Machine-gun Talk! 34

第三クォーター開始早々から、体もばっちり温まって万全の状態の青峰くんが仕掛けてきた。火神くんを振り切るキレ、かなりのスピードを出していたはずなのに急停止して後ろに跳ぶフェイダウェイ、どの動きをとっても速さが桁違いで、ぼーっとしているとゲームがどんどん進んでいってしまう。火神くんの速攻も止められてしまった。今のは振りきれたと思ったのに!地団駄を踏みたい気分になっていると、とうとう青峰くんが本気で動き出した。ドリブルの途中でわざとロールしてみたり、とにかく動きが変則的なのだ。火神くんが翻弄されている。つっちーと水戸部くんとキャプテンの三人がかりのブロックで止めたかと思った青峰くんのシュートは何と、ゴール裏から打ち込まれた。

そのあともフックシュートのようなジャンプシュートのような、よく分からないフォームで撃ったボールがバンバン入る。どうしてあんなめちゃくちゃなシュートが決まるのか、もう訳が分からない。ああやって投げてるだけじゃボールはゴールに跳ね返されるのに、青峰くんのシュートは面白いくらいゴールネットに吸い込まれていく。実際にここまでボールを自由自在に操る人は見たことがなかったけれど、これはストリートバスケのスタイルだ。火神くんの高い跳躍にも動じず、上体をほとんど寝かせながらシュートを放つ。当然のようにボールはネットに吸い込まれていく。緑間くんの超弾道シュートに度肝を抜かれたときにも思ったけれど、もう一度使いたい。そんなの有りなのかよ!

とうとう20点差をつけられて、いよいよ逆転のチャンスが遠ざかってしまった。バスケットカウントもとられて、まさしく手も足も出ない状況。火神くん一人じゃ青峰くんは止められない。監督もそう思っていたのか、黒子くんが投入された。秀徳戦で見せた超弾道パス……に、青峰くんも着いてくる。速い!青峰くんが追い付くのを見越してか、火神くんがキャプテンにパスを出した。

「決めてくださーい、キャプテン!」

祈るように応援する一年生にキャプテンが檄を飛ばす。

「オレが撃つときは称える準備だけしとけや……!」

あらら、クラッチタイム入ってたみたい。

「お前もだからな!応援の声がちいせえんだよ!」

えええ何それあたし一年生トリオのとばっちりじゃないか。応援の声が小さいんじゃなくて息を呑むような展開にベンチが着いていけてないんだよ!

黒子くんが入ってから流れが変わって、点も決めれるようになってくる。イグナイトパスの構えになった黒子くんの前に青峰くんが立ち塞がった。何してるんだ青峰くんそんなところにいちゃ加速するボールに吹き飛ばされ、…なかった。青峰くんは片手で黒子くんのイグナイトパスを受け止めたのだ。黒子くんの顔に驚愕の色が浮かぶ。切り札がなくなった誠凛を青峰くんが五人抜きしてゴールを決めた。絶体絶命すぎる。

黒子くんのパスが悉く青峰くんに受け止められ、とうとうロール中にシュートを打ち出した青峰くんに火神くんが完全に翻弄されている。ふいに監督が何かを見つけたような反応を見せ、つっちーに指示を出した。黒子くんと代えるのかな?「火神!」つっちーが火神くんを呼び寄せてコートの外は騒然となった。抗議する火神くんに向かって監督が一喝すると、唇を噛みしめた火神くんがベンチに座る。手が白くなるほど握りしめて怒りに震える彼に、あたしがかけられる言葉は存在しない。そっとタオルとお茶を渡すと無言でただ首を振られた。

第四クォーター、残り五分で40点差。黒子くん含む選手皆が体力の限界を迎えようとしている。諦めたくなかったし負けたくなかったけれど、ぼろぼろになった皆を見ていられない。目を塞ぎたくなったけれど、黒子くんは違った。諦めてなんかいない。手を叩いて声を張り上げた。どうせなら最後まで全力で足掻ききってやらなくちゃ。

「声出せ!最後まで」

後ろからコガくんにがっしり肩を掴まれた一年生の応援にも士気が戻った。皆が懸命に声を張り上げる。誰一人として諦めず、点差が広がり続けても、全員が最後まで戦い続けた。結果は112対55で誠凛は圧倒的な敗北を味わった。涙は今日が終わるまで取っておくことにする。試合が終わっても、じわじわと侵食するような虚無感は続いた。

「ごめんあたし火神くんと黒子くん待ってるね」
「おー、なるべく早く来いよ」

先に部屋を出ていく二年生を見送って、扉の近くで火神くんと黒子くんを待つ。この二人が何よりも心配だった。

「圧倒的な力の前では、力を合わせるだけじゃ……勝てねーんじゃねーのか?」

火神くんの声を聞いて、足が床に固定されてしまったかのように動かなかった。だって、そんな絶望したような声、聞いたことなかったから。火神くんが出てきた後、すぐに黒子くんが部屋を後にする。扉の近くにいたあたしには見向きもしなかった。壁に拳を当てる姿を見つめたまま、どういう言葉をかけたらいいのか分からずに立ち尽くす。涙が頬を伝った。悲しいんじゃない。悔しいんだ。本当に泣きたいのは選手たちの方なのに、こんなんじゃマネージャー失格だって笑われてしまうだろうな、とは思ったけれど、それでも止まらなかった。

そして、残る決勝リーグ二日。あたしたちは負けた。鳴成と泉真館に負けた理由の言い訳なら幾らでも出来るだろうけど、言い訳をしたところで試合の結果が覆る訳でもない。あたしたちは負けたのだ。それは同時に、誠凛のインターハイへの挑戦が終わったことを意味していた。コート上で立ち尽くす背中を見て、あの人なら皆に何て言葉をかけるだろうと考えた。やっぱりあたしは、彼らにかける言葉を見つけられない。

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