Machine-gun Talk! 05

「やる」と返事してからではもう遅いんだけど、マネージャーをやりつつバスケの練習をするというのは想像以上に大変だった。

タオルは何枚も用意しなくちゃいけないしお茶だって皆が飲む量がいちいち半端じゃない。こないだなんて放課後の練習だっていうのに皆ががぶがぶ飲むもんだから、緑茶と麦茶、二種類のお茶を作らなきゃいけない羽目になった。勿体ないから二回に分けて使おうと思って茶葉を全部出さないでお茶作ってみたら日向キャプテン(「キャプテンって呼べ」って言われた)に「味薄すぎじゃねーか」って怒られた。普段あんまり怒んない人が怒ると怖いってことを身をもって体験しました。何あれ怖すぎる眼鏡の奥の目が全然笑ってなかったよあれが噂のクラッチタイムか。試合中でもないのにスイッチ入れちゃうとかどんだけだよあたし。

怖すぎて思わず「いやでもこれからは男女共同参画社会なんだからちょっとくらい手伝ってくれても、というよりもまず皆の飲む量が多すぎてお茶の生産が間に合わないから出来れば一人あと1リットルくらいは家から持ってきてくれたら助かるというか何というかね!」と言ったら「茶作るくらいマネージャーの基本だろ、だアホ」と罵られた。何回でも言おう、怖すぎる。相手がキレてらっしゃるのに男女共同参画社会とか現代社会用語言っちゃったあたしも確かにアホだと思ったけどそれにしても怖すぎる泣いちゃう。

ちなみに相田監督(これも監督って呼べって言われた)から聞いたところによると日向キャプテンはとにかくシュートに長けているらしいので彼にシュートを教えてもらえることになった。今度はキレられないように気をつけなきゃいけない。

オフェンスについては「勢いでいきゃあ何とかなるもんすよ」とかっていう最早アドバイスとは言えないだろそれ、と思わずつっこみたくなるような火神くんからのアドバイス。勢いには自信あるし今度降旗くんでも捕まえて実践してみようかな。

問題はディフェンスだった。教えてくれる人がいない。

小金井くんに教えてもらおうとしたけど「あいつは器用貧乏だから頼りにしないほうがいい」なんて伊月くんに言われて断念した。ちょっとだけ小金井くんが可哀相になった。あたしも皆に倣って親しみをこめてコガって呼ぶから落ち込まなくていいと思うよコガくん。

「じゃあさ、水戸部は?」
「水戸部?」
「あの全然喋んない背高いやつ」

どうやらその水戸部くんという人ならディフェンスを教えてくれるかもしれないらしい。「あいつ優しいからさんが頼んだら多分断んないよ」とコガくんのお墨付きももらえたのでお昼ご飯の時間を狙って頼みこんでみよう。

「という訳でディフェンス教えてくださいお願いします」
「………………」

無言は肯定もしくは承諾という意味で受け取っちゃっていいでしょうかねこれ、いいですよねこれ。あれ何で敬語使ってんだあたし。かなりの時間黙りこくった後でゆっくりと彼は頷いた。どうやら教えてくれるつもりらしい。やった!

「?」
「……………」

ずいっとパンを差し出された。何が言いたいのかと思って見あげると彼はもう一度頷きながらあたしの手にそのパンを置いた。もしかして食べろって言いたいのかな。

「くれるの?ありがとー」
「………………、水戸部とさんだ」
「何か餌付けされてるペットと飼い主にしか見えねんだけど」
「いや、ていうかあれ餌付けしてるだろ」
「水戸部小動物好きだからな」
「え、そーなの?」
「知らん。勘だよ」
「勘なのかよ!」

どうやら水戸部くんはあんまり喋らない性格らしい。そんな人にディフェンスなんて教えてもらえるのか、と思っていたらコガくんを従えた水戸部くんが現れた。何をしているのかと聞いてみたら当たり前のように「俺が通訳してあげるよ」なんて言われたので以上から推測するに、誠凛バスケ部の中には結構な信頼関係があるみたいです。あと水戸部くんディフェンス教えんの上手すぎてびっくりなんですけど。フックシュートも教えてって言ったらどこからか分からないけど飴玉をもらった。どこに隠し持ってたんだ。

「実は猫型ロボットと同類ですか水戸部くん」
「ちょ、飴舐めながら喋んないで何言ってんのか全然分かんない」

水戸部くん四次元の住人疑惑浮上。

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