Machine-gun Talk! 29

地元のデパートで格安の水着を買った。ゆるめの半パンにタンクトップがついてるやつだ。格安といってもやっぱりバイトもしてない貧乏学生には高くて今月のお小遣いと先月のお小遣いがほとんど全部飛んでいった。経費で落としてもらおうかと思ったけれど、ネタ帳をちらつかせながら微笑む伊月くんを見て気が変わった。だってダジャレを聞かせたくてうずうずしてるような顔してたんだもの。我ながら賢明な判断だったんじゃないかと思う。

買ってきた水着の上にTシャツを着ると案外街角に居ても大丈夫なんじゃないか、と思えるような格好になった。プールに入る直前ではさすがにTシャツ脱いだけどね。練習メニューがキツくて本当に体型がどうの、なんて言ってられない。コガくんは「ビキニは男のロマンなのに」とか言いながら愚痴っていたけれど、そういうのは愛する可愛い彼女が出来たときに求めてあげるべきなのであって、彼はロマンを求める相手を間違ってるんじゃないかと思う訳なのです。というよりバスケであらゆるところが逞しくなってるのにビキニ要求されたら多分あたし泣いちゃうと思う。

「うわあああ助けてー!」
「どうした!?」
先輩が沈みかけてます!」

初体験のプール練にテンションが上がって浮いたり跳ねたりしてたら深いところに入ってしまっていた。爪先立ちで跳ねながら助けを求めるとすぐさま救出に向かってきてくれたつっちーに何度もお礼を言って、戻ってくると日向キャプテンたちの様子が何やらおかしい。いつの間にか巨乳でビキニのお姉さんが紛れ込んでいる。え!誰あの美人さん!めちゃくちゃ可愛いんだけど!

「えっと……どちら様?」

監督の質問に対して語尾にハートマークを飛ばしながら美人さんは言う。

「テツ君の彼女です。決勝リーグまで待てなくて来ちゃいました」
「テツ君?」
「黒子テツヤ君」
「……」
「えええええ!黒子オマエ彼女いたの!?」
「違います。中学時代マネージャーだった人です」
「ってことはあたしより年下……!」
「驚くポイント違くね?」

ちらちらと美人さんを気にしているらしい日向キャプテンを監督が殴り飛ばした。い、今のはどっちも可哀想だ……!

驚く誠凛をよそに、美人さんは誠凛バスケ部の特徴を次々と挙げていく。

「誠凛バスケ部キャプテンでクラッチシューター、日向さん」
「イーグルアイを持つポイントガード、伊月さん」
「無口な仕事人でフックシューター、水戸部さん」
「小金井さん、と土田さん」
「ギリギリBの監督、リコさん」
「ふざけんな!」

胸のサイズを暴露された監督が美人さんに食って掛かった。さほど気にする様子もなく美人さんは続ける。

「マシンガントークな女子バスケ部キャプテンで誠凛のマネージャーの、さん。サイズは「あああああ言わなくていい!無駄な情報は言わなくていいから!!」

危うく胸のサイズを暴露されそうになって慌てて美人さんの口を塞いだ。何て恐ろしい子だ。

じっと美人さんを見ていた黒子くんが「青峰君の学校行ったんですか」と聞いて美人さんが頷く。青峰君って誰だろう。何となく美人さんが寂しそうに見える。可愛い……じゃなくて、午後練のためにシャワー浴びて着替えて来なくちゃ。

美人さん改め桃井ちゃん(やっぱり年下だった)はあたしがシャワーを浴びて髪を乾かしている間に黒子くんとの話を終わらせたらしく帰っていってしまった。久々に年下の女の子と知り合いになれそうだったのにな。少し残念だ。でも、決勝リーグで会うみたいなこと言ってたし、まだまだチャンスはあるよね。よし、午後の練習も頑張ろう。

「今日の午後練のメニュー三倍にしたから」
「ちょっ、はあ!?死ぬって!」
「うん死ねばいい」
「ぴょ!?」
「やーいやーい!相田監督を怒らせた罰だ!」
「言っておくけどさんも三倍だからね」
「ぴょ!?」

にっこり笑った監督に本当にメニューを三倍にされて、その後一文無しなせいで空腹が限界突破しそうなのにも関わらず何も食べられなかったあたしは黒子くんのおごりでマジバのセットを食べた。そんなのばっかり食べてるからいつまで経っても桃井ちゃんみたいなナイスバディにはなれないんだよ、という悪魔の囁きが聞こえたけれど無視を決め込む。育ち盛りの運動部にとっちゃ、背に腹はかえられないのだから。

さん、その諺の使い方は微妙に間違ってると思いますよ」
「えっ……マジで?」
「マジです」

先輩の威厳も形無しだね!

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