を発揮できなければ意味がない。そんなのは、言われなくたって分かってるつもりだった。

「バスケってさー、1試合40分しかないじゃん」

いつだったか、練習後の体育館の片付けをしているときにさんに言われたことがある。何の話をしてるときだったっけ。ああそうだ、あのとき確かオレはどれだけオレたちと一緒に練習したって女子バスケ部は部員が足りなくて試合になんて出れっこないはずなのに、同じくらいに練習しようとするさんが不思議で「毎日オレらと一緒に頑張ってるけど練習辞めたくなんないの?」って聞いたんだった。そう聞いたオレに一瞬きょとんとしたさんは、すぐにニカッと笑って「ならないよ」と答えた。きっとそれを聞いたオレは何で?って顔をしてたんだろう、少し考え込むような顔をしたさんはさっきのバスケは1試合40分しかないって台詞を言った後、どうしてバスケを辞めたくならないかの説明を続けて話し始めた。

「フルで試合出ても40分、メンバーチェンジで交代したりすると1試合でコートに立てる時間はもっと少なくて、せいぜい10分ちょっとなんだよね。そのちょっとの時間のために、出れるかどうかも分かんないいつかの試合のために毎日毎日ずーっと練習してるの、報われないのにこんなに一生懸命やってんの馬鹿みたいだなぁってたまに自分でも思うんだけど。でも、いざ助っ人誘われたりして試合出てシュート決めるとやっぱ『この瞬間のためにずっとバスケしてきたんだ』って、『バスケ辞めなくて良かった』って思っちゃうの。コガくんにもそういう経験ない?」

だからバスケ辞めたいとか、練習したくないっていうのは今は思わないかな。来年になったら後輩めっちゃ増えて試合バンバン出れるはずだし!とさんが楽しそうに話すのを、オレはそんなもんかとどこか他人事のように聞いていた気がする。あのときのさんの話、聞き流したりせずにもっとちゃんと聞いてあげれば良かったな。もし今もう一度同じことを聞かれたら、オレは胸を張って「あるよ」と答えるだろう。バスケ辞めなくて良かったって、心からそう思う。

オレは今この瞬間、このシュートを止めるためにきっと、あのとき水戸部と一緒に誠凛バスケ部に入ったんだ。

コガくんが実渕さんの虚空のコートに飛びついた。伸ばした手がボールを掠めることはなかったけれど、相手を動揺させるには十分だったらしい。いつだって綺麗でムダのないフォームから放たれる実渕さんのシュートがほんの少し崩れたのを見て、「落ちろー!」とつっちーや降旗くんと一緒になって大きな声で叫ぶ。だけどあたしたちの願いも虚しく、ボールはゴールリングへと吸い込まれていってしまった。

「い、今コガくんの反射凄くなかった!?ちゃんとどのシュート撃つか反応して飛んでたよね!?もしかしたら次のシュート止められるんじゃないかな!?」

そう興奮気味に話すあたしとは対照的に、ベンチの端に座る監督は暗い顔をしている。そしてあたしの問いかけに「……いえ、」と首を振りながら監督が続けた言葉に全員顔が真っ青になった。たとえどのシュートを撃つか分かったって次からは止められないかもしれない、って、どうしてそんな。

どのシュートを撃つか分かったって、そして反応できたって、届かなければ意味がない。バスケは高さが勝敗を分けるスポーツだ。火神くんのような常識離れした跳躍力を持っている選手でもない限り、背の高い選手に背の低い選手は敵わない。それは、コガくんが虚空を見切ったとしても実渕さんのシュートに手が届かないのと同じだ。

「意表をついたさっきが最初で最後だったのよ」

暗い顔でそう言った監督の言葉がずっしりと胸にのしかかってくる。それじゃ、誠凛は最後のチャンスを失ってしまったってことなんだろうか。やっとコガくんが手繰り寄せてくれたチャンスだったのに。ようやく洛山の攻撃を止める方法が見え始めたところだったのに、これじゃまた打つ手がなくなってしまった。どんどんと暗く落ち込んでいくベンチの中で、ぽつりと日向キャプテンの声が響く。

「最後なんかじゃねぇよ」

コガくんのおかげで実渕さんのシュートの攻略法、そして虚空を見切ったと言う日向キャプテンに目を見開く。そして「出してくれ」と監督に言いながら頭にかけたタオルを取ったキャプテンの瞳には、また光が灯るようになっていた。

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