Machine-gun Talk! 10

必死の説得も虚しく「あの人は何だか苦手です」と言って黒子くんは帰っていってしまった。黒子くんがいなくなって黄瀬くんと二人きりでマジバに残されたあたしは急激な気まずさに襲われる。

「ええと、黒子くんとその緑間っていう子は仲悪いの?」
「悪くはないと思うんスけど……緑間っちは結構難しい性格してるっスから」
「ちなみにその緑間っちっていうあだ名は」
「中学からのあだ名っス!」
「なるほど。あと黄瀬くんのその○○っス!っていう口調はなんとか」
「なんないっスね」

どうやら黄瀬くんは黒子くんとはまた違う感じの体育会系敬語キャラらしい。喋ってるとまるで自分の後輩と話しているかのような錯覚に陥ってしまう気がする。後輩どころか一応年下は年下でもモデルだし背高いしバスケのスーパープレイヤーだしそもそも同じ学校ですらないんだけど。

それにしても向こうの方にさっきからやたらとこっちばっかりちらちら見てる女の子たちがいるのはあたしの気のせいなんだろうか。おそらく気のせいじゃないよね。勢い余って頭撫でたりしちゃったけど黄瀬くんはその世界の女の子たちの間じゃ結構有名なモデルらしいんだから、そんな人と二人でいたら注目されてしまうのも当然な訳で。あたしは雑誌とか全然読まないから知らなかったけど改めて見ると本当に綺麗な顔してると思う。知らなかったとは言えモデルやってる高校生男子の頭を撫で回すなんてあたしも命知らずなことをやってしまったもんだ。

とっくの昔に飲み終えてしまっていたシェイク(ちなみに黒子くんのおごり)のストローを退屈がてら弄っていると黄瀬くんのケータイが鳴った。「緑間っちからメールっス!」どうやら黄瀬くんは独り言を言うときでさえもあくまでこのスタンスを崩さないつもりらしい。

「緑間くんは何て?」
「もうすぐ着くけどマジバに入るつもりはないから迎えに来てほしいらしいっス…」
「分かった、じゃあ一分一秒だけでも早く迎えに行ってあげよう」

爛々と目を輝かせながらメールを見ていた黄瀬くんの急激な落胆ぶりがちょっと面白かった。突き刺さるような女子の視線から逃れるようにして立ち上がると「先輩緑間っちに会う気満々っスね!」という黄瀬くんの声が追いかけてきた。緑間くんとやらに会う気が満々というよりも黄瀬くんと二人きりだった空間からようやく抜け出せたことのほうが嬉しいから急いでいるのだということは黙っておくことにしよう。

マジバから出て黄瀬くんが「多分このへんにいると思うんス!」と言いながらとずんずん歩いていく方向へ足を向けると学ランを着た誰かの姿が目に入った。

あ、あれってもしかして

「いたいた、おーい緑間っちー!」
「……何でリアカー?」

そしてその手に持ってるウサギのぬいぐるみ(可愛い)は一体。

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