Machine-gun Talk! 103

創部2年目の無名のチームということもあって、これまでの誠凛の試合といえば相手チームを追いかけるばかりだった。相手がどれだけ格上だろうと、キセキの世代が立ちはだかってこようと、走って走って食らいついて、そうしてここまで、日本一まであと一歩のところまで上り詰めてきたのだ。だけど、今日の試合はそんなこれまでの試合とは全く異なる展開になる。黄瀬くんにパーフェクトコピーを出されてしまう前に、何としてでも逃げ切らなくちゃいけない。悔しいけれど今のあたしたちでは、黄瀬くんのパーフェクトコピーを止める術は持ち合わせていないからだ。

誠凛と海常のスタメン同士が並んで挨拶を交わしているのをベンチから見守る。…海常とは何だかんだで春頃からの付き合いになるけれど、こうして公式戦でやるのは初めてだ。緑間くんと初めて戦ったときから、キセキの世代には何度も絶望を味わわされてきたけれど、今感じているのは絶望なんかじゃない。ずっとずっと戦いたいと思っていた相手との、念願の勝負の瞬間だ。これでテンション上がらない人の方がどうかしてる。マネージャーのあたしさえこうなんだから、コートに立つ選手たちの昂りは一体どれくらいのものなんだろう。想像しただけで武者ぶるいが止まらなくなる。

さっきの黒子くんも言っていたように、選手たちはもうワクワクしすぎて試合開始が待ちきれないらしい。火神くんに向かって「あの日生まれて初めてゲームに負けた悔しさ、今日まで一日でも忘れたことねぇっスよ」と言う黄瀬くんの目にはギラギラとした闘志の炎が燃え上がっている。そしてそれは火神くんや黒子くんたちだって同じだ。

「僕は一方的ですが……あの時からずっと、黄瀬くんのことを好敵手だと思ってきました」

その言葉に黄瀬くんが目を見開いたのが見えた。

「……まいったな。良いイミどころか……最高に燃えるんスけどそーゆーの!!」

一言一句、黄瀬くんの言葉に完全に同意したい。試合開始前からこんな熱いやりとりされちゃ、ベンチだって盛り上がらざるをえない。そうそう、これだよこれ。やっぱりバスケはこうじゃなくっちゃね!

先手必勝、開始から攻めまくれ!監督のその言葉通りに試合開始早々に黒子くんのバニシングドライブが炸裂する。早川くんを抜いた黒子くんが森山さんのブロックをすり抜けてファントムシュートを決めた。身内ながら、鮮やかすぎる…!さっきまでの秀徳と洛山の試合で帝王の風格を見せつけられて、「やっぱり高校最強は洛山だ」なんて思ってるギャラリーにぶちかましてやるのには十分すぎるインパクトだ。誠凛が誇る影、幻のシックスマンはそうでなくっちゃ。

鮮やかに決まった先制攻撃に皆と一緒にガッツポーズをしていると、ヒュオッと音を立ててボールが誠凛サイドのゴールに吸い込まれた。高い弾道でボールを投げたのは黄瀬くんだ。……ちょっと、嘘でしょ。

「誰がいつ丸くなったって?」

開始早々にぶちかましてやる。そう思っていたのはうちだけじゃなかったらしい。初っ端からパーフェクトコピーを出してきた黄瀬くんに「上等だ!」と笑う火神くんは頼もしいけれど、こっちからすれば全然上等じゃない。強大だからこそ時間制限がある。スタミナ切れを恐れて序盤では使ってこないはず。そう踏んでいたからこその先行逃げ切り型作戦だったのに、あっちも最初から全力全開じゃこっちも対応の仕方考えなくちゃいけないじゃん!

緑間くんの正確無比なシュートに、青峰くんの敏捷性、紫原くんのパワープレイ。…そして、つい先ほど準決勝一戦目を見守る全員を震え上がらせた赤司くんの天帝の眼。一つだけでも手に負えないっていうのに、黄瀬くんのパーフェクトコピーの恐ろしさはそれらを複合できるところにある。キセキの世代をいっぺんに5人とも相手にしているようなものだ。こっちからしたらたまったもんじゃない。この力が一つのチームに揃っていた帝光中学が最強と謳われたのも、黄瀬くんに好き放題されている今なら首がもげる勢いで頷ける。

「やられた……!」

隣に座る監督が唸った。今の黄瀬くんに対抗できるとしたらゾーンに入った火神くんだろうけど、今までの傾向から言って試合開始直後に火神くんがゾーンに入ることはまずない。パーフェクトコピーを使って誠凛を突き放すにはベストなタイミングだ。おそらく制限時間の5分を使いきりはしないだろうけど、このままだとどんどん点が離されていってしまう。

とはいえ、やられっぱなしで黙っていられるようなチームじゃない。黒子くんがファントムシュートの体勢をとった。突破口があるとするならここだ。なんてったってあの紫原くんでも止められなかったシュートなんだし!決めちゃえ黒子くんー!

ドカッと音を立てて宙に放ったボールが黄瀬くんに弾かれる。ボールは見えていなかったはずだ。なのに止められたってことは、赤司くんの目と紫原くんのパワーで力ずくで止めにきたってことか……!驚いて立ちすくんだままの黒子くんに火神くんが「大丈夫か?」と声をかける。

「やっぱり黄瀬くんはすごい……完全に僕の負けです。手強すぎて笑っちゃいますね」
「ちょっと黒子くんそこ笑ってる場合じゃなくない!?」
「そうよ、ボケッとしてたらまた顔にもみじ付けてやるわよ!ついでだからさんも一緒にね!」
「それあたし完全にとばっちりだよね!?」

ウィンターカップ準決勝まで来ておいて、顔にもみじ付けられるのなんか絶対嫌なんだけど!よりにもよって今日の相手海常だし!笠松さんいるし!そんな姿絶対に見せたくない……!

もみじ付けられたくないのは選手たちだってきっと一緒だ。だから、黄瀬くんを、そして海常を止める術を何としてでも見つけないと。でも、時間制限以外に弱点なんて一つもないように見える、文字通りのパーフェクトなあの技に、抜け穴なんてあるの…?ぐるぐる考えている間に点差は15対2になってしまっていた。まだ開始3分しか経ってないってのに、もう15点。全力全開のときの得点力は紫原くんと同じか、もしかするとそれ以上だ。とりあえずちょっと休憩、とパーフェクトコピーを止める素振りを見せた黄瀬くんに、内心ちょっと安心してしまった自分に喝を入れたくなった。…本人が言うように、持続時間はまだ2分ちょっと残ってるはずなんだ。試合後半で必ずまた出してくるはず。そのときまでに突破口を見つけないといけない。ライバルならライバルらしく、正々堂々と戦ってみなくっちゃね。

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