Machine-gun Talk! 25

ちょっと来てー」
「はいよー」
マッサージして」
「監督に頼んでください」
「すいませんボクのタオルは」
「そこに畳んでるよ!」
バナナ」
はバナナじゃないです」
「誰かオレのペットボトル知らない?」
「そこのベンチの上!」

試合後の部室は誰かが着替えてたり物を探してたりマッサージを頼んできたり冷やしたり暖めたりと、てんやわんやでマネージャーの体が幾つあっても足りないものだと思う。

「そんないっぺんに呼ばれてもあたし一人しかいないから!順番!順番にするから待ってて!」
「分身したらいいじゃん」
「出来るか!」

ペットボトルを投げつけるとコガくんがけらけら笑った。暇なら手伝ってくれてもいいのに…と思いながらも、火神くんのお尻の上あたりに乗る。体が大きいから普通にマッサージしようとするとむしろやりにくいのだ。

「火神くんのツボはどこかな?ここかな?ここかな?それとも……ここかなー?」
「痛え!先輩そこやめろ痛え、です!つーか先輩ちょっと重」
「冗談でも女の子に重いとか言うなー!」
「痛ええええええ!」

監督に教わったツボをぐりぐり押すと火神くんが大声を上げた。女の子に重いとか言った罰だ。どうだ参ったか。ちなみにあたしが重いのは脂肪のせいもあるだろうけど、大半は筋肉のせいだと信じたい。ほら、筋肉って脂肪より重いってよく言うしね。

ちょっとほぐしてマッサージをするついでにたまに適当なツボを刺激すると大袈裟なくらい反応する。何これ面白い。さすがアメリカ育ちなことだけあるね!

「いつまで遊んでんだ火神、!監督に置いていかれるぞ!」
「え、あれ、いつの間にか皆いなくなってる!長い間乗っててごめんね火神くん!」
「いや、別に……すげー痛かったけどありがとうございました。うん、すげー痛かったけど」
「またやって欲しくなったらいつでも呼んでね!」
「二度と呼ばねえ」

あーでもちょっとスッキリしたかも、そう言って首を左右にゴキゴキ鳴らしながら火神くんが更衣室を出ていった。ていうか日向キャプテンそこで待ってなくてもあたし逃げたりしないよ、ちょっと散らかってるから片付けて出ていくだけで何もしないよホントに。


「なーにー?」
「ちょっとこっち来い」

やけに黙りだと思っていたら不意に名前を呼ばれた。見てみると日向キャプテンがこちらに向かって手招きをしている。逆らうと後が怖いのは今までの経験から存分に思い知っているので、大人しく従うと後ろを向かされた。そのままお腹あたりに腕が回されて、ぐっと引き寄せられ……え!?

「ひゅ、日向キャプテン何して……!」
「んー…試合の前に抱きしめてほしいな!とか言ってたろ」
「そんなこと言ってな…いや、言ったか!?言ったわ!調子乗って言ってたわあたし!」
「落ち着けよお前」
「いやむしろ日向キャプテンが落ち着けよ!どうしたんですか見失ったんですか、現実を。さ迷える子羊ちゃんですか」
「お前緊張すると敬語使う癖でもあんの?」
「みんなー!ご乱心だ!日向キャプテンが!みんなの日向キャプテンがご乱心だよー!」
「うるせ……黙ってろよ」
「っ!」

腕で口を塞がれた。我ながらさっきのは取り乱しすぎだし煩いとは思ったけど、だけど、でも!まさか日向キャプテンがこういうことしてくるとは夢にも思わなかったわけで……!

回された腕を外そうと思って触れると意外と筋肉質で驚いた。がっちりしてる。二の腕までもがっちりしてる。同じ練習をこなしてるはずなのに、やっぱり男と女ではこうも違ってくるのか。

「やっぱお前が黙ってると気味悪いな。何か喋れよ」
「……い、意外と日向キャプテン筋肉質だね!」
「お前は二の腕ぷにっぷにだな」

片方の腕で肉を摘まれた。お願いだから今その体についた肉の話だけは…!

のサイズ顎乗せるのに丁度いいわ」
「は!?」
「あーもー……試合で疲れてんだから休ませろよ」

休みたいのならこんなことしてないでベンチで寝転がるなり監督にマッサージしてもらうなり甘いもの食べるなり、もっと他にすることがあるんじゃないのか。そう言おうとした言葉を飲み込んで、もう一度キャプテンの手に自分の手を重ねた。何の経験もないあたしだってこの空気をぶち壊しちゃいけないことぐらいは分かる。顎を乗せられて頭のてっぺんがちょっと痛いのだって、この時間だけは我慢してさしあげようじゃないか。

「試合お疲れ様です」
「ん、」
「スリー決めたの格好よかったよ」
「……おー」

この後すぐにあたしを離したキャプテンは何事もなかったような平然とした顔をしてお好み焼きを食べていた。本当に一時の気の迷いで乱心しただけだったんだろうか。きっとそうだろうな。あのときのあたしの緊張を返せバカヤロウ。飲めもしないくせにヤケクソでウーロンハイを頼んだら即座に怒られた。代わりに出てきたオレンジジュースの味が薄かったのは決してあのときのキャプテンの行動を意識してたから…とかそんな理由じゃなくて、お好み焼きを顔面に食らった黒子くんの恐ろしい顔をたまたま見てしまったからに違いない。

prev | INDEX | next