Machine-gun Talk! 121

手に汗握るような、最後まで勝敗の行方が分からないときのバスケットボールの試合ほど面白いものはない。だけどその逆、試合中盤で大差がついてしまったときのバスケットボールの試合ほどつまらないものもない。一発逆転が存在しないルールの中で、短時間で一気に点を取れるような術はこのスポーツには存在しないからだ。

キャプテンがベンチに下がってしまった今、頼みの綱だったスリーに頼る事はもうできないし、どれだけ願っても火神くんがゾーンに入ることもない。黒子くんの特性だって失われたままだ。もはや為す術もなく、希望の光がすべて失われた暗闇の中で、誠凛は立ち尽くしていた。ーーーーただ一人の選手を除いて。

「ーーーーいやだ」

黒子くんは基本的に表情が少ない。試合中に悔しそうな顔をしていることはあっても皆でふざけてるときにも全然笑ったりせずにスンっとしてるし、部活終わりにマジバに付き合わせてるときもいつだって淡々とシェイク飲みながらあたしの話に相槌打ってたし、泣いてるところなんて本当に数えるほども見たことがない。

「ボクは…!勝ちたい!ムリでも…!不可能でも…っ!みんなと日本一になりたい!!」

その黒子くんが、涙を流しながら皆に向かって「勝ちたい」と言っている。チームの心を動かすのにはそれだけで十分だった。

監督に向かって「お願いします」と言って試合に出してほしいと頼んでいる黒子くんの背中を見ながら思う。いつだって黒子くんは自分のことを「ボクは影だ」って言ってたけど、そもそも光だってそれを支えてくれる影がないとあんな風には輝けないと思うんだよね。だからさ、帝光のときの青峰くんがめちゃくちゃ強かったのも、火神くんが誠凛のエースとして抜群の存在感を放つようになったのも全部、黒子くんが相棒だったからこそだと思うんだ。他の誰でもなく黒子くんが相棒だったから、誰よりも諦めの悪い黒子くんが側にいてくれるから、影が諦めてないのにまだ光である自分が諦める訳にはいかない。そんな風に思わせてくれる力がこの背中にはきっとある。

「黒子くん!」

リストバンドをはめ直し、コートへと歩き出そうとする背中に向かって声をかけた。

「インハイ予選で秀徳とやったときに黒子くんが皆に向かって言ってくれたことなんだけどさ、覚えてる?『勝ちたいとは考えるけど、勝てるかどうかっていうのは考えたことない』ってやつ。今回もそんな風にさ、何をどうやったら洛山に勝てるかはまだ分かんないけど、分かんないからこそ黒子くんのやりたいようにやってきてよ。それにひょっとしたら試合時間残り1秒で隕石が直撃して洛山ベンチ吹っ飛ぶかもしれないし」
「……そんなこと言ってましたっけ?」
「嘘でしょもう忘れちゃったの!?あたしあれ言われたときから衝撃的すぎてずっと忘れられないままだったんだけど!?」
「冗談ですよ。ありがとうございます、覚えててくれて」

頑張れ、と差し出した拳に控えめに自分の拳をぶつけてくれた黒子くんが口角を少しだけ上げながら言う。冗談を飛ばせるくらいに元気になってくれたのなら良かった。

コートの中へと戻ってきた黒子くんへギャラリーから大きな歓声が向けられる。これだけ大きな注目を集めてるってことはまだ影の薄さを取り戻したわけじゃないし、取り戻せる算段がついたってわけでもない。話はもっと単純で、勝ちたいと思うから試合に出て戦う。例えその結果がどうであろうと、どれだけの点差がついていようと最後の最後まで逃げない。出来ることがあるとしたらただそれだけで、ここまで来て諦めたりなんかしない。だけど、足掻いて足掻いて足掻いたその先に皆で掴み取れるものが勝利であればいい。このチームでならきっとそうなれるはずだって、あたしはちゃんと信じてるからね。

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