Machine-gun Talk! 114

「ど、どーすんのカントク!ねぇ!?」
「火神くんいきなりゾーン入るなんて聞いてないんだけどこのまま試合やらせるの!?」
「わかんないわちょっと待って!」

ベンチであわあわと慌てるあたしたちとは対照的に、火神くんはコートの中で落ち着き払っている。そんな火神くんが流星のダンクを二連発で決めた。見ているこっちがついていけないぐらいのスピードでオフェンスとディフェンスの両方を繰り返す火神くんを追いかけるだけで目が回りそうになる。確かにこの試合、洛山に勝つためには火神くんにはゾーンに入ってほしいって、期待してなかったと言えば嘘になるけど。でも、試合の序盤からこれほど圧倒的な攻撃力を見せつけられるとは。想定外の事態だ。

監督が水戸部くんと黒子くんを交代させることに決めた。洛山に勝つためには火神くんには是非ともゾーンに入ってほしいとは思っていたけれど、青峰くんでもあるまいし狙って入れるようなものでもなし、だからこそ試合の初っ端から入るとは誰も思っていなかったわけで。でも、入ってしまったのならこれを使わない手はない。

火神くんをオフェンスに集中させて、ディフェンスは二年生中心で勢いの止まらない火神くんの背中を守る。これが今の誠凛に出来る最強の戦い方だ。やる気満々でコートに出て行った黒子くんには悪いけど、後から絶対また出番あるからそんな凹んだ顔しないでよ。ほらほら、ドリンク飲んでちょっとでも体力チャージしといて。何ならマッサージでもしとく?と訊ねると「いりません」と返されて、相変わらずのつれない態度に「そうこなくっちゃ」と顔がほころんだ。

ゾーンに入った火神くんは絶好調そのもので、普段全然やらないはずのスリーポイントシュートまで決めちゃう活躍っぷりだ。そんな火神くんの勢いに後押しされるように、二年生のディフェンスも相手チームに付け入る隙を与えようとしない。試合開始から3分、誠凛の得点は早くも二桁に乗った。あの高校最強と謳われる洛山に、開始早々から9点差をつけてリードしている。とんでもない事態だ。……それは、このまま上り調子でいられたらの話だとはもちろん分かっているのだけど。

赤司くんが火神くんのマークについた。20センチ近い身長差があるとはいえ、あの緑間くんさえ止めた相手だ。いくら火神くんがゾーンに入ってキレキレのプレーばかりを連発してるからといって、油断はできない。

火神くんが赤司くんを抜いた。……やっぱり、いくらあのキセキの世代の1人の赤司くんとはいえ無敵状態の誠凛のエース火神くんを止めるのは難し、ーーーーえ!?

全力でゴールに叩き込まれたはずのダンクが外れた。相田監督によると、赤司くんを避けるために一歩目の踏み込みが大きくなってドライブが膨らんでしまったらしい。そんな、そんなちょっとのズレだけでゴールから外れるような繊細な技だったんだあの技……。そりゃゾーンにでも入ってないと中々成功出来ないわけだ。ってことは、赤司くんはそれ見越してわざと火神くんに抜かせたってこと?キセキの世代の最後の1人としてどれだけ派手な技を繰り出してくるのかと思えば赤司くんは恐ろしいほど冷静で、あのキセキの世代のキャプテンをうちのエースが速さで出し抜いたと思って喜んでしまったその分、地獄へ全力で一気に叩き落とされてしまったような、そんな気分だ。そしてそれは試合に出ている選手の皆も同じだろう。

コートの外からでも火神くんが動揺しているのが分かる。あれ、確かゾーンって、雑念が消えて極限までプレーに集中した状態のときだけ入れるものなんじゃなかったっけ。……それじゃあ、今のこれって、誠凛にとってもまずいんじゃない?

赤司くんが火神くんを文字通り倒して誠凛側のコートへ入ってくる。すかさずヘルプに入った伊月くんのイーグルスピアもかわされて、ボールが実渕さんの方へ渡った。ダブルクラッチだ。まずい、決められるーー!

水戸部くんが実渕さんの手からボールを弾いた。間一髪。水戸部くんって本当目立たないけど毎回良いプレーするよね……!職人みたいだ。思い詰めたような顔をしている火神くんの肩をポンと叩いて何やら励ましているような水戸部くんの姿を見てしみじみそう感じ入っていると、「『ドンマイ気にすんな』だってさー!」とコガくんがコートの中にいる火神くんに向かって声をかけた。毎回のことだけど何で分かんの?

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