Machine-gun Talk! 119

「日向くんってシュートのフォーム凄い綺麗だけどさ、誰か参考にしてる人いるの?」
「……オマエには言いたくねえ」
「えっ何でよ、あたしに知られると何か不都合があるってこと?もしかしてあたしのシュートフォームこっそり真似してるとか……いや、それはないか。日向くんのフォームあたしのとは全然違うし。ちなみにあたしのはレブロンなんだけど」
「おまっ……それのどこがレブロンなんだよ!NBAから怒られるわ!」
「そんなに!?」

バスケの選手のどこを好きになるかって言うと人によって色々あると思うけど、オレの場合はシュートフォームから入ることが多かった。シューターの性とでも言うべきか、試合を見る度にどうしてもその選手のフォームをチェックしてしまう。そして中学時代に見た中で一番良いと思ったのが実渕のフォームだった。なめらかでキレがあって、一切のムダがないフォーム。シューターの理想形だと思った。

ーーーーだから、こうしてかつての理想だった男とウィンターカップの決勝で、シューティングガードとしてお互い向き合ってるのも何かの縁なのかもな、なんて。そんな風に思ってしまうオレは心のどこかでこの大舞台に浮かれているのかもしれない。

第二クォーター、試合の展開は日向キャプテンと実渕さんのシューティングガード対決へともつれ込んだ。お互い一歩も譲らず、スリーを決めては決め返されての一進一退の状況が続いている。こないだ洛山の試合見たときから何となく思ってたけど、やっぱり日向くんのフォームって実渕さんのに似てるよね。確か実渕さんって緑間くんがいなかったらこの時代でも飛び抜けて上手いシューターなんだったっけ。ただフォームが綺麗で決定率が高いだけじゃなくてシューターとしての技術も一級品で、彼が『無冠の五将』としてあたしたちの世代(高校二年)で最も上手いシューターと評されている理由は相手から離れていくシュートとぶつかっていくシュートの二種類を自在に使い分けられるところにあるらしい。洛山の選手を特集した雑誌にそう書いてあった。……あれ?二種類だったっけ?

相手をかわしつつ決めるシュート、天。そして、相手に当たりながら決めるシュートの地。そのどちらでもないフォームで実渕さんがボールを放った。その向かい側で何故かブロックに跳ぼうとした日向キャプテンが体勢を崩している。

「日向キャプテン!」

高いシュート決定率を要求されるシューティングガードにとって、シュートフォームは何よりも大切なもののはずだ。ほんの少し指のかかり方が違うだけで、膝や肘の曲げる角度が違うだけで、そのシュートはいとも容易くゴールから外れてしまう。それぐらい、長年慣れ親しんだフォームを変えることはシューターにとってはよっぽどのことがない限り無いことのはずで、ましてや今日の舞台はウィンターカップ決勝戦。こんなところで追い詰められてもいない洛山の選手が大博打に打って出るとはとても思えない。

ということは、考えられることがあるとすればただ一つ、三つ目のシュートの可能性。これまで全く見せてこなかった無冠の五将の奥の手。相手をかわしつつ決めるシュートの天。相手に当たりながら決めるシュートの地。そして、相手の選手をブロックに跳べなくさせるシュート(名称不明)。実渕さんは二つのシュートを自在に操るから五将と呼ばれているんじゃない。彼が使い分けることが出来るシュートは三種類あったのだ。もう何度も言ってきた言葉だけれどここでまた改めて使いたい。……そんなの有りなのかよ!

日向キャプテンと実渕さんのシューティングガード対決はひとまず実渕さんの勝ちに終わった。そう、ひとまずだけど。今のところはだけど。だって日向キャプテンまだ全然クラッチタイムに入ってないっぽいし、何か実渕さんに対してちょっと他の選手よりも思うところがあるみたいだし。そして何より今はまだ第二クォーターだ。ここから巻き返せるか、それとも「やっぱりシューターとしては実渕さんの方が格上」って言われたまま終わってしまうのか、それはこれからの日向キャプテンのプレイにかかってる。これまでも絶体絶命の大ピンチとしか思えない瞬間は数えきれないくらいにあったけど、それを全部乗り越えてここまでやってきたんだ。だから絶対、誠凛がこんなところで終わるなんて思われたくない。

「ドンマイ」と声をかけてきた伊月くんに向かって「わかってるよ」と声を荒げる日向キャプテンを心配することしか出来ないあたしたちが見つめるコートの奥で、木吉くんが静かに闘志を燃やしていた。

日向キャプテンが実渕さんへ思うところがあったように、洛山の根武谷くんも木吉くんに対して思うところがあったらしい。中学のときに試合して負けたときに「バスケはパワーでゴリ押すだけじゃだめだからスキルも磨かないとな」的なことを言われからだとか。……花宮の件といい紫原くんの件といい、何か木吉くんって他校の選手との因縁やたらと抱えてない?しかも本人無自覚っぽいし。中学で木吉くんに言われたそのたった一言を今までずっと覚えてて、高校生になって洛山の選手としてプレーしている今、海外選手顔負けのパワープレイヤーとして木吉くんとの対決に向けて仕上げてきた根武谷くんの執念も相当だとは思うけど。

バスケに必要なのはスキルじゃなくてパワー、どんなに高いスキルがあろうと圧倒的なパワーの前では為す術もない。だから筋肉を鍛えるのが一番良い。一見バカみたいな理屈に聞こえるけど、根武谷くんの主張にも一理ある。特にリバウンドを取るのが主な役目のセンターなんて尚更だ。どうしたって力の押し合いになってしまう。誠凛の選手の中でも比較的穏やかな表情を浮かべていることが多い木吉くんが「力比べは嫌いじゃない」と言いながらこれまでにないくらいに好戦的な表情で根武谷くんに向かって指を鳴らしたのを見てしみじみと思う。本人はそう呼ばれるのあんまり好きじゃなさそうだったけれど、やっぱり彼も無冠の五将の一人ーー『鉄心』と呼ばれるに相応しい人なのだと。

prev | INDEX | next