Machine-gun Talk! 32

「黒子くんがキセキの世代の幻のシックスマンってことはさ、少なくともキセキの世代って黒子くんの他にあと5人はいるんだよね。黄瀬くんが海常で、緑間くんが秀徳でしょ。あとは、……えーと、桐皇に青峰くんって子がいるんだっけ。あたし会ったことないんだけどさ、どういう感じの子なの?」

「……帝光中のエースだった人です」

いつも割かし無表情な黒子くんがこのときは少し寂しそうに見えて、あまり触れられたくない話題のようだったからそれ以上は聞かなかったけれど、緑間くんの試合を見てからなら分かる。天才揃いの帝光中でエースをやっていたという青峰くんとやらがめちゃくちゃ強いプレイヤーだってことが。黒子くんにはそれ以上深くは追及出来なかったけど、火神くんは青峰くんと会ったことがあるどころかワンオンワンを申し込まれたらしく、気に入らないけれど実力のある強いプレイヤーだと言っていた。何か気に障ることをされたのか、青峰という名前を口にしただけで火神くんの額に青筋が浮かんだのを見て、道理で今日はいつも以上に気合が入ってる訳だ、と内心一人で納得。

帝光の元エースかつ桐皇のエースであるらしい青峰くんは何故か今日は不在らしく、「前座」だなんだと言っていたけれど、これのどこが前座なんだと問い質したくなってくる。青峰くんを除いたスタメン相手に誠凛は絶賛苦戦中であった。

桐皇の動きがどうもおかしい。火神くんのアウトサイドの弱さはまあ、研究されてるなら知られていても不思議ではないけれど、それにしても対応に入るのが早すぎるのだ。まるで最初からそうするのが分かってやってる、ような。初めて見せるはずの日向キャプテンのドリブルも気弱少年に止められてしまって、目が点になる。これじゃあ本当に相手に全ての先を読まれてるみたいだ。

おろおろとしながら隣の監督を見ると何故か口角を上げて笑っていた。しめしめ、という言葉が似合いそうな笑みに、「甘いぞ小娘!」ときた。いやいや甘いぞ小娘じゃなくて、このままじゃヤバいよ誠凛の攻撃全部通じないまま無効化されたも同然になって負けちゃうってば。そう言おうとした言葉は黒子くんがスクリーンをやりに行ったことで否定された。

「彼は女のカンでも、次何するかわからない!」

本当、その通り。神出鬼没だし次何をするのかも分からないし、黒子くんが同じチームの選手でつくづく良かったと思う。ていうかさっきの余裕たっぷりの監督めちゃくちゃ格好良かったんだけどここ最近で一番痺れる男前っぷりだったんだけど!ねえ!あたしもこんな出来る女になりたいんだけど!

監督のイケメンっぷりに悶えている暇もなく、第一クォーター終了時で4点差。思ったより食らいついていけてる。これからきっちり巻き上げていくためにも、一年コンビに期待がかかっているのだ。そしてその期待に答えるように、火神くんがダンクを決める。俄然勢いに乗り始めた……と誰もが思ってたいたように見えたけれど、どうやらそうでもないらしい。痛めた火神くんの足はまだ完治していなかった。あたしがテーピングをやろうかと申し出たものの、自分でやりたいから、と言って監督に断られた。涙を堪えているような監督の様子に言葉を失う。さっきの勝ち気でイケメンな監督とは全くの別人だった。

この人はこんなにもチームのことを考えているのに、あたしは何も出来ていな「ドーンと構えてくんねーと!」……火神くんの言葉にはっとして顔を上げると、火神くんは座り込む監督を一瞥してからぐっと掌を握りしめて頷いてきた。心配すんな、ってことなの……かな。勇ましい背中に向けてぎこちなく手を振ると火神くんの後ろからにゅっと手が伸びてきて、火神くんの反応から手を伸ばしてきた彼が青峰くんなのだと知る。

身長は火神くんと同じくらい(黄瀬くんと緑間くんを見てて思ったけどキセキの世代って皆大きいよね)で、何て言うかこう、迫力がある。纏う雰囲気はさながらラスボスのようで、風格だけでもとても年下の一年生とは思えない。緑間くんもなかなかの威圧感があったけれど、威圧感なんてものじゃなく、青峰くんからは魔王のような重圧が感じられた。間違いない。こいつは強敵になる気しかしないぜ!

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