Machine-gun Talk! 99

準決勝前の控え室は皆どこか緊張した面持ちで、いつもの喧騒が嘘のように静かだ。あと2試合でウィンターカップが終わるなんて、何だか信じられない。だけど時間は確実に流れていて、秀徳と洛山の試合はさっき見たときは第一クォーターの終盤だった。そろそろ次の試合の、誠凛と海常のアップが始められる頃だろうか。呼びに来た降旗くんの後ろをついて控え室を出て試合会場に足を運ぶ。ちらりと見た得点ボードに表示されている点数は第二クォーターが終わった時点で39対39の同点だった。

……洛山って、高校最強でキセキの世代のキャプテンと無冠の五将が三人もいるっていうから桐皇みたいな超攻撃的チームかと思ったけど、秀徳とめちゃくちゃ良い試合してる。なんといってもキセキの世代同士の対決だ。この試合、あたしたちみたいな普通のプレイヤーには簡単には予測できないとんでもない何かが起こるんだろう。点差を見る限りは膠着状態みたいだけど、緑間くんのあの超高弾道シュートは弾数制限があるし、赤司くんって子はどんな強さなのかまだ未知数だし、試合が動くとしたらきっとこれからだ。

アップのためにコートに向かう誠凛の選手たちの向こうから洛山のメンバーが歩いてくるのが見えた。あ、朝の電車で監督を助けてくれたあの綺麗な人だ…!やっぱりあの人も洛山、それもレギュラーメンバーだったんだ。無冠の五将の一人なのかな。あとで日向キャプテンに聞いてみよっと。

洛山のメンバーがどんどん近づいてくる。写真を見なくたって分かる。今黒子くんに向かって「テツヤ」と言った、あの子が赤司くんだ。ユニフォームに4番つけてるってことはもしかして1年生でもうキャプテンってこと…?無冠の五将って確か全員2年生だったよね?それ以外にも3年生もいるはずだよね?なのにあの子がキャプテンなんだ。さっきちらっと試合見た感じだとそんなに型破りな選手って感じもしなかったんだけど、相当なキャプテンシーを持ち合わしてるってことなんだろうか。確かにオーラはめちゃくちゃあるけど。うちの火神くんと同じ1年生とは思えないくらい落ち着き払ってるけど。パスも凄い上手かったけど。でも、身長は全国区のバスケプレイヤーにしてはそこまで高くないし、キセキの世代の他のメンバーが体格も能力も桁外れっていうのはもちろんあるとしても、何というか、思ったよりも普通な感じだ。もっと怖い人なのかと思ってたけど、噂ではもっと恐ろしいプレイヤーかと思ってたけど、そうでもなさそうだ。高校最強、と聞いて警戒しすぎだったのかもしれない。そう思ったときだった。

赤司くんに肩を掴まれた火神くんが尻もちをついた。えっ今火神くん何されたの!?怪我してない!?慌てて駆け寄ろうとした足が、黒子くんに向かって言った赤司くんの声で止まる。

「お前の力を見出したのは僕だ。いずれそれを思い知ることになる」

ーーー射抜くようなその眼力に、秀徳と洛山の試合が始まる前に黒子くんと交わしたやりとりを思い出した。

「ね、黒子くんはどっちが勝つと思う?秀徳と洛山」
「どちらも強いのでどっちが勝つ、とは言い切れませんが……ボクの知る限り赤司君は、これまで負けたことがありません」
「そうなの?それもそうか、中学最強の帝光から高校最強の洛山に進んだんだから向かうところ敵なしって感じだよね」
「いえ、ボクが言いたいのはバスケの話だけではなくて……」
「ん?」
「この後、試合を見たら分かると思います」

試合を見なくたって、さっきの一瞬のやりとりだけでも分かる。赤司くんが只者じゃないってことも、パス回しが上手いだけのポイントガードじゃなさそうってことも。それに、さっき言ってたあの『黒子くんの力を見出した』っていうのは一体……?人を見る目があるってこと?それとも、そうじゃないまた別の意味があったりする?……ダメだ、考えすぎて混乱してきた。一旦やめよう。まずは目の前の相手、海常との試合に集中しないと。

パンと両手で頬を叩いて気合を入れ直す。降旗くんが呼びに来たってことは、もう秀徳と洛山の試合は第四クォーターまできてるってことだ。スポーツドリンクやテーピング、冷やした氷の入ったクーラーボックスを背負って会場へと足を向ける。ウィンターカップ6日目、誠凛の運命を決める準決勝まで、残り時間はあとわずかだ。

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