Machine-gun Talk! 27

想像には難くなかったけど火神は勉強が出来なかった。決勝リーグに行けないかもしれない可能性が出てきた火神のため、バカガミ学力アップ作戦という名の勉強合宿に費やされたオレ達二年生の苦労は大きい。

「え!監督学年二位!あたしにも勉強教えてよ!今回の範囲分かんないんだけど!」と言って騒いでいたは「あんたは最悪来れなくてもいいわ」という監督の言葉に、卓袱台をひっくり返す真似をしながら「意地でも決勝リーグ行ってやるわ!来なくていいって言われても行ってやるわ!見てろよ!」と憤慨しつつも帰っていった。クラスが離れてるせいもあってそれから実力テストが終わるまでの姿は見ていない。

コガがハリセンで火神を叩きながら「この役さんやりたかっただろーな」と呟いたときは確かに、としか思えなかった。まあでもは女の子だし、監督の家が広いっていっても野郎ばっかり雑魚寝してるところに呼ぶのは気が引けるからこの作戦に参加させなくて良かったんじゃないかとオレは思う。あくまでオレはね。

「帰りたい」だの「誰か助けてくれ」だの「この際先輩でもいいから助けてくれ」だのと文句を言いながらも学年90位代を叩き出した火神を褒め称えると共に、ご利益があるとかないとか微妙なところである緑間特製コロコロ鉛筆を恐ろしく思うと共に、捨て台詞を吐いていったは結局どうなったんだろうと考える。最悪来れなくてもいいと言った監督の発言はもちろん冗談だ。最近練習と試合で毎日のようにバスケ部と顔合わせてたから会わなかったら調子狂うな。

そういやオレ等が授業終わって体育館に入る頃には必ずがいてシュート練習してたり茶作ってたりするんだけど何であんなに早いんだろう。何か秘訣でもあるのか。学校では全く姿を見ない分少し気になる。そう思いながらネタ帳を鞄にしまい、部室のドアを開け

「うわあああああ伊月くん待ってちょっと待ってちょっと待ってえええ」

…………閉めた。

いや違う。何も見てない何も見てないオレは何も見てない。女子ってやっぱり制服の下にタンクトップとかTシャツ着てんだとか全然思ってないから。

「い、伊月くん……?」

何でわざわざ自分からドア開けるんだよ馬鹿じゃないの

「ごめんいつもこの時間誰も来ないからこっそり着替えてて……もう着替え終わったから入っていいよ気遣わせてごめんね」

気遣わせてごめんね、ってチームメイトとは言え仮にも男に着替えてるとこ見られたんだから「キャー」とかさ、もうちょっと言うことないのか。……いや、オレも見ようとして見た訳じゃなくて不可抗力だったから、悲鳴あげられたいとか怒られたいとかそういうんじゃないけど、何でそんなに普通なんだよ。すぐ隣を通り抜けようとしたの腕を掴んで引き留めると彼女は驚いたような戸惑うような表情を見せた。

「いつも、って言ってたけどマジでいつもここで着替えてるのか?」
「えっ……あ、うん、大抵あたしが一番乗りだから」
「一番じゃないときはどうしてんの」
「女バスのときと同じようにトイレとか倉庫で着替えてたりしてる」

そういや最初の頃に部員のいない部活に与える部室はない、って言われたとか何とかで着替える場所には苦労したって言ってたな。そのときは聞き流してたけど、いやでもまさか誰もいないときにこっそり部室で着替えてるとか夢にも思わなかった。毎回毎回練習後に着替え持ってどっか行くから適当な場所見つけて着替えてんだろうな、とは薄々感づいてたけどこんなことしてるとは思わなかった。入ってきたのがオレとかバスケ部じゃなくて違う奴らだったら一体どうするつもりだったんだ。のことだから「別にどうもしないでしょ」とか言うんだろうけど。

「びっくりさせてごめんね伊月くん、いや、あたしも油断しててドア開いたときはびっくりしちゃったよ」
「びっくりしちゃったどころじゃないんだけどこっちは…入ってきたのがオレじゃなくて変な奴だったらどうするつもりだったんだよ」
「えー……変な奴でも大丈夫だよ別にあたしの着替え見ても誰も得したりしないし」

ほら言った。やっぱり言った。「それにかれこれ一年の頃からやってるから早着替えにも馴れて、今では2分で全部終わっちゃうんだよね」とが笑う。そういう問題じゃないだろ!と言いたい気持ちをぐっと堪え、の頭を叩いた。この流れで何で叩くの!と怒られた。

「マシンガンとか色々言われてるけどは女の子なんだからあんまりこういうことしないほうがいいよ」
「女の子って今更そんな……」
「とにかく!着替える場所ないならここで着替えてる間オレが見張っとくから一人では着替えないこと。これ会計命令な」
「いや会計命令とか言われましても」
「……の今月の部費オレが立て替えたままなんだけど」
「よろしくお願いします伊月先輩ありがとう男前!惚れる!クール!司令塔!イーグルアイまじイカしてますよっ、キャー!」
「伊月先輩って何それ」
「たまにはこういう可愛い後輩マネージャー的なオプションも必要かなと思って」

段々鬱陶しくなってきたからネタ帳で軽く頭を叩いてから部室の外に締め出しておいた。何かまだぎゃいぎゃい騒いでる声が聞こえるけど聞こえないふりをする。

「お礼に今日は伊月くんのお茶だけちょっと濃いめに作ってあげるからね!」

そう言った声を最後に廊下を慌ただしくバタバタと駆けていく足音が段々遠ざかっていった。……こんな些細なことで喜んでくれてるんだから、出来ればいつも濃いめに作ってほしいなんて本人には言わないでネタ帳にこっそり書き込んでおくだけにしておこう。

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