Machine-gun Talk! 06

全校集会に遅刻して行ったらいつもはあたしの座っているはずのところに別の子が座っていて少し悲しくなった。ついついそこあたしの席だから!って言いたくなってしまった。まあ言えるはずないんだけどね遅刻しちゃってるし!最近朝練に気合い入れすぎちゃって今日久々に十時間快眠しちゃったしね!そりゃ遅刻もするよねだって起きたの8時だったもの!どう頑張って学校まで30分はかかるんだもの!

ちなみに猛ダッシュで走って最短記録で靴箱から教室まで着いたのにも関わらず教室がすっからかんだったのはすっごく悲しかった。何とか座れそうな場所を探してみる。なさそうだ。ていうか暑いよサウナみたいになってるじゃん本格的に夏を迎えたら熱中症になっちゃうよこんなの何でこんなにぎゅうぎゅうになって座ってんの。あそこにスペースあるじゃん座れるスペースあるじゃん。…まあ「鬼」って呼ばれて恐れられてる先生の目の前だけど。校長先生の話聞いてる間の一瞬の気の緩みさえも許されなさそうだけど。

さん、こっちこっち」

小声で名前を呼ばれて何かと思えば伊月くんがこちらに向かって手まねきをしていた。なるべく足音を立てないように静かに近寄ると「この辺まだ余裕あるから座っていいよ」とサラサラな髪をなびかせて言ってくれるもんだからお言葉に甘えて座らせてもらうことにした。ちなみに伊月くんが座ってたところは最後列だったからほとんど誰にも気づかれずについて一安心。っていうか何で伊月くんこんなとこ座ってんだろ名字イで始まるから普通最前列あたりにいるはずなんじゃ?

「伊月くんてさ、前から二番目くらいなんじゃないの」
「え?」
「座ってるとこ」
「あー、今これ身長順で並んでるから」
「それだと最後のほうバスケ部ばっかになるじゃん」
「そ、だからあのへんに火神いるよ」
「本当だ。おーい火神くーん」
「ちょ、さんやめて手振んないで目立つから」
「ていうか黒子くん見当たらないね」
「こんなとこで黒子見つけんの無理だと思うけど」
「んー……、あ!いた!黒子くんいた!」
「えっ、黒子いた?どこ?マジで?」
「ほらあそこに何か儚げな感じで黒子くんが」
「いや儚いっつうか黒子あいつ寝てるようにしか見えないんだけど」

ずっと下を向いているように見えた黒子くんが伊月くんとあたしの目線の先でガクッと体勢を崩した。寝てたなあの子。ミスディレクションとか影の薄いとかいうのを逆手にとって堂々と居眠りするなんて羨ましい御身分だなあ、なんて思ってたら「こら!小金井!起きろ!」という先生の怒号が聞こえて、何事かと辺りを見渡すと慌てて起きたらしいばつの悪そうな顔をしたコガくんと目が合った。普通は寝てたらあんな風になるのに黒子くんって寝てても発見されにくいから便利だよね。かと言って影薄すぎて忘れられたりするのはごめんだけど!気配を消せるっていうのは案外色々と役に立ったりするんじゃないかな、と思うわけです。あ、コガくんまた寝てる。懲りないなーこれでもう一回先生に怒られたりなんてしたら部活のときからかってやろう。

「そういやさ、もうすぐ全国大会の予選始まるんだよ」

そんなことを考えていると、真面目に校長先生の話を聞いていた(少なくとも聞いているように見えた)伊月くんが振り返って言った。…全国大会の予選なんて聞いてないぞあたしは。

「新恊学園高校とするんだって」
「聞いてないよ」
「いやだってさんあのとき茶作ってたから」
「いやそこは呼ぼうよ!何この仲間外れな感じ!何であたし以外の人は皆知ってる感じになってんの!淋しいじゃん!」
「しーっ、さんちょっと声のトーン落として」

先程コガくんを叱った先生の視線がこちらに向いていることを横目で示しながら焦ったような顔で伊月くんが言った。強面な先生の顔と一瞬目が合ったような気がしてごくり、と唾を飲み込む。コガくんみたいに全校生徒の前で怒られて注目を浴びるのはごめんだ。コホン、と咳払いをしたあとにきっちりと三角座りをやりなおして小声で伊月くんに話しかける。

「えーと、その、…強いの?新恊学園ってとこは」
「強いかは分かんないけど、お父さんがいるんだよな」
「お父さん!?」
「身長2メートルの留学生」
「2メ……!?は!?そのお父さんって人2メートルあるって水戸部くんよりでかいじゃん」
「パパ・ンバイ・シキっていう名前らしい」
「パパ・ンバ……え?何?どこからが名字?」
「パパだから俺らはお父さんって呼んでる」
「あだ名つけんの適当すぎるんじゃないの」
「黒子が命名したんだから俺に言われても困るって」

少し苦笑いのような表情を浮かべた伊月くんは再び前を向いて校長先生の話に耳を傾け始めた。何だかんだ真面目なんだよなあ。それにしても黒子くんのネーミングセンスって一体…。

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