Machine-gun Talk! EX01

※秀徳戦の後の話

先日のお好み焼き屋さんでめでたく初対面となった笠松さんは、黄瀬くんの相棒のように見せかけて実は超強豪校海常のキャプテンかつ高校バスケ界屈指の好ポイントガードで全バスケ少年憧れのスーパープレイヤーだった。仲良くなりたい。あたしにも色々教えてほしい。本人に出会った後で笠松さんのプレイの素晴らしさを知ったあたしの落胆ぶりはそれはそれはもう凄まじいもので、どうしてあのとき話しかけなかったんだ!お知り合いになりたかったのに!いきなり知り合いになりましょう発言は不審がられるかも知れないから、せめてメアドだけでも聞いてたら良かったのに!今まで女バスばっかりで男バスの強い学校を全然知ろうとしなかったからこんなことになるんだよ自分のバカ!

そんな後悔まっしぐらなあたしに黄瀬くんがまさしく女神(黄瀬くんはあたしの中で神というより女神)としか言い様のない提案を持ちかけてきてくれた。

「海常の練習見に来ないっスか?」
「行きます!」

海常の偵察に行ってくるから部活を休ませてほしい、と言うと、あたしがいかに笠松さんを尊敬しているか話しすぎたすぎてウンザリしてきていたらしい黒子くんに「仲良くなれたらいいですね。なれたらの話ですけど」と快く思ってるのかどうなのかよく分からない調子で送り出された。最近の黒子くんは心を開いてきてくれているのか、ちょいちょい毒を吐くようになってきてるような気がするんだけどこれはどういう心の開き方なんだろう。もっとこう、降旗くんみたいに可愛い後輩が増えてもいいと思うんだけどなあ。

「遊ぶなよ」と釘をさしてきたのは日向キャプテンだ。憧れの学校に行って遊ぶ訳がないのに。あたしってキャプテンに相当信頼されてないよね隙あらば遊ぼうとしてる奴みたいに見なされてるね。驚いたのが監督に「一つでも多く敵の情報を掴んできなさいよ!」と何故か激励されつつ送り出されたこと。好敵手をきちんとリサーチするのもマネージャーの仕事だからね!頼んだわよ!とも言ってた気がする。責任重大だ。浮かれすぎないようにしなくちゃいけない。

海常バスケ部の練習場所に足を踏み入れて一番最初に思ったことは部員の数多くね?っていうことで、こんなにいるんだから誠凛にもちょっとぐらい欲し…いと思ったけど、やめた。あれ以上部員が増えたらあたしのマネージャーの仕事に手が回らなくなる。

「先輩!この前言ってたっち連れてきたっス!」
「あ?……ああ、その子か」
「初めまして笠松さん!です!よろしくお願いします!」
「ああ」
っち見学させたいんスけど、向こうのコートに連れてっていいっスよね?」
「ああ」

気のせいかな。さっきから笠松さん「ああ」しか言ってないし、黄瀬くんとはちゃんと目を合わせるのにあたしとは意図的に逸らされてないか。しかも握手断られたんだけど何これ初対面で嫌われてる?

「あの、笠松さん!」
「……なんだ」
「メアド教えてくれませんか!」
「遠慮する」
「えええええ!」

断られた。なんてことだ。断られてしまった。そもそも目も合わせてもらえなかった。知らず知らずのうちに嫌われるようなことしちゃってたのかな…。

黄瀬くんが監督に呼ばれて向こうのコートに行ってしまった。海常は部員も多ければ体育館の広さも凄い。レギュラーの人たちが練習してる横のコートで、暇なのか順番を待ってるらしい人たちがあたしが入る前の誠凛が海常に僅差で勝ったことを事細かに教えてくれた。練習試合とは言えこんな学校に勝っちゃうなんて誠凛もやっぱり強いんだなあ。

「誠凛からきた女の子って君?」

綺麗な顔をした男の人に話しかけられた。もしかしてレギュラーの人かな。

「うん、うんうん…悪くない」
「え?」
「悪くない。けど、オレの好みではないな」
「はい?」
「君には色気がなさすぎる」
「何の話ですか!?」

悪くない、なんていきなり言い出したと思ったら次には色気がなさすぎると言われた。自覚してる。バスケばっかりしてるせいだけじゃなくて根本的な問題だってこともちゃんと自覚してる。

「残念だけど今回はオレの好みじゃないな。今度友達誘って合コンしてよ。オレ、森山由孝。なるべく可愛い子よろしく」
「よろしく出来るか!」
「ちなみに笠松に断られてたけど、アイツ、女の子苦手なだけだから。そんな訳で可愛い子よろしく」
「よろしく出来るか!!」

イケメンだ。この人イケメンだけどすごく残念なイケメンだ。ていうか笠松さんが女の子苦手だなんて初耳なんだけど何で黄瀬くんは教えてくれなかったの事前に必要な知識でしょそこは。むしろ必要すぎるでしょ。え、しかも森山さんのシュートフォームちょっと変!普通そんなの入んないよ!入ってるけど!何で入るのか分かんないけどちゃんと入ってる!何なんだあの人!

「お前!せい(り)んのマネージャーらしいな!(ラ)イバ(ル)の偵察に来たのか!(リ)ッバーン!」
「何て言ってるんですか!?」
「気にするな、早川のコレはいつものことだから」

気にするなと言われても気になってしまう。早川くん(同い年なんだって)はどうやらラ行がちゃんと言えないらしい。聞き取りにくいわ!めっちゃ聞き取りにくいわ!

思っていた以上に海常の皆さんはあたしを歓迎してくれていたらしく、最後には3対3にまで混ぜてくれた。隣のコートでダンクを決めた黄瀬くんに黄色い歓声があがる。黄瀬くんのモデルパワー凄い。誠凛じゃ絶対こんな歓声聞けない。

「……なあ、」

帰り支度をしているとあろうことか笠松さんが話しかけてきた。どうしたんだ。女の子が苦手っていうのは一体どうしたんだ。

「メアド、教えてくんねーか」
「えっ」
「えええええ!キャプテーン!」
「笠松どうしたんだ一瞬の気の迷いか!?」
「森山さんそれめちゃくちゃ失礼です!」

わーわーと騒ぐ部員を大して気にもとめず、笠松さんは部室から携帯を取ってくると速やかにメアドの交換を終了させた。うわあ。交換しちゃったよ。全バスケ少年憧れの笠松さんとメアド交換しちゃったよ。

「笠松先輩、もしかしてっちのこと気に入ったんスか?」
「……いや、」

逸らされた視線に滅多に作動しないあたしの女の子スイッチが連打されてるのを感じる。これは、この展開は、もしかすると。もしかするんじゃないのか。期待に胸が高鳴った。

笠松さんが凛々しい顔をしてあたしに向き直る。

「あいつらと話してるとこ見てると、何かお前あんまり女って感じがしなかったから」

あのときの笠松さんのはにかんだ顔をあたしはきっと、いや絶対、間違いなく一生忘れないだろう。

結果的にメアドをゲット出来たのはいいけど、あたしは笠松さんの中で友達もしくは知り合いに昇格できたのだろうか。謎だ。男の人が考えてることってさっぱり分からない。とりあえず森山さんには「やっぱり君ってそういうキャラなんだ」って言われたんだけど一体どういう意味だろう。やっぱりそういう意味なんだろうな。合コンなんて絶対セッティングしてやんねーよ。

「キャプテンとあんな普通に話せてる女の子見たの、っちが初めてっス!」と黄瀬くんにえらく感動されたのもあって笠松さんの学生生活が少し心配になった。キャプテンとしては申し分ないんだと思うんだけど、あの人本当にバスケのことしか考えてないんじゃないの?

最後まで早川くんは何を言ってるのか分からなかった。一人だと危ないから、なんて言って校門まで送ってくれた小堀さんは紳士だ。つっちーと似たようなものを感じる。どの学校にも女の子に優しい人が一人はいるものなんだなあ。女の子って柄じゃないのがちょっとだけ申し訳なく思ってしまった。



この間はありがとな。誠凛と試合出来るの楽しみにしてる

「見てみて黒子くん!これ!笠松さんから初めてメール届いたの!何かヒヨコの絵文字ついてんだけどさ、あえてバスケの絵文字使ってこないところがまた素敵だよね!それにしてもヒヨコってチョイスが可愛くて憎い!誠凛と試合出来るの楽しみにしてるって!お世辞でも嬉しいし笠松さんあんまりメールしなさそうなのにわざわざ絵文字までつけてきてくれたことに愛を感じる!そう!愛を感じる!!」
「落ち着いてください」
めっちゃ騒いでるけど女子ってああいう素っ気ないメールが好きなのか?」
「俺に聞くな」

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