Machine-gun Talk! 106

勢いに乗り始めた誠凛と、磐石の構えを見せる海常のエース対決は火神くんの勝ちに終わった。こうしてウィンターカップで次々キセキの世代と試合してると思うんだけど、火神くんよくあの人たちと互角に戦えるよね。毎回毎回天才と天才が全力でぶつかり合うのを見せつけられて、こっちの心臓がいくつあっても足りないんだけど。

誠凛に押され始めた海常が黄瀬くんをメンバーチェンジさせた。ようやくエース対決に火がついてきたところだったのに、とギャラリーからざわめきが起こる。黄瀬くん、福田総合とやったときも調子悪そうだったけどやっぱり足ちゃんと治ってなかったんだ……!

気合でなんとかしてみせると抗議する黄瀬くんに笠松さんが「それを言い訳にはできねーんだよ」と言ってる声が聞こえる。

「そーゆーもん全部ひっくるめたのがゲームだ。勝負には関係ねぇ」

………。笠松さんが言ってることはもっともだ。黄瀬くんがいなくなって火神くんが絶好調の今は間違いなく誠凛にとってチャンスで、そこを突かない手はない。笠松さんが言う通り、そういうのも全部ひっくるめてバスケのゲームなんだから、逆にそれを利用しないと誠凛がエースを欠いた海常に同情して手を抜いてるってことになる。それこそナメてるって思われても仕方がないことだ。

黄瀬くんがこのまま引き下がるとは思えないけれど、パーフェクトコピーの時間制限のこととかも考えると戻ってくるのは試合終盤だろうし、火神くんと木吉くん中心で攻める方針は間違ってないだろう。今はまだこっちが負けてる点差も、きっとすぐに縮まるはずだ。黄瀬くんという一番の脅威がいなくなった今、誠凛には間違いなく追い風が吹いてる。

なのに、どうにも落ち着かない。この胸騒ぎは一体何なんだろう。

恐ろしいくらいのスピードで成長し続ける火神くんを、怖いと思ったことがないと言えば嘘になる。チームメイトですらも追いつけないくらいのスピードでどんどん遠くへ行ってしまう火神くんの背中をなんとも言えない気持ちで見守るのはもう何度目になるだろう。帝光で黄瀬くんの教育係になったのにすぐに追い抜かれてしまった、と言っていた黒子くんもこんな気持ちだったんだろうか。こうもコートの中で輝いている姿を見せつけられると、考えずにはいられなくなる。…もしかしたら、出会う順番や場所が違っていたら、火神くんもあの『キセキの世代』の一員だったのかもしれない、と。

笠松さんに黒子くんの幻影のシュートを破られてしまった。黄瀬くんがベンチに下がったことで海常の戦力が低下するんじゃないか、と一瞬だけでも思ってしまった自分が恥ずかしい。むしろ逆だ。海常の士気は全然下がってなんかない。黄瀬くんと交代で出てきたあの選手のディフェンスは一級品だし、早川くんは相変わらずリバウンドに気合十分だし、笠松さんや森山さん、小堀さんは着実に点を決めてきている。

でも、そんな海常を物ともせずに、火神くんが怒涛の勢いで点をもぎ取っていく。第二クォーター終盤、とうとう同点にまで追いついた。エースの活躍で他のレギュラーの皆も流れが良くなってきてる。そしてその勢いは第三クォーターに入っても留まるところを知らない。

笠松さんのトップギアのフルドライブを伊月くんが捕らえた。だけど、弾かれたボールに笠松さんが意地で食らいついて、……なんか無理やり決めたー!えっ今の笠松さん一歩間違えたら怪我するとこだったと思うんだけど、……凄い。危うくも執念で点を決めた海常にギャラリーがワッと湧く声が聞こえる。

「海常ナメんじゃねぇ!!」

……そうだ。あたしは海常の、そして彼らを引っ張る笠松さんの、こういうところに選手として憧れたんだった。

誠凛との再戦に執念を燃やしているのは笠松さんだけじゃない。小堀さんが木吉くんからファウルをもらいながらダンクを叩き込んだ。しまった、という顔をする木吉くんに小堀さんが「君はオレよりずっと優れた選手だ」と話しかけているのが聞こえる。

「ただ勝ちたいだけの奴に負けるものか……!」
「………」
「なんか言い返せよ!ダァホ!言いたい放題言われたあげく黙り込んでんじゃねえ!」

そうだそうだ、昨日みんなと話してたこともう忘れちゃったわけ?今回ばかりは日向キャプテンに全面的に同意。さっきの木吉くんの「あんまりにもっともだったんでつい……な。強いわけだと思ってさ」という発言が相当カチンときたらしく、日向キャプテンは鉄心鉄心と連呼している。とうとう我慢できなくなったらしい木吉くんがキレた。

「『鉄心』って言うな!『鉄心』って言うやつが『鉄心』なんだぞ!」
「何言ってんだイミわかんねーよダアホー!」

喧嘩してる………。キャプテンと木吉くん、試合中だってのにギャンギャン喧嘩してるんだけど……。呆れた顔をする二年生と一緒にやれやれと頭を抱える。最近黒子くんと火神くんがようやく喧嘩しなくなってきたと思ったら今度はこっちか…。まあ元々バスケ以外全然噛み合ってなかったもんね。普段あんなに凸凹なのに試合になると息が合いだすの本当に不思議なんだけど、まあ、喧嘩するほど仲が良いってことなんだろうな。

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