Machine-gun Talk! 15

東京最強のディフェンスと謳われる正邦の圧力は今までの相手とは比べ物にならないくらい凄絶で、ベンチでスコアブックを片手に応援に励んでいるあたしでさえ言葉を失ってしまう。特にあの火神くんのマークをしてるイガグリ頭くんが凄い。あんなにも苦戦している火神くんを見るのは初めてだった。そりゃ誠凛に会って間もないときに悪気もなく『誠凛超弱い』って言える訳だ。しかも何故かずっと笑いながらディフェンスしてるし、あ、また火神くんのファウル…!頭に血上りやすすぎるよ火神くんほらイガグリくんめっちゃ笑ってるじゃん!黒子くんがパスしようとしてもコースは塞がれてるしレイアップとか決めようとしてもブロックされるしこれぞまさしく八方塞がり。

一向にゴールを奪えない状況に遂に監督がタイムアウトをとった。正邦の持ち味は古武術を取り入れた動き…って言われてもよく分かんないけどDVD観てたときに感じた違和感の正体はこれだ。古武術。それも相当ハイレベルの。

タイムアウト後に火神くんが伊月くんに何か言ってる、と思ったらイガグリ頭くんと火神くんのワンオンワンが始まった。あんなにファウルとられてるのに真正面から勝負なんて大丈夫なのか…!?というあたし達ベンチ側の心配をよそに、イガグリくんのディフェンスをはるかに上回るスピードで火神くんが遂にゴールを決めた。一気に盛り上がるベンチをよそにイガグリくんをちらりと見る。笑っていた。抜かれて悔しいはずなのににこにこ笑っていた。えええええ何あの子めっちゃ怖い!言い知れぬ執念みたいなのを感じる!怖い!

火神くんのゴールで波に乗れるかと思ったけど王者正邦はそんな甘いものではなくて、火神くんがファウルをとられるわパス回しが速すぎてスティール出来ないわで第一クォーターも残り半分になってきた今で9点差。何とかしてこの点差を縮めないと後から確実に響いてくる。パスコースも完全に塞がれてるこの状況で伊月くんがパスを出した。今までどこにいたのか分からない黒子くんがひょっこり出てきてディフェンスの裏からパス。…ディフェンスの裏からパス!訳が分からないっていう表情で呆気にとられている正邦を尻目に水戸部くんがシュート。決まった!そこから勢いを取り戻したように火神くんのブロックと日向くんのスリーが炸裂。一気に同点まで追いついた。ぞろぞろとベンチ戻ってくるレギュラー陣とハイタッチを交わした(日向くんはしてくれなかった)後でこの勢いの立役者である黒子くんに声をかけようとコートに目を走らせる…と黒子くんの姿はなかった。一体どこへ消えてしまったのかと思って辺りを見回すと彼は既にベンチに座って私が作ったスポーツドリンクを飲んでる所だった。ハイタッチしようと思って待ってたのにいつの間に。黒子くんってちゃんと気をつけてないとふとした拍子に見失っちゃうんだよね。

先輩」

無表情でストローをくわえてスポーツドリンクを飲んでいた(可愛い)黒子くんがこちらに目を向けた。彼があたしを先輩と呼ぶのはものすごく珍しいことだ。いつもさんだもんね。色のない瞳を覗きこんでみても彼が何を考えているのかは分からない。何だろう。次の第二クォーターの相談?「ボク次も頑張るんで応援してください」みたいな感じ?だとしたら可愛すぎる。そんなこと言われたらこの上ないくらいはりきって応援するしかないじゃんね。もう嫌だやめてくれって言われるまで応援しちゃうよあたしは!さあさあどんな我儘でも構わないから先輩に全部吐き出してみてごらん!

「先輩、このスポーツドリンク味が薄いです」

全力で応援歌でも歌ってあげようと思っていたあたしのやる気を返してほしい。

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