Machine-gun Talk! 26

秀徳との試合後、何を血迷ったかオレはあのマシンガン馬鹿を抱き締めてしまった。特になんのきっかけもなかったし、そんな流れでもなかったはずなのに。掃除だなんだとバタバタ動き回る背中を見てたら「緊張してきたから抱き締めてほしいな!」とかいう台詞が思い出されて、気づいたらああなってた…としか言いようがない。

女子にしちゃ逞しい方なんじゃないかと思ってた手は案外小さかった。あと同じメニューをこなしているはずなのに二の腕がぷにっぷにだった。決して悪口を言おうとしていた訳ではなく素直に感想を言っただけなのにすげー顔して睨まれたからもう本人には言わねーけど。だけどまあ、あいつもそういう一面を見るとやっぱりただのバスケ馬鹿じゃなくてそこらの同年代のやつと似たような一端の女子なんだな、と。思わずにはいられない訳だ。こんな風に色々考えてたって特別あいつへの態度を変えたりはしないが。あくまでもマネージャーはマネージャーだし、バスケに関しては刺激を貰える仲間でもある。さすがに対戦中の相手に話しかけて話術で圧倒するなんて必殺技は頂けねーけどな。

つーかまず話術で圧倒するって何なんだ。馬鹿なのか、やっぱりあいつは馬鹿なのか。バスケの試合中に話術で圧倒してどうすんだよそんなことしてる暇があんならシュート練習しろよ。あー、そういや今度暇なときにでもスリーポイントシュート教えるって約束もしてたっけ。今日自主練するついでにもしあのマシンガン馬鹿が現れたら教えてやろう。あいつのことだからもしかしたらオレより先に練習してたりするかも知んねーけど。

「フックシュートってどういう風に打つの?」
「こう、ブロックされにくいように半身で…そうそうそんな感じ!そのまま打てばオッケー!」
「ちなみにコガくんその情報の信憑性は」
「水戸部が言うんだから間違いないって!」
「ようしオッケー!行くぞ!どりゃ!入った?入った?入っ……てない!え!マジかよ!入ってないの!今のは絶対入ったと思ったのに!」

ホントに居やがった。しかもコガと水戸部のおまけつきで。

「自主練なのにうるせーよお前ら」
「キャプテン!」
「あれ、日向も自主練しに来たの?つくづく皆お盛んだよね、水戸部」
「…………」

コガはお盛んの意味とニュアンスを些か勘違いしてないだろうか。突拍子もない発言に水戸部がフォローすべきか否か狼狽えるのを見るのもさすがに馴れたからもう何とも思わねーけど、いや、それよりオレはバレーか何かで使うはずの棒みたいなやつをゴールリングに向かって一生懸命突き刺してる#名字#の行動が気になりすぎるんだが、コガと水戸部はあいつ放っといても平気なのか。つーか何してんだあのマシンガンは。

「あーもう無理!届かん!日向くん水戸部くんヘルプ!ヘルプお願いします!何なら小金井くんだっていいからとりあえずヘルプお願いします!」
「毎回思うんだけどオレに対する扱い酷くね!?」

ぎゃいぎゃい文句を言いながらも手伝いに行くコガは良い奴だとオレは思うし、に弄ってもいいキャラなんだと認識されてるところにだけは心の底から同情したいとも思ってる。死ぬほど面倒くさいとは思うがあそこまで必死に訴えられているのに見放すのもチームメイトとしてどうかと思って近づくと、は細い棒(バレーボールのネットにつけるアンテナだよ!と後から聞いた)を使ってネットに挟まったボールを一心不乱につつきまくっていた。待て、そんなにやったらボールが取れる前にアンテナがお前の馬鹿力で折れるだろーが。

さん何してんの?」
「コガくん……フックシュートしようと思っていっぱい投げてたのはいいんだけどさあ…あんまりにも外れるもんだからここはあえて狙わずにやってみようとしたら変なコースに入っちゃって、どんどん投げてたら終いにはネットに引っ掛かって取れなくなったから出そうと思って突いてんだけど、どう頑張っても取れんから凄く苛々してる」

困りながらも憤慨したような表情を浮かべるという高度な芸当を披露するを見て心底思った。そんなもんお前の自業自得だろ。取れないのが当たり前だっつーの。そんな細い棒で突いたぐらいで重いボールが取れるかよ。呆れつつもこのままだとの手によって凶器にすらなりかねない棒を奪って床に置き、水戸部の上にコガを登らせる。肩車の上に乗る形になったコガが叩くとボールは簡単に取れた。ため息を落とすオレの隣でが二人を見ながら瞳を輝かせる。

「そうか最初から水戸部くん呼んで肩車してもらえば良かったのか!ありがとう!その発想はなかった!本当にありがとう!これからこういうことあったら水戸部くん呼ぶね!」
「いや水戸部が可哀想だから呼ぶな」
「確かさんこないだ水戸部の上に乗って降りられなくなってオレ等に救出されたところじゃなかったっけ?」

オレとコガの追い討ちが効いたのかは少し呻いたあと、水戸部とボールを交互に見つめて大人しくなった。そうだ。それでいい。自主練のときくらい黙ってシュート練習でもしてろ。そして同じ失敗は二度と繰り返すな巻き込まれるオレ達が大変だから。

それから何分間かはマシンガントークを封印して黙々とフックシュートを練習した後、水戸部の前で連続3本決めると調子に乗り出したのかまた喋りだすようになった。全然羨ましくは思わねーけど、ハーフコート内を動きながら喋りまくるなんて無茶苦茶な芸当だ。入る調子にムラがあるのか、今度はなかなか入らないらしい。そして遠くのリングでやるならまだしも隣で「ああ!」とか「惜しい!」とか言われるもんだからオレの気が散ってしょうがない。4分の1くらいの確率で決まるようになってくると、もう後は本人に任せても大丈夫だと判断したのかコガと水戸部は出ていった。どうでもいいけどこいつまだ水戸部に飴で餌付けされてんのか。飴舐めながら喋るなよ喉つまらせんぞ。

こうやって自主練をやってるときや練習中の合間を縫って教えたおかげで#名字#のシュートフォームは大分綺麗になった。最初の頃はシュートもまあまあ入るっちゃ入るけど肩の力が入りすぎてて、見て教えてやろうとしているこっちもやきもきさせられたもんだ。一本決まる毎に拍手をしたりいちいちリアクションをみせるを見て「上手くなったんじゃねーの」と呟くと、「ここの指のかかり方がどうもなあ…」と一人でぼやいていたが勢いよく振り向いた。目が爛々と輝いている。なんだよお前こっち見んなひたすら練習しとけよ。

「日向キャプテン今なんか聞こえたよ!上手くなったなって!上手くなったなって言ったでしょ、ねえ今のもっかい言ってお願い!」
「絶対嫌だ」

ついつい言っちまった言葉なのにそう何回もホイホイ言えるか。そう心の内で悪態をつくオレを知ってか知らずかはスリーを撃ち込み続ける。緑間の弾道シュートを意識しているのか、が時折センターラインまで移動してボールを持ったまま屈んでみてはやっぱり断念したように首を捻りつつフリースローラインに戻っているのはこの際無視だ。

「さっきの、ボールのことだけどさ」

返事は特に期待してない独り言のつもりだったしむしろ聞き流してほしいと思ったオレの気持ちを察したのか、は『さっきのボール』というところで一瞬肩をビクつかせるもそのまま練習を続けた。確かにには常日頃から怒鳴ったり暴言吐いたり色々してるとは思うけど別に何もしてねーときにまで怒ったりしねえっつーの。

「無茶苦茶なことばっかりやってんじゃねえよ。一人で出来ねーんだったらオレ……、とか水戸部とか、周りのやつ頼ればいいだけの話だろうが」

自分でも我ながら口煩いんじゃないか、とかいちいち細かすぎるかもな、とは薄々感じるようになってきてはいたが今確信した。言っていることが保護者並だ。オレはのオカンか。

「分かりましたよー、おか、あ、違った、……日向くん」
「お前今オカンって言おうとしただろ」

本当はチームメイトなんだから困ったときは誰かに頼れ、っつーか誰かなんて言わなくてもオレを頼ればいいだろ、なんて言おうと思ったなんてこのマシンガン馬鹿には口が裂けても言えねー。

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