Machine-gun Talk! 19

黒子くんの神出鬼没のパスが高尾君にスティールされるという誠凛にとっての大事件が起きた。まじでか!何今の!見失ったふりしてパスカットなんて大変小癪な荒業を披露してくれたもんだ。思わず「小癪な!」と口走ると、まさかそんなこと言うとは思わなかったらしい降旗くんに思いっきり吹きだされて笑いながら持ってたペットボトルでばしばし叩かれた。飲みほしたやつだからあんまり痛くないけどちょっと痛い。女の子の体に一体何をしてくれるんだ。

それにしても高尾くんのあの普段の軽いノリとは一風違った感じのプレー中の冷静さはやっぱり伊月くんのプレイスタイルに似てる気がする。周りのことがちゃんと見えてて、相手の隙を突くことが出来る視野の広さ。頭ではちゃんと分かってるのに喉元まで言葉が出てこない。この今にも言えそうで言えないもどかしさがものすごく不快だ。ちゃんとした名前があったはずなんだけど何ていう名前だったかなー。

切り札の黒子くんの魔法のパスが破られた今、為す術もない誠凛はタイムアウトをとった。ひとまず黒子くんをどうするか考えて、いや、それより先に高尾くん対策を考えて、ああでも黒子くん使えなくなったら超ロングパス出来なくなっちゃうから緑間くんにスリー打ってくださいって言ってるようなもんなんだよね!難しい!一体どうすれば……!

「何だったっけな、あの、高尾くんの、伊月くんみたいに頭の中で角度切り替えてコートの中で色々と仕掛けてって相手を罠に陥れる策士なやつ!」
それ半分伊月の悪口だぞ」
「え、俺にそんな風に思われてたの?傷つく」
「伊月先輩というと……イーグルアイですか?」
「それだー!」
「高尾のやつはイーグルアイじゃなくてホークアイだけどね。視野の広さは俺より上」
「伊月くんより上ってことは……」
「そう、つまり高尾には黒子のミスディレクションが効かない」

黒子くんのミスディレクションが効かない。これは誠凛の今後の動向に関わる大問題である。

大問題なのにも関わらず火神くんは「アイサツしよ-か」なんて決めちゃってくれてるし黒子くんは「出来ればこのまま出してもらえないですか」なんて相田監督に言ってる。大丈夫なのか…と思う反面、本人達がこう言うんだから任させてもきっと大丈夫なんだろうな、っていう妙な期待を持っている自分がいるのも事実。いくら相手方の戦略が素晴らしくとも、うちの二年生たちはもちろん、ルーキーだって皆頼れる選手なのだ。外野がどうこう言うよりも、信じて応援しているほうがずっとチームとして支えあえてる気がする。何か青春って感じでいいなあ。結局のところ緑間くんと高尾くん対策としての案は何も出てこなかったんだけどさ、ここは当人たちに任せるってことで一先ずどうでしょう。

「あーあ、やっぱり私にチームの参謀なんて頭のキレる役割全然向いてないわ」
「えっ、さん参謀になりたかったの?それは無理でしょー」
「小金井くん……」
「コガ……」
「あれ、つっちーも監督もやめてよーどうしたのその目、えっ……やめてさんちょっとペットボトル投げつけないで!痛い痛い!助けて伊月、俺苛められてる!」
「今のは全面的にコガが悪いな」
「お前らさっさとコート戻れよダァホ!鬱陶しいわ!はさっさとベンチで散れ!」
「すいませんでした」

ベンチで散れとは日本語という言語的な視点からするといかがなものなのか、そう思いつつもすごすごと大人しくベンチに戻る。日向キャプテンを怒らせると怖いってことをすっかり忘れていた、一生の不覚だ。

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