Machine-gun Talk! 116

「幻のシックスマンでなくなったお前はすでに並の選手の価値もない」

赤司くんの声って淡々としてるのに何でこんなにコート中に響いてくるんだろう。失望した、とかつてのチームメイトにはっきり告げる赤司くんの姿が前に試合したときの青峰くんと重なる。あのときも黒子くんは青峰くんの圧倒的な才能に打ちのめされながらも火神くんと一緒に立ち上がってくれたけど、今はあのときとは状況が違う。高校に入ってから、たくさん迷いながら磨いてきたはずの自分のバスケを全否定されたようなものだ。ショックとか、悲しいとか、そんな言葉で言い表せられるような状況じゃない。

おそらく監督は次のポールデッドで黒子くんを交代させるはずだ。そのとき、あたしは黒子くんに何て言葉をかけたらいいんだろう。「大丈夫だよ」はなんか楽観的すぎて違う気がするし(そもそも全然大丈夫じゃなくて大ピンチだし)、「あとは他の皆が何とかしてくれるからね」も人任せすぎる気がするし、「負けないで」も別にまだ特性を失ったってだけで負けたわけじゃないし、でも何とかして励ましてあげたいし、「まだ試合始まったばっかりなんだから諦めないで頑張ろう」かな。うん、これなら言えそう。良い感じに励ましてる気がするし、これにしよっと。

予想通り、黒子くんがメンバーチェンジでベンチに戻ってきた。スポドリを渡そうと立ち上がると、監督が「そっちじゃなくてこっちこっち!」と自分の隣の席を手で叩いて示しながら黒子くんに向かって声をかける。

「諦めないで!またすぐ出てもらうわよ!」

監督に先に言われたー!しかも肩まで組んで言われたー!どうしようあたし何も言えないじゃん!

「思い切りやられてきてほしいの」なんて今の黒子くんには正直酷なお願いだと思うけど、このまま黒子くんを引っ込めて特性も失くして再起不能になってしまうよりも、皆で何とかして黒子くんがもう一度戦えるチャンスを見つける。監督はそういう算段らしい。……あたしなんてもう、赤司くんに「失望した」って黒子くんが言われてるの見ただけでも慌てちゃって何て声をかけたらいいのか分かんなくなっちゃうぐらいなのに、監督はもう試合の先の展開のことと黒子くんの復活策まで練ろうとしてて凄いなぁ。渡すタイミングを逃してスポドリを持ったままじっと立っていると、「ありがとうございます」と言いながら黒子くんがボトルに向かって手を伸ばしてきた。今だ。折角ベンチに黒子くんが戻ってきてるんだし、なんか先輩っぽく気の利いた台詞の一つでも言わないと……!

「黒子くんがやられてもコートの中にはまだ4人もいるんだし、安心してやられてきていいからね!誰も黒子くんがこのままやられっぱなしで終わるなんて思ってないから、赤司くんはあんなこと言ってたけど、帝光のシックスマンだった黒子くんには並の選手の価値がなかったとしても誠凛のシックスマンになった黒子くんはそんなもんじゃないんだ、ってさ、赤司くんと洛山に目に物見せてあげようよ」
「……そうですね」

グッと親指を立ててやると黒子くんが少しだけ表情を緩めた。良かった笑ってくれた。バスケが一対一のスポーツだったらさっきのスティールで黒子くんの負けだろうけど、バスケは5人でやるスポーツだ。1人ぐらい調子の悪い選手がいても、他の4人が力を合わせればまだ戦う術はある。まだ見つかってないけど突破口だってきっとあるはずなんだ。日本一まであと一歩のところまでやってきたこのタイミングで、切り札を破られたぐらいでみすみす引き下がるなんてここにいる誰も望んじゃいないから。黒子くんに辛い役目させてるってことは分かってるけど、でも、その分皆が洛山から点取ってくれるはずだから。

黒子くんの影の薄さが通用しない分、4人で洛山相手にするなんて正直厳しいけれど、それでも、黒子くんの穴を突けばすぐに点が取れると舐められるような甘いチームじゃない。木吉くんのバイスクローから日向キャプテンのバリアジャンパーが決まった。第一クォーター、冷や冷やする場面もあったけど何とか同点で次のクォーターへと繋げられた。「よっし上出来!」の監督の言葉に黒子くんとハイタッチをする。

言うまでもなくあたしたちはみんなで一つのチームなんだから、1人が不調になったぐらいどうってことない。このまま黒子くん抜きで洛山に勝てるとは思っちゃいないけど、黒子くんに頼りっぱなしのチームでもないし、バニシングドライブもファントムシュートも誠凛の窮地を何度も救ってくれた技で、決して無駄な努力だったわけじゃない。だから、さっきの3分ちょっとでは全然まだ解決策も浮かんできてないけど、まだそんなに思い詰めるタイミングじゃないと思うんだ。

第二クォーターは一度交代して様子見だと告げられた黒子くんがギュッとユニフォームを掴んでいるのが目に入る。その背中を火神くんがバンバンと叩いた。

「全く使い物になんねーお前入れたままでも第一クォーターなんとかなったんだ!こっちのことは心配すんな!」
「……わかっていますができれば今はオブラートにつつんで言ってくれませんか」

光と影のやり取りに思わず吹き出しそうになる。火神くんって良くも悪くも思ったことはっきり言いすぎだよね。オブラートって言葉知ってるのかな。「絶対もう一度コートに戻ります」と言う黒子くんの言葉にタオルを持ちながら力強く頷いた。

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