Machine-gun Talk! 11

黄瀬くんに負けず劣らず高い身長にオシャレ眼鏡と異様にばさばさしている下睫毛。練習後なのかしっかり巻かれたテーピング。何故か掌にちょこんと鎮座してるぬいぐるみ。極めつけはリアカー。

どうしよう色々衝撃的すぎてどこから指摘したらいいのか分かんなくなってきた。

「約束通り連れてきたっスよ!」
「黄瀬か。久しぶりなのだよ」
「久しぶりなのだよ……って、こないだ会ったばっかじゃないっスか!しかも緑間っちから!もう忘れちゃったんスか!?」
「そんなこといちいち覚えていないのだよ」
「何かそれすげー酷いっス!」
「どさくさに紛れてピョン太に触ろうとするな」
「ピョン太!?」
「今日のオレのラッキーアイテムなのだよ」
「毎度のことながらそれ全く意味が分かんないっス!」

あたしも全く意味が分からん。

「え、じゃあわざわざここまでリアカーで緑間くん引っ張ってきたの?」

黄瀬くんと緑間くんが二人の世界に入ってる間に、リアカー引き要員として連れてこられたらしい高尾くん(秀徳高校の一年生らしい)と仲良くなった。普通に練習して帰ろうとしてたのに黄瀬くんとあたしに会いに行くから、と言う緑間くんに無理やり付き合わされたらしい。いつも横暴で唯我独尊なあの性格をどうにかしてほしいと嘆いていた。あたしとしてはついでにあの特徴的すぎるなのだよ口調もすごく気になるところなんだけどな。

「大体今日ここに来たのも真ちゃんが『誠凛の女子バスケ部とやらがどんなものか確かめたくなったのだよ』とか言うから、」
「余計なことを言うな高尾」

とうとう黄瀬くんの相手をすることをやめてこっちへ近づいてきていたらしい緑間くんが高尾くんの愚痴をぴしゃりとはねのけた。その我が儘っぷりが許されてるのも今のうちだと思えよ、と忌々しそうに呟いた高尾くんの姿が誰かと重なった。日向キャプテンだ。クラッチタイムでスイッチ入っちゃったときの毒吐いてるキャプテンとよく似てる。キャプテンよりもちょっと軽い感じはするけど誠凛の中でも一番キャプテンにキレられてるあたしが言うんだからこれは間違いない。

「キミはだろう」
「え?あ、うん、そうだけど」

緑間くんがこちらへ向き直ったのを見るなり高尾くんは「俺リアカーのところで待ってるからなるべく早く来いよ」と言ってリアカーのほうへ歩いていってしまった。ちょっと待って黄瀬くんの次は緑間くんかよ。黄瀬くんのときも主に女子からの視線的な意味で結構きつかったけどこれもまた別の意味できつい。緑間くんの場合は見下ろしてくる視線が痛い。高尾くん……はあっち行っちゃったから何とかして黄瀬くん助けてほしい。

「緑間っち、もうちょっと優しくしてあげないとっちが困ってるっスよ」

助けてくれたのはいいけどっちって何だろう。黒子くんのことも確か黒子っちって呼んでたような。もしかしてあたし黄瀬くんに懐かれたのかな。

「キミは誠凛のマネージャーをしていると聞いたが」

無視だ。総無視だ。威圧的な目線はやめてくれたような気がするけど肝心の黄瀬くんのことは総無視しちゃってるよこの人。

「んー……マネージャーっていうか、女バスが部員少なくて試合出れないし暇だから、シュートとか教えてもらったり練習参加させてもらう代わりにマネージャーみたいなことやってるだけだよ。それがどうかした?」
「……いや、それにしてもよく喋るのだな」

あ、久しぶりにその台詞言われた気がする。

「ていうか何で緑間くんがあたしの名前知ってるの?」
「……誠凛の予選でセネガルからの留学生に持ち上げられていたのを見ていたのだよ」
「え!」
「緑間っちいつの間にそんなん見に行ってたんスか!オレ聞いてないっスよ!」
「言っていないのだから当たり前だろう」

また始まってしまった二人のやりとりを尻目にあたしはお父さんに持ち上げられて喜んでたあの日のことを思い出していた。あれを見られていたのか。恥ずかしい。

あのときは全然考えてなかったけど選手に抱っこされて喜んでる女子がいたらそりゃ『何だあいつ』って気にもなるよね。しかもマネージャーとしてベンチ座ってるときもすんごい騒いでたし。まさか名前まで把握されてるとは思ってなかったけど折角キセキの世代に興味もってもらえたのにそのきっかけがあんまりにもアホすぎてあんまり自慢できないかも。

「あれ、緑間っちもう帰っちゃうんスか?」
「目的は果たしたからな」

帰るぞ高尾、と言って当たり前のようにリアカーに乗りこんだ緑間くんが最後に振り返った。

「オレとキミは違うが、人事を尽くしていればいずれは運命にも選ばれるのだよ」

ちょっとよく分からないけどアドバイス的なものをくれた…ような気がする。あんな顔して意外に運命信者なんだ。というより向こうが年下のはずなのに最後までキミって呼ばれてたな。お前、とか言われるよりはましだけどあの子あたしが高二だって知ってたんだろうか。ただの喋りまくるちんちくりんだと思われてそう。

高尾くんに引かれながら帰く後ろ姿を見つめながら結局彼の目的とは何だったんだろうと考える。黄瀬くん然り緑間くん然り黒子くん然り、キセキの世代とやらが考えることはつくづく分からないことだらけだ。

っち、オレらも帰るっスよ」
「だからそのっちって何」
っちはっちっス!」

よく分かんないけど可愛いから許す。

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