Machine-gun Talk! 113

「あっもしもしまこっちゃん?あんた無冠の五将の一人ってことは洛山の三人と知り合いなんでしょ。あの人たちの弱点とか知らない?」
「はぁ?」
「試合前の情報収集もマネージャーの仕事の一環かと思って調べてたんだけど、雑誌とかに載ってんのドリブルとかリバウンドとかシュートとかの得意なことばっかりでさぁ。洛山ってほら、高校最強だから負けた時はおろか苦戦した時のデータすらないし。花宮だったら中学時代のあの人たちのこと知ってんじゃないかと思って」
「知っててもお前に教えるわけねぇだろ、つーか何でオレの番号知ってんだ」
「今吉さんに教えてもらった」
「……チッ、あの人も余計なことを……。オマエらの試合、今日の17時半からだったか?」
「そうだけど。なに、会場まで応援しに来てくれんの?」
「んなわけねぇだろバァカ。せいぜい負けてテレビ取材されたときの予行練習でもしとけよ。あとオマエに番号知られてんの気持ち悪ぃからこれ切ったらすぐにオレの番号消せ」
「ちょ、待って花宮……!」

ブチッ。ほんとに切られた。電話越しでも分かるくらいめちゃくちゃ不機嫌だったなアイツ……。いやでも花宮が不機嫌なのっていつものことのような気もする。うん。多分平常運転だから気にすることなさそう。

海常と秀徳の3位決定戦は秀徳の勝利に終わった。いよいよ決勝戦が、誠凛と洛山の試合が始まる。体育館はこれまでに見たこともないぐらいの数のギャラリーで埋め尽くされていて、あまりの盛り上がりぶりに唖然とした。さっきまで試合やってた海常と秀徳以外にも、ちょこちょこ見たことある顔の人がいる。みんな応援しにきてくれたんだ。いや誠凛の応援とは限らないけど。洛山の方かもしれないけど。

それにしても、青峰くんや紫原くんまで見にきてくれてるとは思わなかったな。それだけ彼らもかつて自分たちを率いたキャプテンと窮地を救ってきたシックスマンの対決の行く末が気になるってことなんだろう。……あれ?よく見たら霧崎第一もいるじゃん。行くわけねーだろって言ってたくせに、アイツも素直じゃないんだから。目が合った花宮に向かって「ちゃんと試合見てけよ」の意味を込めてグッと親指を立てると露骨に嫌そうな顔をされた。口パクでなんか言ってる。死ねって言ってる!電話でもそうだったけどアイツ、誠凛に負かされてちょっとは丸くなったかと思ったけど全然じゃん!相変わらず悪童じゃん!丸くなるどころか絶好調じゃんむしろ!

観客席に座ってニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべている花宮を睨みつけていると、アップを終えてお茶を飲んでいた伊月くんに肩を叩かれた。

何してるんだ、試合始まるぞ」
「あっごめんごめんすぐ行く」

確か決勝戦だけ試合前に両チームのスタメンの紹介があるんだよね。合わせて監督も紹介されるって聞いたけど、もしかしてマネージャーもかな?それじゃひょっとしてあたしのテレビデビューもありえる?どうしよ、髪型とか変じゃないよね?監督と一緒に日向くん家で整えてもらえばよかったかも。

いそいそと前髪を整えていると、試合がまもなく開始されることを知らせるブザーが鳴った。恒例となった円陣を組むためにベンチから立ち上がる。女バスのときは部員1人だったから円陣なんて逆立ちしても組めなかったけど、やっぱりこういうのって公式戦前って感じでテンション上がるよね。さっき降旗くんたちが黒子くんにリストバンド渡してたし、みんな闘志はみなぎってるけど緊張しすぎた感じもしないし、もしかして絶好調なのは誠凛もなんじゃない?肩を組み合う選手の顔を見て、心の中でうんうんと頷く。試合結果がどっちに転んでも、今年のウィンターカップはこの試合で最後だ。相手が例え向かうところ敵なしの帝王であっても、あたしたちは普段通り全力で立ち向かっていくしかない。

……ほ、本当にマネージャーとしてたくさんの人の前で紹介されてしまった。名前を呼ばれた瞬間、自分も男バスの一員として認められてるんだ、と不覚にもジーンときてしまって、立ち上がって一礼するタイミングを逃してわたわたしているところを監督にこっそり小突かれ恥ずかしさで顔から火が出そうになった。監督は同い年なのにこういうときまったく動じなくて凄いなぁ。さすが出来たばっかりの誠凛バスケ部を全国まで導いただけのことはある。

わ、選手の皆への声援が凄い。予選の頃は創部2年目のルーキーとしてしか扱われてなかったのに、もうすっかり期待の注目株って感じだ。それでもやっぱり洛山のスタメンへの声援は誠凛以上で、彼らへの注目度と期待度の高さを嫌でも思い知らされてしまう。本当にやるんだ。洛山と試合。高校バスケットボール界最強ともっぱらの噂の、ディフェンディングチャンピオンを打ち負かす機会がとうとうやってきたんだ。どうしよう、武者震いか何か分かんないけど身体の震えが止まんなくなってきた。監督に抱きついちゃってもいいかな?

自分が試合に出るわけでもないのに緊張のあまり口から心臓が出てきそうで、青い顔をしていると「シャキッとしなさい」と隣に座る監督に背中を叩かれる。痛い。……でもおかげでちょっと落ち着いた。いつもいつもベストなタイミングで気合を入れ直してくれる相田監督には本当に頭が上がらないや。王者らしく貫禄に溢れてる洛山からのプレッシャーが凄いけど、こっちだって日本一になるための気合は十分なんだ。火神くんが慣れないジャンプボールを飛んで、誠凛側ボールになったのを黒子くんがイグナイトパス(しかも廻の方)で日向キャプテンにパスするくらいには。

……って、廻の方って確か火神くんしか取れないやつじゃん!いくら何でも気合入りすぎだって黒子くん!

黒子くんのパスを取り損ねた日向キャプテンが何とか決めようとしたシュートは実渕さんにブロックされて、洛山のごっつい8番の人が片手で決めようとしたシュートは火神くんがブロックした。開始早々から両者とも一歩も譲らない。そんな中でも一際闘志をギラギラと燃やしているのは火神くんで、あっという間に速攻の先頭に出て立ちはだかってきた赤司くんを前に跳ぶ素振りを見せた彼に目を見開く。まさかいきなりあの大技出すつもり……!?

そのまさか、火神くんが赤司くんの上から流星のダンクを叩き込んだ。ギャラリーと一緒になって呆気に取られる。確か前の試合のときは『試合開始早々にゾーンに入ることはまずない』って話だったはずなのに、嘘でしょ。やってくれるじゃん。

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