Machine-gun Talk! 04

生まれて初めて朝練というものをやってみた。何十年、おっと間違えた、十何年も自分として生きてるから自分が低血圧で朝に弱いことぐらい分かっていたけれど、まあ、何ていうか心境の変化ってやつだ。男バスが頑張ってたからそれに感化されたのかもしれない。珍しくシュートの決定率もなかなかである。

それにしても朝の体育館っていうのは清々しくて気持ちいいねやみつきになっちゃうねこりゃ。

どうやら朝の陽気に浮かれていつもとは違う行動をとってしまうお花畑野郎はあたしだけじゃなかったらしい。一人で楽しく朝練をやっていたら日向くんがやって来た。俺の場所だなんだと言っていたので彼は朝練の常連なんだと思う。つまりは朝の猛者なんだろうな。

「ボクといるときに先輩の口が閉じるのはシェイクを飲んでいるときだけだと思うのですが」

少し話は変わるが、これは先日可愛い無表情だけど可愛い後輩とシェイクを飲んでいたときに言われた言葉である。

あたし自身、「お喋りだね」という言葉は最高の褒め言葉だと自負しているし、自分の話を聞いてもらうのも好きだし、黒子くんのように時折きちんと相槌を打ってくれて、聞いてないようでちゃんと聞いてくれている人が好きだ。だから図書館とか自習時間とかっていう静かにしなきゃいけない空間が嫌いだ。

でも、そんなあたしも、今回だけは

「あんまやることないんだったらマネージャーやれば」

開いた口が塞がらなかった。

どういう風の吹き回しかはさっぱり分からないけれど、男子バスケ部主将の日向くんに色々と教えてもらうことになった。何故だかほんとにさっぱり分からない。しかも教える代わりにマネージャーをやれと言われた。こちらとしてはディフェンスとオフェンスだけじゃなくて挙げ句の果てにはシュートまで教えてくれると言うのだから物凄く嬉しいことなんだけれど、いや確かにあたしは外練で走ったり筋トレしたりラグビー部にパンあげたりお駄賃もらったりとかそういうことぐらいしかすることないよ?暇人だよ?だからといって何か上手いこと話が進みすぎてないかこれ。

「え、さんマネージャーやってくれんの?」
「女子バスケットボール部主将兼、男子バスケットボール部マネージャーをやってくれるのよ!」
「うっわ!何それ超忙しいじゃん」

あの朝練中の会話のあとで日向くんが相田監督にマネージャーの件を持ちかけてみたところ、即刻でオーケーが出たらしい。何てことだまさか相田監督がオーケーを出すなんて思ってもみなかった。

そういう訳で昨日の今日でまたお前かよ今度は何だ、とでも言いたげな部員の視線をびしばし感じながらあたしは今しがたマネージャーとして日向くんと相田監督によって紹介されたところなのである。ねえ昨日からのあの男バスの反応からは想像もつかないことになってんだけど。どうなってんだこれ。

とりあえずタイミングを見計らって「よろしくお願いします」とだけ言っておいた。「よろしくお願いします」と何人かが返してくれた。ちょっぴり嬉しかった。ああやばい、まだ何もしていないのに額に汗が滲んでいる気がする。いやいやでもねだけどね、こうやって背高い人たちに囲まれてるとね、やっぱりちょっとは緊張しちゃうもんなんだよ、うん。ね。

どこを見てたらいいのか分からずに誰を見るでもなくただひたすらに目を泳がせていたら「先輩汗やばいっすけど大丈夫なんすか」という声が降ってきて何かと思えばすぐ近くに赤い髪をした男の子がいた。確かヒカミくんとかいう見た目も名前も温度高めな一年生の子だったはずだ。

「ヒカミくん、これはあたしの努力の結晶だから。決して心の乱れからくる冷や汗とかじゃないから。全然気にしなくていいよ」
「努力の結晶云々よりも先に俺の名前はカガミっすよ先輩」

まずは黒子くんや日向くん以外の部員の名前を覚えるところから始めなくちゃいけないようである。

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