Machine-gun Talk! 101

常勝無敗と謳われた中学バスケットボール界の頂点、帝光中学校。そこに現れた五人の天才バスケットボールプレイヤー。それがキセキの世代で、今まさにそのキセキの世代同士、緑間くんと赤司くんの直接対決が行われている。帝光時代、その才能の大きさに体がついていけなくなることを危惧して全力を出すことを禁じられていたらしい彼らが直接本気で戦うのはこの試合が初めてで、つまり、赤司くんが緑間くんの超高弾道シュートを相手にすることも、緑間くんが赤司くんのエンペラーアイを体感するのも、初めてだということだ。

お互いの手の内は知っていても、決して直接戦うことはしなかった。その彼らが今、ウィンターカップという大舞台でお互いに火花を散らしている。本当は、緑間くんはこんな賭けじみたプレイをする人じゃない。いつだって自信満々に、「外すことなどありえない」とでも言いたげにスリーポイントシュートを撃つ背中を何度も悔しい思いをしながら見てきた。その彼があんなシュートを撃つなんて、こんな大きな賭けに打って出るなんて、やっぱり赤司くんのあの眼はそれほどの脅威ということなんだ。

秀徳の光の影にあんなプレイを見せつけられたというのに、赤司くんはまだその顔色を曇らせることなく淡々とプレイを続けている。さっきまでの涼しい顔とは少し違うけれど、なんだろう、あの顔は、楽しんでいるというか…「やっぱりそうこなくちゃな」とでも言いたげな顔だ。ボールを持った赤司くんの前に立つ緑間くんが態勢を崩した。そのまま赤司くんがゴールめがけて進んでいく。まずい、ここで決められたら点差が……!

一度倒れたはずの緑間くんが走っていた。それを見逃さない赤司くんがすかさずシュートからパスに切り替えて、ボールが無冠の五将の一人に渡る。状況判断が早い!だけどそれに食らいつく秀徳。大坪さんが執念で取ったボールが高尾くんの手に渡って、そして一閃。緑間くんのスリーポイントシュートが決まった。

点差は一気に10点にまで縮まった。緑間くんという天才シューターを擁する秀徳の、ここぞというときの爆発力は凄まじいものがある。一気に畳み掛けようとする秀徳に、もしかしたらどんでん返しがあるかもしれないと観客が浮き足立ったそのときだった。

赤司くんが自殺点を決めた。得点じゃない。自殺点だ。予測だにしていない展開に目が点になる。えっ今の、明らかにわざと自分のゴールに向かって決めたよね……!?

コートの端で呆気にとられていると、「僕がいつ気を抜いていいと言った。試合はまだ終わっていない」と赤司くんが自分のチームメイトに向かって声をかけているのが聞こえた。オウンゴールの衝撃に静まり返った会場に彼の声だけが静かに響く。

「もし負けたら好きなだけ僕を非難しろ。敗因は僕の今のゴールだ。全責任を負って速やかに退部する」

そっか、負けたら自分のせいにしてくれってことでさっきのオウンゴールを……。それにしてもやることが極端だ。全国大会の準決勝だからそれぐらい気合い入れて臨めってことなんだろうけど、それにしても、責任とか、負けたら退部とか、……やっぱり王者と言われる学校はそれなりに厳しいルールがあるんだろうか。誠凛がそんなチームじゃなくて良かったと思うと同時に、赤司くんという選手の恐ろしさの片鱗を見たような気がしてギュッと手のひらを握る。およそバスケの試合とは思えない緊張感を漂わせているコートの中へと視線を送ると、赤司くんがとんでもないことを言い出した。

「……そして罪を償う証として、両の目をくり抜いてお前達に差し出そう」
「!?」

えっ今あの人何て言った!?両目をくり抜いて差し出す!?何で!?バスケの試合で!?

「ちょ、火神くん何か物騒な言葉聞こえたんだけど本当にやんないよね……!?聞いてるこっちが怖いんだけど」
「あ、ああ……本当にはやらねーと思うけど、でも、アイツならやりかねねぇっつー危うさがあると思う……っすよ」

隣で青い顔をしながら試合を見ている火神くんに小声で話しかけると返ってきた言葉にホッと胸を撫で下ろした。そうだよね、本当にはやんないよね。でも、洛山の選手たちのあの焦りっぷりを見ていると、どうにも不安になる。たかが高校のバスケの試合の勝敗で、両目をくり抜くなんていくらなんでもやりっこない。そう分かっているはずなのに、何故だか赤司くんには火神くんが言うように彼ならやりかねないとこちらに思わせる危うさがあった。

その危うさを感じているのはあたしだけじゃなかったらしい。洛山の選手たちの顔つきが変わった。緑間くんの連続スリーポイントシュートが決まったおかげで縮まった点差がまた開いてきている。試合時間は残り4分。ここでこの点差をひっくり返すには、やっぱり緑間くんのスリーポイントシュートが必要不可欠だ。いくら赤司くんの眼が未来を視る目でも、あのシュートを止めるのは至難の技だろう。残り時間はもう少ない。固唾を飲んで見守っていると、「この試合はもう終わりだ」赤司くんの声がまた響いてきた。

「お前はもうボールに触れることすらできない」

勝利宣言とも取れる赤司くんの発言に目を見開く。……そしてそれが現実となるのを、「絶対は僕だ」と平然と言ってのける彼のその発言は正しかったのだと、残り4分で存分に思い知らされることとなることを、このときはまだ誰も知らない。

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