Machine-gun Talk! 109

黒子くんが今度こそパーフェクトコピーの突破口を見つけた。黄瀬くんの使う技はどれも強力だけど一つ一つはこれまで戦ってきたキセキの世代と同じで、それを組み合わせたり使い分けたりすることが出来るのが黄瀬くんの最大の武器だ。そして誠凛にはキセキの世代と互角以上に渡り合ってきた、もう一人のキセキの世代と呼んでも最早遜色ない選手がいる。火神くんだ。

黄瀬くんが次に出す技がどれなのかあらかじめ予測することが出来れば、火神くんであれば止められるかもしれない。……バスケの試合で相手の選手の次のプレーを予測するなんて至難の業だけど、これまでにも幻のシックスマンとして色んな人を観察してミスディレクションとパスの技術を磨いてきて、中学時代は黄瀬くんと一緒にプレーしてきた黒子くんになら、おそらくそれが出来る。出来なければ誠凛の負けだ。だからきっと、黒子くんは何がなんでも黄瀬くんを火神くんが止めやすいプレーに誘導しようとするだろう。試合時間は残り2分。ここまできたら、あたしたちに出来ることは黒子くんと火神くんを信じることぐらいしかない。

黄瀬くんがフリースローを2本とも決めて、点差は5点にまで縮まった。もういつ海常に逆転されてもおかしくない状況だ。それに、黒子くんに黄瀬くんを観察させる時間を作るってことは、わざと黄瀬くんのいる方にボールを集めるってことだ。それでみすみすやられちゃったらこの作戦の意味がない。だから頼んだよ黒子くん、火神くん……!

黄瀬くんを相手に火神くんが最速のフルドライブで抜きにかかった。あのスピードから一気に止まるって、味方ながらどんな脚力してるんだろう。あたしだったら絶対ケガしてるよ。だけど火神くんがいくら速くても黄瀬くんもそう易々と抜けるような選手じゃない。紫原くんのブロックで弾かれたボールを火神くんがもう一度触って、あ、まずいコートの外にボール出ちゃう……!

日向キャプテンが執念でボールをコート内に戻した。勢い余ってベンチに突っ込んできたキャプテンに皆で一斉に駆け寄る。「大丈夫だ」って、口から血出てるし!全然大丈夫そうに見えないんだけど!とりあえず絆創膏渡しとけばいいかな!?

「口ちょっと切っただけだ。心配すんな」
「で、でも日向キャプテン……」
「絆創膏押し付けてくんじゃねえよ大丈夫だっつってんだろ。……って何だこの柄」
「え?こないだつっちーと水戸部くんと商店街行ってガラガラ引いたときに当たったゆるキャラだけど」
「こんなモン顔に付けられるか恥ずかしい!」
「あー!ちょっとキャプテン絆創膏床に投げつけないでよ3枚ぐらいしかない貴重なやつなんだからそれ!」

仕方ないじゃん無地の絆創膏ちょうど切らしてたんだし!キャプテンいつも試合中眉間にシワ寄ってて顔怖いからこれでちょっとでもギャラリーへの印象和らいでくれたらいいなって思ったんだもん。余計なお世話って言われるような気は最初っからしてたけど!

あたしとキャプテンのやり取りを心配そうに見守っていた黒子くんに向き直った日向キャプテンが「それよりお前は自分のやるべきことをやれ」と言った。続けられた「信じてんだからよ」の言葉に全力で頷く。誠凛が誇る光と影のこと信じてるなんてもう今更だろうけど、不安に思うなら何度だって言ってあげるから、黒子くんたちは何も気にせず自分のやるべきことに集中してほしい。チャンスを呼び込むための応援なら先輩のあたしたちがここから全力でやってあげるからね!

日向キャプテンのさっきのプレーを始めとする、誠凛の諦めない気持ちが観客にまで伝わったんだろうか。いつの間にか海常コールだけじゃなく誠凛コールも体育館に響くようになっていた。……やっぱり応援されてるのって元気出るなぁ。それもこれも今試合出てる皆が「勝ちたい」って気持ちを前面に押し出してプレーしてるおかげだよね。声援に応えるようにして、パーフェクトコピーを使いまくる黄瀬くんに誠凛は驚異的な粘りを見せた。だけどそれでも黄瀬くんの力はあまりにも強大で、残り40秒で点差は78対77。とうとう海常に逆転を許してしまった。きっとこれが最後のタイムアウトだ。皆の意思を確認するラストチャンスになる。

黄瀬くんのプレイの傾向がかなり掴めてきたと言う黒子くんに安心したのも束の間、「お願いがあります」と言った黒子くんに皆で顔を見合わせる。あたしたちも大概黒子くんと火神くんには無茶やらせてきたけど、黒子くんも結構さらっとしんどいこと要求してくるよね。けど、それしかもう打つ手がないのも確かだ。残り僅かな試合時間、出来ることは何だってやらないと。

いつもの調子で「楽しんでこーぜ」と言った木吉くんの言葉に、にんまりと微笑んだ。キセキの世代との試合っていつもこんな感じで最後まで気が抜けないからつい張り詰めちゃいそうになるけれど、バスケの試合で大事なのは勝ちたいって気持ちと、何より今プレイしてる試合を楽しむことだ。それを教えてくれたこのチームなら、残された時間が40秒もなくたって黄瀬くんを何とかしてくれるはずだって、出来ないわけがないって、あたしはそう思ってるから。だから何も不安に思うことなんてない。頼んだよ、の意味を込めて黒子くんと火神くんの背中をバシンと叩く。

いつか黒子くんが言ってくれたみたいに、負けたらどうするかなんて後から考えればいい。だからさ、そんな申し訳なさそうな顔しないでよ。どう転んでもこの試合はもう残り40秒しかないんだから、この後の試合時間、うんと楽しんでこーぜ!

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