Machine-gun Talk! 100

インターバル中に見たときの点差は39対39で同点だったはずなのに、最終クォーターの今の点差は63対49で秀徳が14点ビハインドになっているのを見て後ろに立つ黒子くんを振り返る。無言で首を横に振られて、コートの中の緑間くんに視線を落とした。秀徳のエースの緑間くんには無冠の五将じゃなくて赤司くんがマークについている。身長差、少なめに見積もっても15センチはありそうなのに、一度緑間くんにボールを持たせてしまえばスリーを決められてどんどん点差が開いていきそうなものなのに、そうなっていないってことは、もしかしてあの赤司くんが緑間くんを一人で止めてるってこと……?

にわかには信じられない。だけど実際に、赤司くんは緑間くんの動きをことごとく、それこそシュートからパス、ドリブルに至るまで、ことごとく動作に入った瞬間にボールをカットしていた。まるで相手の次の動きが先に読めているみたいに。でも、バスケでそんなことありえるんだろうか。野球選手にはその動体視力の良さからボールが止まって見える選手がいるらしいけれど、まさか赤司くんの目もそうだっていうんだろうか。でも、そうじゃないと今のこの状況は説明がつかない。未来を見渡す眼。これまでも伊月くんのイーグルアイや高尾くんのホークアイに代表される特別な眼を持った選手には会ってきたけれど、彼らはあくまでも視野が広いというだけで、相手の動きを先読みして封じてきたりはしなかった。赤司くんの持つ眼は、あの二人の持つ眼を遥かに上回る、あの二人には出来ないことも出来てしまう。キセキの世代のキャプテン、赤司征十郎はそういう選手なのだと、…この試合結果が何よりも雄弁にそれを物語っている。

赤司くんのレイアップが決まった。20点にまで広がった点差に、「これはもう決まりか」なんて声が観客席から聞こえてくる。残り時間はもう6分しかない。…6分で20点差を詰めるためには、少なく見積もってもスリーポイントシュートを7本は決める必要がある。そんなことが出来るのは、今コートにいる選手の中で緑間くんだけだ。でも、緑間くんには赤司くんのマークがついてる。

赤司くんに抜かれた後、コートの中で尻もちをついたままだった緑間くんの頭を宮地さんが叩いたのが見えた。…あ、緑間くんと高尾くんの顔つきが変わった。諦めるな、と大坪さんが声を張り上げている。…緑間くんも、最初会ったときは本当にスリーポイントシュート撃つだけの精密機械って感じだったのに、あんな顔も出来るようになったんだね。

「緑間君達はまだ、諦めていません」

そうだ。あたしたちをあれだけ苦しめた秀徳が、大坪さんや宮地さんや木村さんや高尾くんが、そして緑間くんが、ここで終わるわけがない。だってまたウィンターカップでやろうって約束しちゃったんだし。しかもそれを言ってきたのは他でもない緑間くんだ。そんなこと言ったのなんかもう忘れた、なんて、絶対に言わせてやらないんだから。

高尾くんがボールを持ったまま、秀徳はまだ動き出す気配を見せない。ここまで慎重な動きを見せるってことは、木吉くんが言うようにこれから秀徳がやろうとしていることは相当リスキーなんだろう。彼らがボールを持てる時間は残り9秒。何をやろうとしているのかは全然見当もつかないけど、動き出すとしたらそれは、…やるしかないと覚悟を決めたときだ。

残り3秒、ボールはまだ高尾くんの手にある。なのに、緑間くんがシュートモーションに入った。もう一度言おう。ボールを持ってもいないのに、緑間くんがシュートモーションに入ったのだ。

どよどよと辺りにどよめきが広がっていく。空中で構えた緑間くんの手に、高尾くんからのパスが入った。ちょっと待って、まさかそのままスリー撃つってこと……!?

そのまさかだった。緑間くんの手から放られたボールが高い弾道を描いてゴールに吸い込まれていく。呆然とする洛山に、度肝を抜かれたギャラリー。ガッツポーズをする秀徳の選手の姿が見える。開いた口が塞がらなくなった。今、一瞬だったけど、とんでもないプレーが飛び出したよね…!?確かにあれだけ高かったらいくら赤司くんの反応が早くてもカットできないだろうし、緑間くんのあの超高弾道シュートの弱点はその長い溜め時間と弾数制限にあるって分かってるから、それならボールを持つ前から溜めの時間を作ってしまえばいいって、理屈は分かるんだけど。いやでも、そもそも空中で飛んできたボールを掴んでそのまま撃つなんて、思いついたとしても実際シューターが構えた位置にドンピシャでパス入れるなんて、そんなん出来るのってありえないと思うんだけど、

「信じられない正確さだ……!」

伊月くんが感嘆の声を上げるのを聞いて首がもげるんじゃないかってぐらいに頷いた。あの緑間くんが、テーピングや自主練やラッキーアイテムに至るまで、シュートを決めるために人事を尽くすことに余念がない緑間くんが、あんな、ほんのちょっとのミスで外れてしまいそうなシュートを撃つなんて。……そしてそれを可能にする正確無比な高尾くんのパスも。一体どれだけ練習してきたんだろう。どんな気持ちで、ここまでやってきたんだろう。

緑間くんがまたスリーポイントシュートを決めた。宙に構えた手にパスを入れたのはもちろん高尾くんで、「まるで秀徳の光と影だ」と日向キャプテンが黒子くんと火神くんに向かって言っているのが聞こえる。秀徳の光と影。それは多分、彼らに向けられた最大限の褒め言葉だ。パスを出す高尾くんと、それを受ける緑間くんが真剣な面持ちで試合の行方を見守る後輩の二人に重なった。

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