Machine-gun Talk! 110

試合再開、誠凛は得意のランアンドガンで攻めていくことに決めた。残り40秒で1ゴール決めて、そして海常に点を決めさせなければ誠凛の勝ち。外して1ゴールも決められなかったら海常の勝ちだ。この局面でわざわざ慎重さを捨ててカウンターをかけるなんて、ヤケクソになったように見えるかもしれない。だけど、海常相手に勝つためにはこうするしかないんだ。

予定通り木吉くんから日向キャプテンへパスが回される。だけどキャプテンはスリーを撃たなかった。森山さんをかわしてドリブルをするキャプテンの前に黄瀬くんが立ちはだかる。速い。青峰くんの超速ヘルプだ……!

黄瀬くんの手がボールを捉えるその一瞬、ほんの少しの差で黒子くんがボールを弾いた。弾かれたボールは火神くんの手に渡って、ゴールに向かってボールが放られる。入れ、入れ、入れ、……入った!

『逆転ーー!!』と叫ぶ実況の声が聞こえる。残り26秒の土壇場で、誠凛が再び試合をリードする形になった。ベンチの皆と一緒になってガッツポーズをする。やっぱり誠凛の皆は凄い。あとは、死に物狂いで点を決めようとしてくるだろう海常を、誠凛が止めるだけだ。口で言うのは簡単でも、そう簡単に止められる相手じゃないってことはもう十分すぎるくらい分かってるけど。

黒子くんが黄瀬くんのマークに付いた。青峰くんのスピードでスティールをかわした黄瀬くんが赤司くんのエンペラーアイで火神くんを抜いて、紫原くんのトールハンマーで止めを刺そうとする。ゴール下には日向キャプテンと木吉くんがいるけれど、あの紫原くんの技はあまりにも強力だ。真正面からじゃ止められないかもしれない。……そう、そんなことは百も承知の上だ。何てったって、黄瀬くんがそうプレーするようにこっちが仕向けたんだから。

黄瀬くんの手から伊月くんがボールを弾いた。イーグルスピアのタイミングはドンピシャ、ここまで全部が黒子くんの狙い通り。だけど一つだけ、想定以上だったのは、黄瀬くんがもう帝光時代のワンマンプレイばかりだった黄瀬くんじゃなく、海常のエースの、チームのために戦える選手として成長した黄瀬くんだったってことだろうか。

黄瀬くんが弾かれたボールを笠松さんに向かって投げた。前の青峰くんとの試合で黄瀬くんはパスが原因で敗れてるのに、それでもやっぱりこの局面でパスを出すのか。パスを受け取った笠松さんがキッと誠凛側のゴールを睨む。

海常サイドの「決めろ笠松ー!!」の声に口元を少しだけ緩めた笠松さんがシュートを放った。憧れて、尊敬してやまない笠松さんのシュートが外れればいいと願うことなんて、もうきっとあたしの人生には二度と訪れないだろう。だけど今回ばかりはそう願ってしまった。ウィンターカップ準決勝、誠凛の全力のディフェンスを受けながらそれでも最後まで力を振り絞ってパスを出したエースの気持ちに、あの笠松さんが応えないわけがないって、多分ここにいる誰よりもあたしが理解しているはずなのに。

笠松さんのシュートが決まる。誠凛は再び海常に逆転を許した。残り4秒、固唾を飲んで見守るベンチで両手の手のひらをぎゅっと握る。タイムアウトのとき、海常でチームプレイを覚えた黄瀬くん相手にはどうしてもプレイを絞りきれないと謝りながら「ここまで手がつけられなくなるとは思いませんでした」と薄ら笑って言った黒子くんの言葉を思い出した。本当に、ライバルに塩を送るのは結構だけどそれが後々自分たちの首を絞めてたんじゃどうしようもないよね。いつだってバスケに全力な黒子くんのことだから、本当に黄瀬くんにはチームのために戦える選手になってほしいと思ってやったことなんだろうけど。過ぎたことを悔やんだってしょうがない。止められないのなら、点を決められた後にどうやって取り返すかを考えるだけだ。


木吉くんの「走れ火神ー!!」の声と一緒に火神くんが海常ゴールに向かって走る。何のために慎重になるべき場面でヤケクソとも思えるランアンドガンで攻めたのか、それは、こうやって火神くんに試合の最後で点を決めさせるためだ。だけど全力で走る火神くんに黄瀬くんが追いついた。速い。速すぎる。残り時間はもう2秒しかない。ドリブルでかわしてる時間はない。ここでシュートを決めなきゃ、誠凛は海常に逆転されたままだ。だから、お願い火神くん……!

火神くんがゴールに向かって跳んだ。前の陽泉との試合のとき一回だけ成功したあの大技、流星のダンクだ。だけどあのときの火神くんは紫原くん相手にゾーンに入っていたはずで、今の火神くんはゾーンに入ってない。しかもボールを持っている手は利き手じゃない方の左手だ。このシュート、成功しないかもしれない。ごくりと唾を飲み込んだそのとき、黒子くんが大きく火神くんを呼ぶ声がコートに響いた。

ゴールにボールをわざとぶつけて跳ね返らせるという荒技で火神くんが黒子くんにパスを出した。黒子くんの手から放られたボールがゆっくりと軌道を描いてゴールに吸い込まれていく。ボールがゴールをくぐったちょうどそのとき、試合終了の笛が鳴った。黒子くんの、ブザービーターで試合が決まったのだ。弾かれたように誠凛ベンチから立ち上がって呆然とする黒子くんに皆と一緒になって飛びついた。二年生とハイタッチをしながら黒子くんの頭をわしゃわしゃと撫でる。

さん、あの、ちょっと……苦しいです」
「何言ってんのこんなんじゃ全然まだ足りないぐらいだよ!黒子くんと火神くんならやってくれると思ってたけど、ブザービーターまで決めちゃうなんて今日のヒーローじゃん!ヒーローならヒーローらしく先輩からの感謝の気持ちを受け取りなさい!」
「ブザービーターとこうして頭を撫でられるのは関係ないと思うのですが……」
「そんな硬いこと言わないの!ほらほら、黒子くんの後で火神くんもやってあげるからそこで並んで並んで!」
「ぜってーイヤっす」

あっ、逃げられた。黒子くんと火神くんが逃げた先にいた黄瀬くんが「完敗……スわ!」と言いながら火神くんに手を差し出すのを見て、まだ両チームの握手と挨拶が終わっていなかったことに気付いてコガくんたちと一緒にベンチに戻る。

「もういっそ優勝しちまえ!」と日向キャプテンに向かって言った笠松さんにカッと胸が熱くなった。試合で使った氷や空になったボトルを片付けている間に、ギャラリーに向かって一礼した海常の選手達がコートから出ていこうとしているのが見える。

「今日はありがとうございました!」と声を出しながら手を振ると、笠松さんがほんの少しだけだけど口元を上げて微笑んでくれた。嬉しくなってブンブンと腕を振る。足が震えている黄瀬くんに笠松さん達が肩を貸しながら海常のレギュラーメンバーが体育館を後にする。負かしたこっちが言っていい台詞なのかは分かんないけど、海常ってさ、ほんとに良いチームだよね。「また来年勝負っス」と全部を出し切ったような顔をして黒子くんに言ったときの黄瀬くんの表情を思い出しながらそう思った。

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