Machine-gun Talk! 35

インターハイに負けた誠凛が次なる目標として挑むもの、それがウインターカップである。一年生はウインターカップの存在を知らなかったらしく、二年生から「負けたら今度こそ全裸だ」と言われて戦慄していた。インターハイに行けなかったショックはまだ抜けきれなくて、まだまだ本調子だとはお世辞にも言えない状態だけれど、監督の発した「鉄平」という言葉に体が反応する。

「先輩あの……鉄平さんって?」
「ああそうか一年はまだ会ってないか。ウチは七番いないだろ、そいつの番号なんだ。ウチのエース」
「えっ」

実は誠凛の二年生選手は6人いたのだ。誰もそんな素振りを見せてなかったから一年生が驚くのも無理はないと思うけど。それにしても、あの人、帰ってくるのか。一緒にバスケ出来るのかな。懐かしく思うほど関わりはもってなかったけれど、帰ってきたらおかえりとこれからよろしくねって言いたい。あの人のことだから「悪い、誰だったっけ」とか言われかねないけど。あ、でも多分そんな風に言われたら泣く。

青峰くんの試合を思い出す度に、才能に恵まれた彼が羨ましくなった。男女の体格差だとか天性のスピードだとか、あたしと青峰くんの違うところを挙げたらそれこそキリがないけれど、あんな試合を目の前で見せられて大人しくしていられる訳がない。試しにぶん投げシュートを真似してみようと試みた。ガンッという音を立てて勢いよくボールが跳ね返る。やっぱり凡人がやってもあんな風にはいかないか。分かっちゃいたけど納得いかない。

キセキの世代相手に負けを味わされた過去の男子のバスケプレーヤー達は皆こんな気持ちだったんだろうか。才能に嫉妬するというのが一体どういうことなのか初めて分かったような気がした。不意に足音がして、視線を向けると思わぬ人物がそこに立っていた。

「黒子くん」
「……どうも」

黒子くんが何だかよそよそしい。練習に来ない火神くんももちろん心配だったけれど、同じくらい黒子くんのことも心配だった。同じ体育館に二人で立っている気まずさに耐えきれず、「着替えてくる」と早口で告げて逃げるように体育館を飛び出した。黒子くんがボールを床に打ち付ける音が追いかけるように聞こえてくる。誰もいなくなった更衣室に忍び込んで二分で着替えて体育館に戻ると、話し声が聞こえた。黒子くんの声ではない。「どちら様ですか」という黒子くんの声と一緒にガサガサと袋を漁っているような音が聞こえる。次に聞こえてくるはずの言葉を待つ。この声はやっぱり

「木吉鉄平」

誠凛バスケ部を作った男のものだった。

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