Machine-gun Talk! 17

黒子くんが入ってから流れが変わった。パスコースを察知できたりディフェンスをかわせるようになってきていたり、あれだけ圧倒されていた正邦に食らいついていけてる。ベンチから黒子くんを見るのは初めてらしい火神くんが一言「すげえ」と呟いて、すかさずそれに相田監督が「いつもこんなもんよ!」と得意げに返す。雪辱戦に何も用意して行かない挑戦者なんていない。DVDデッキが壊れるくらいまで研究しつくしたのだ。途中で飽きて何度もキャプテンと監督に怒られながらも研究しつくしたのだ。

そのおかげで苦手なスコアブックのつけかただってマスターした。「マネージャーたるものスコアくらいつけられなくてどうするの!選手の筋力値だってちゃんと把握しなくちゃだめよ!」お茶とタオルしか配れないマネージャーですいませんと謝りたくなった。でも選手の筋力値なんて把握できてるの相田監督だけだと思うんだけどな。怒られるの嫌だから言わないけど、監督の審美眼は一体どうなってるんだと問いたい。

「抜けー!」とか「今だ押せー!」とか勝手に一人で叫んでると「先輩も応援歌ちゃんと歌ってくださいよ!」と降旗くんに言われた。だって女バスのやつと全然違うから覚えにくいんだもん男バスの応援歌。手でメガホンを作って声を出していると黒子くんに微笑まれた……ような気がする。土田くんがシュートを決めた。ついに逆転。と思った矢先に正邦が巻き返してきて絶体絶命の状況に掌をぎゅっと握る。

「王者をなめるなよ!」と吠える正邦。オールコートマンツーマン。完全にもう1ゴール獲りにくるつもりだ。水戸部くんのスクリーンのおかげで正邦を引きはがした伊月くんが黒子くんにパス。察知して防ぎにきたイガグリくんを避けた黒子くんのパスがキャプテンに繋がる。決めてくれ……!とベンチ全体が祈るように息をのむ中で日向キャプテンのシュートが決まった。試合終了。誠凛の決勝進出と同時に二年生の雪辱戦が終わったのである。

ふっと体の力が抜けて監督に抱きつこうとしたけれど、監督が泣きそうになってるのを見てやめた。去年の皆を見てる分だけきっと感動もひとしおだよね。日向キャプテンが近づいてきているのが見えてそっと席を外した。監督の頭を撫でるキャプテンが妙に頼もしくみえる。あとで肩たたきでもやってあげようかな。

まずは黒子くんにあげたやつよりちょっと味を濃くしたスポーツドリンクとタオルを皆に配ってお疲れ様と言おう。隣りのコートに視線をやるとちょうど試合が終わったところらしく、113対38という恐ろしいスコアが表示されていた。決勝の相手は秀徳だ。良い試合をしよう、という意味をこめて緑間くんに向けてぐっと親指を立てると高尾くんがピースサインをしてくれた。どういう意味のピースサインだろうあれ。お前らには負けねーぜ!的な意味かな。隣りの緑間くんは眼鏡をくいっと上げただけだったけど笑っているようにも見える。離れてるからはっきりとは見えないけど。

早くしろ控室行くぞ!」と日向くんに呼ばれて慌てて皆の背中を追いかける。お疲れ様、と言いながら前を歩く黒子くんの肩を叩くと笑ってくれた。その笑った顔があんまりにも優しそうなものだったから、色々と考えていたはずの労いの言葉が吹っ飛んでいく。思わず頭を撫でようとしたら「ボクは黄瀬くんのような扱いはごめんですよ」と避けられて、無言でタオルを頭に被せられた。黒子くんの手がポンポン、とリズムよくあたしの頭を叩く。

さんも、お疲れ様です」

何で労うはずのあたしが選手に労いの言葉をかけられてるんだろう。頭にタオルを乗せたまま、馬鹿みたいに立ちつくすあたしを置いて黒子くんはすたすたと歩いていってしまう。ようやく動けるようになった足で控室に飛びこむと黒子くんはもう隅っこのほうでバナナ食べてるわ火神くんは寝てるわコガくんが騒いでるわで一気に力が抜けた。選手たちのマッサージにせっせと励んでいる監督に近寄って何か手伝えることはないかと聞いてみる。

さんは何もしなくていいからその辺で座ってて」

せめて肩くらい揉ましてくれたっていいんじゃないのかと思って相田監督のマッサージを受けている日向キャプテンの肩を後ろから叩いてみると邪魔だと罵られた。ちくしょう次の試合で使う水筒、日向くんのにだけスポーツドリンクじゃなくて真水入れてやる。見かねたように「肩こったからマネージャーちょっと叩いて」とベンチに座って言う土田くんを見て女心が分かる人はやっぱり違うと思った。つっちーまじリスペクト。

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