Machine-gun Talk! 08

「キセキの世代に会いたい?」

実はずっと前から気になっていたことがある。どうしてあたしだけがあれほど騒がれている「キセキの世代」とやらに会ったことがないのか、と。

「俺に言われても困るんだけど、あ、いや…困るっすよ」
「そんなこと言わずに何とか頼むよ火神くん」
「黒子に頼めばいいじゃないっすか」
「黒子くんに言ったら断られたんだもん」

ズココッとおおよそ上品とは言えない音を立てながらシェイクをすするあたしを見て火神くんが溜息をついた。山積みになっていたハンバーガーの山はもう半分ほど火神くんのお腹に収まってしまっている。あたしとしては君の尽きることのない食欲に溜息つきたいところなんだけどな。今日のあたしの所持金何円だと思ってんだ。300円だぞ。シェイク飲むので精一杯なんだぞ。貧乏学生を舐めるなよと言ってやりたい。

「大体あいつらに会っても何もいいことないんじゃね……ですよ」
「それ黒子くんにも同じこと言われた」

前々から思ってたんだけど火神くんって敬語使うの苦手だよね。日向くんとか相田監督とかに間違えてタメ口使っちゃって焦ってるのとかよく見かけるし。無理して使わなくていいってあたしは思ってるんだけどなー。頑張って使いこなそうとしてるの可愛いなあ。キセキの世代に会ってもろくなことがない、だなんて黒子くんにも言われた台詞だけど、生憎そう言われれば言われるほど気になってしまう性分なもんでして。それに中学生のときの黒子くんの仲間(だから多分全員一個年下)だなんて絶対面白いと思うんだ。

「火神くんはキセキの世代に知り合いとかいないの?」
「いるっちゃいるけど……微妙っすよ」
「微妙?」
「一回練習試合やったことあるだけだし。あ、いや……あるだけ、なんで」
「そっか……残念。会いたかったなあ」

結構全国の強豪校に散り散りになっちゃってるらしいからせめて東京にいるらしい二人だけでも会ってみたかったのに。残念だ。シェイクを飲み終えると火神くんも丁度ハンバーガーを食べ終えたらしく立ち上がってゴミを片付けに行った。…ついでにあたしが飲んでたシェイクも一緒に。心の中で盛大な拍手を送った。紳士だ。さりげなさすぎる紳士だ。黒子くんみたいなオープン紳士じゃなくてさりげなさすぎる紳士さだ。アメリカ帰り恐るべし。捨てる紙の量が多すぎてゴミ箱に入りきらないらしく悪戦苦闘している背中を見つめているとポケットで携帯が震えた。『黄瀬くんがあなたに会いたいと言っています』……ええと、黄瀬くんって誰だったっけな。

「何ケータイ見ながら固まってんすか先輩」

とうとうゴミ箱という大いなる敵を倒すことに成功したらしい火神くんが戻ってくるなりあたしの手に握られたケータイの画面を覗きこみ、そして「げ。黄瀬かよ…」と顔をしかめた。人に送られてきたメール見て「げ」とは何だ失礼な。黄瀬くんって誰だったっけ。思い出せない。頭をめっちゃ捻ってみたけど思い出せない。火神くんも知ってるっぽいってことはバスケ関係の人だよね。新恊学園にそんな人いたっけなー。

「ねー火神くん、……黄瀬って誰だったっけ」
「は?」
「え?」
「先輩……本気っすかそれ」

やれやれ、といった表情で火神くんはあたしのケータイを奪い取って少し弄ると「ほれ」と言って画面を見せてきた。まさかあの火神くんにそんな表情をされるとは思ってもみなかったあたしは数秒遅れでその画面を覗き込む。送信完了画面だった。……ちょ、えええええ!嘘だろ!

「何て送った!?ねえ何て送った!?」
「『会う』」
「無愛想すぎだろ!」
「……ツッコミ入れるとこそこなのかよ、……ですよ」
「違う!違うけど!思い出せないってかほぼ知らない人に言われてのこのこ会いに行くほどあたし軽い女じゃないよ!」
「先輩黄瀬に会いたがってたんじゃないんすか」
「会いたがってた、って言うかそもそも黄瀬くんって誰」
「キセキの世代」
「は?」
「黄瀬はキセキの世代のうちの一人っすよ」

「黄瀬の相手きついだろうけど先輩ならまあ多分大丈夫だと思うんで」という謎の台詞を最後に火神くんは去って行ってしまった。慌てて送信ボックスを確認すると本当に『会う』とだけ書かれたメールがあって愕然。受信ボックスを開くと『分かりました。では明日の練習の後ちょっとボクに付き合ってください。黄瀬くんも呼んでおきますね』という黒子くんからの返信を発見してさらに愕然。黄瀬くんって…キセキの世代って……えええええ!まじかよ!

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