Machine-gun Talk! 28

さんはビキニとか着ないの?」

全てはコガくんのこの一言から始まった。

相田監督のオリジナリティ溢れる練習メニューの中でも一際個性を放っているのが、誠凛高校バスケ部名物プール練。その名の通りプールで行う練習で、監督のお父さんが経営しているスポーツジムを使わせてもらっているらしい。らしい、ってのはあたしが今までこのプール練になる度に何かと理由をつけて参加するのを断ってきたからで、緑間くん擁する秀徳に勝ってからも、実力テストが無事に終わって決勝リーグに行けることが分かってからも、このスタンスをあくまで崩さないでいるつもりだったあたしの決心は「練習さぼりたいだなんて認めないわよ……?」という監督の笑顔の前で呆気なく砕け散った。

そもそも誠凛男バスの練習メニューは男の子のために作られた筋肉強化プログラムなのであって、これでも女子に分類されているはずのあたしが同じメニューをこなそうとしてもやっぱりどこかに限界がある。自主トレの量は誰にも負けないと誇りに思っているところもあるけれど、いくら筋力値を上げたところで火神くんのように跳べるようになる訳じゃないし、誠凛の皆に劣っているところは沢山ある。だからこそ皆のことをあたしは尊敬しているし、同じレベルにまで追いついてみたいと思ってるし、試合のときは精一杯応援してあげたいと思えるのだ。そのことは充分すぎるほど理解してる。だけど、それとプール練に参加するかどうかはまた別の問題だと思うんだよね!ほら、監督一人で選手全員のケアするのとか大変だと思うしさ、ここは猫の手ならぬマネージャーの手をね!借りてみたらいかがでしょう!きっと仕事も捗るからさ!ね!

「じゃあプール練のどこが嫌なのか言ってみなさいよ。理由によっちゃ考えてあげないこともないわ」

腕組みをして不機嫌そうな顔で聞いてくる監督に、強いていうなら全部が嫌なのだとはとても言えそうにない。

「れ、連日の練習とマネージャー業の激務で体がいうこと聞かないから休みた「却下。底なしの体力持ってるくせに甘えんじゃないわよ」

言い終わらないうちにピシャリと却下された。甘えんじゃないわよ、って未だかつて監督があたしに甘えさせてくれたことが果たしてあったのかどうか。なかったに違いない。それに底なしの体力ってそんな大袈裟な。

「……どうしてもやらなくちゃダメ?」
「練習参加するんだったら今度のテストの勉強、手伝ってあげてもいいわ」
「本当に!?」
「ただし、プール練に出るならね!」

ビシッと指を差されて口をつぐんだ。危ない危ない。うっかり首を縦に振ってしまうところだった。ほだされるな、これは罠だ。学年二位の実力を拝借出来るだなんて物凄く魅力的な話だけど、でも、ここで挫けてどうする。スポーツマンが目の前の誘惑に負けてどうするんだ。

「プール練に出るのだけはマジで勘弁して監督、他だったら何でもするから!マジで!お願い!」
「そこまで言われたら逆に何がなんでも参加させたくなってきちゃうわね」
「嫌だー!鬼畜!鬼!鬼監督!この相田鬼監督!」
「投げ飛ばすわよ」
「ごめんなさい」

何か相田監督と日向キャプテンって段々似てきてないか。特に怒り方とか。あたしに対する戒め方とか。監督に言われたら本気で投げ飛ばされかねないから怖い。いや、二人とも怒ると怖いのは元々だったかな。とにかく監督とあたしの二人だけで所謂ガールズトークなるものをしているはずなのに空気が重い。誰か黒子くんとか水戸部くんとかあたしの癒しとなる人持ってきて……。

「不満があるなら参考程度に聞いてあげるから、ほら、言いなさい」
「……笑わないでね?」
「それは保障できないけど」
「そこは嘘でも保障するって言ってよ!」
「いいから言いなさいよ早く!」

怒られてしまった。観念したあたしは嫌々ながらぽつぽつと話し始める。

「プール練ってことはあれじゃん、水の中入るから水着着なきゃいけないじゃん。練習着はいつもぶかぶかだから隠れてるけど、水着ってなったら出さなくていいとこいっぱい出るでしょ!二の腕とか腹とか太股とかの余分な肉が!監督は細いからいいけど、あたしが水着なんか着たら公害になるからね!毒だよ!目に毒!選手のためを思ってあたしは参加させないほうがい……あいたたたた!」

喋ってる途中だったのに監督に頬をつねられた。痛い。大丈夫?あたし赤くなってない?練習後だからそれなりに頬っぺたは赤くなってると思うけど爪痕とかついてない?大丈夫だよね?

「別に誰もビキニ着なさいなんて言ってないでしょ。隠したいならTシャツでもパーカーでも上に羽織ればいい話だし、それに練習してるうちに段々体型なんて誰も気にならなくなるわよ」

体型なんて誰も気にならなくなるわよ、の後に自分のことに精一杯すぎてね!と聞こえたのはあたしの幻聴に違いない。うん、そうだ幻聴だ。キツそうだなとは思ってたけどまさかチームメイトに気が回らなくなるほどキツい訳が、……充分に有り得ることだけれど。ほぼ毎回黒子くん浮いてるし。あれには毎回発見する度にびっくりさせられる。

「でもあたしそういえば水着ってビキニとかじゃなくてスクール水着しか持ってな」
「え、なになにさんビキニ着んの!?」
「いやスクール水着しか持ってな」
「スクール水着!?マジで!?」

モップをかけ終わったらしいコガくんの登場で一気に騒がしくなった。スクール水着だビキニだと監督と自分とコガくんが連呼したおかげでほぼ部員全員からの視線が突き刺さる。痛い。主に心らへんが痛い。

「小金井くん、さんもプール練参加するらしいわよ」
「お!やっとさんやる気になったのか!」
「いややる気になったって言うか」
「で、スクール水着で練習するのよね?」
「ちょっと変なこと言うのやめてよ監督、しないよ!?しないからね!?何て目で先輩を見てるの黒子くん!」
「いえ……楽しそうだな、と思って」
「思ってないよね今思いっきり目逸らしたよね!違うから!別に水着がどうのって変なこと話してる訳じゃないから!」
「えーじゃあさんはビキニとか着ないの?」

着ねえよ。

prev | INDEX | next