Machine-gun Talk! 07

遂に全国大会地区予選の初日がやってきた。試合前日の火神くんは闘志をメラメラ燃やしすぎると眠れなくなるらしく、一人だけ目がめちゃくちゃ充血しててちょっと可哀相だった。とりあえずアイスノン渡しといたけど大丈夫かなー試合始まるまでに治るといいんだけど。実を言うとあたしも火神くんと同じくらい緊張しちゃってたりするんだよね。マネージャーだから実際戦う訳じゃないしそんな緊張することない、って分かってはいるんだけど…何せ女バスのときはこんなに大きい大会に出たことがなかったもんだから、やっぱり男バスって凄いんだなあ、と思わずにはいられない。ボールを片手で操って練習している選手たちを見ているとついバスケがやりたくなってしまうけれど、今日はマネージャーとしての役割をしっかりと全うしなければならないのだ。と言っても休憩の間に選手の皆をうちわで煽いでタオル渡してお茶あげるくらいしか出来ないんだけどね。

「相田監督、あたしお茶作ってくる」
「いってらっしゃい」
「はーい……ぶっ」
「痛い…キミ、いきなり走ると危ナいヨ-」

お茶セットを片手に駆けだそうとしたら入口のすぐ横あたりで何かにぶつかった。痛い……。誰かと思ったらお父さんだった。うわあああああ何この人すげええええ超でけええええあんまり顔見えねえええええええ……ってこんなことしてる場合じゃないんだったお茶!お茶作んなきゃ!猛ダッシュでお茶を作って会場に戻ってくると先程のお父さんに黒子くんが吊るし上げられ…いや、持ち上げられていた。吹いた。

一体どうなってるんだこの状況。

ようやく解放してもらえたらしい黒子くんが押し黙ったままでこちらに戻ってきた。「もしかシて日本の子供ってミンナあンなに小さイの?」と騒いでいるお父さんの声が聞こえる。子供……。

「く、黒子く……大丈夫?」
「正直…色々イラッときました」

うっわー怒ってるよ。ちゃんと敬語使ってるけどこの子めっちゃくちゃ怒ってるよ。これはマネージャーとしてがつんと言ってやらなければ。

「監督、あたしお父さんのとこ行ってくる!」
「ちょ、さん!?」
「お父さ…あ、間違えた、パパさん!」
「パパさン…?キミはさっきの」
「うちの選手を馬鹿にするのはやめてください」
「選手…?ああ、さっきノ子供のコト?」
「だから子供じゃないですってば」
「子供がいルチームなンかに負けなイヨ」
「こっチだっテ負けませンよ」
「真似しないでよ聞きとりにくい」
「あれ流暢な日本語……」
「何シに来タのキミ。女の子でショ。ここは選手がいルところだヨ」
「パパさんにお願いがあるんです」
「?」
「さっきの黒子くんみたいに抱っこしてください!」
「はあぁあぁぁ!?」
「何言ってんだー!」

誠凛のベンチのあたりから相田監督と日向キャプテンの叫び声が聞こえた。いやあ、実はさっき黒子くんが吊るし上げられて…コホン。持ち上げられてるの見たときからちょっと羨ましいと思ってたんだよね。

「抱っこ?キミを持ち上げタらいいノ?」
「はい!よろしくお願いします!」

ひょいっ。案外ノリが良かったらしいお父さんの手によって持ち上げられたあたしの目線が火神くんと同じくらいになった。あの子たちはいつもこんな高い所から世界を見ているのか。いいなあ、凄いよこの高さ。周りの選手のつむじまで見えてちょっと面白い。あ、お父さん大丈夫かな重くないかな腕痛くなったりしてないかな。黒子くん持ち上げたくらいだからきっと大丈夫だよね。

「もうイい?満足しタ?」
「あ、もーちょっと待って……おーい火神くーん黒子くーん、やっほー」
「やっほーってあんた何して…何してんすか先輩!」
「楽しそうですね」
「黒子何お前普通に手振ってんの!?」
ー!馬鹿なことやってないで戻ってこいダァホ!」
「はーい……パパさんありがとう!試合には誠凛が勝つからね!」
「だかラ子供がイるチームなンかに負けナいヨ!」

これ以上やると日向キャプテンの鉄拳が飛んできそうだから名残惜しいのを我慢してパパさんに降ろしてもらって、そそくさと誠凛の人たちがいるところに戻るとキャプテンではなく相田監督の鉄拳制裁が待っていた。ごめんなさい。でももうしないとは言い切れな…すいませんマネージャー業に専念しますすいません。ちなみにそれからの試合では火神くん黒子くんコンビの大活躍でパパさんが絶句する場面も見れたりしてベンチのあたしも大興奮だった。試合で見ると黒子くんのパスってやっぱり凄い。あたしあんな風に相手の隙突いたりするの上手くできないし。しかも今日はいつもより一層キレキレな気がする。あれ、火神くん練習のときより高く飛べるようになってない?うわ、今のジャンプ!もうすぐお父さんに届いちゃうよ体にバネでもあるんかあの子!「マネージャー、ちょっと口閉じとかないとうるさいわよ」…興奮しすぎて監督に怒られてしまった。

試合の結果は我らが誠凛高校の勝ちで、パパさんは最後まで「次は負けなイ!バーカバーカ!」と火神くんの額の青筋を増やしていた。でも「パパさーん!またねー!」って言いながら手振ったら振りかえしてくれたから案外いい人なんだと思う。うん、負けず嫌いな気持ちはスポーツやる上でも大事なもんだしね!

「折角だからもう一回パパに抱っこしてもらいに」
「行かせねーよ」

誠凛高校インターハイ予選初戦突破です。

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