Machine-gun Talk! 38

「今年は夏休みの始めと終わり、海と山で合宿2回よ!」

合宿。女バスの部員がチームを作れるぐらいにまで増えた暁にはやりたいことの一つに合宿がある。皆でバスケをして騒いでご飯食べて騒いで休憩して騒いで遊んで騒いで寝る。こんな楽しいことが他にあるだろうか。2回という言葉を聞いて二年生達は何故かショックを受けていたけれど、そんな楽しい体験が夏休みのうちに2回も出来るのだ。これが浮かれずにいられるはずがないよね!

監督と一緒に体育館を出て、皆より一足先に着替えてくると監督以外の部員が秘密会議をしていた。メシがどうのこうのと聞こえてくる。あー…お腹空いたなご飯食べたくなってきた。そして会話に混ざろうとすると何故か「お前はこっち来んな」と言われ、憤慨する。横暴だ!最近日向キャプテン前以上に横暴だよ!あたしだって秘密会議したいよちょっとくらい混ぜてくれたっていいじゃん!

「ダメだ、は今日はもう終わっていいから今すぐ帰ってくれ」
「何で!?」
「あっ、でも日向、料理ならさんマネージャーだし作ってもらえばいいんじゃないの?」
「甘いなコガ、お前は部活の茶もろくに作れないやつに料理が出来ると思うか?」
「……出来ない、かも、と思う」
「それにも練習参加するだろうから、夜に動けるとは思えないしな」

本人を目の前にして何て失礼な!料理くらい出来るわ!

実力テストの時といい、我ながらこうやって捨て台詞を吐いて退散するのがパターン化してきてるよな、と思う。いやでもあたしだって自分でご飯作ってみたりもするし。傷心を癒してもらおうと思って緑間くんに『あたし料理出来そうに見える?』とメールで聞いてみた。『オレはまだ死にたくはないのだよ』思わず携帯をへし折るかと思った。どいつもこいつもあたしの家庭的な一面を舐めすぎてやがる。

思えば、オレたちは部活を返上してやることがあるからお前帰っていいぞ、と言われたときに怪しいと気づくべきだったのだ。ウインターカップに向けて猛練習を重ねる彼らがただの用事で部活を返上する訳がない。久々に友達と放課後脈絡のない話で盛り上がれる!と喜んだあたしが馬鹿だった。

『緊急事態ですので今すぐ家庭科室に来てください』

所謂ガールズトークに花を咲かせていたところに黒子くんからのメールを受信した。一体何のことやらよく分からずに首を傾げていると黒子くんからもう一通届いた。『男子バスケ部が危険です』ますます訳が分からないんですけど。

友達に事情を説明してとにかく家庭科室に行かなきゃならない旨を伝えると笑顔で送り出された。久しぶりに友達と下校できると思ってたけど、そう上手くもいかないみたい。家庭科室を目指し急いでいると前方に倒れている人がいるのを発見した。慌てて近寄り、見慣れた後ろ姿に驚愕する。廊下にのさばっていたのは我らが誠凛のキャプテンである日向くんだったのだ。……そんなところで倒れて何してんの?

「キャプテン!日向キャプテンしっかり!」
……味の……大虐殺が……」
「えっ何、味の虐殺!?どういうこと!?ちょっ……キャプテーン!」

いつもならうるせえ!と怒号が飛んでくるところだけれど、今日の日向キャプテンからは魂が抜けきっている。不測の事態に混乱したまま、とりあえず近くにいた人に助けを求めてから家庭科室に飛び込んだ。椅子に座ってこちらを向いたコガくんと視線が交わる。

「あ、さんいいところに来た!こっち来てみて!火神が!火神が!」
「火神くんがどうした!?」

もしや火神くんにも日向キャプテン同様味の大虐殺とかいう生命の危機が迫っているんだろうか。緊迫した雰囲気の中、興奮を隠しきれていない様子のコガくんが口を開く。

「火神が料理すげー上手いんだけど!」
「…………は?」

火神くんが料理?え?すげー上手い?え?一体どういうこと?

黒子くんによそってもらったカレーを食べながら事情を説明してもらった。相田監督の料理の腕を向上させるため、合宿メニュー試食会という名目で料理レッスンをしようとしていたそうだ。普通にカレーを作ってもらったところ、それはさながら味の大虐殺のような凄まじい出来映えだったらしい。人智を越えた監督の料理を前に勇者(水戸部くん木吉くんキャプテン)は次々と倒れ、残された者たちが絶望を感じていたそのとき、救世主火神くんの登場!という訳で、監督が火神くんに教わりながら作ったというカレーは美味しかった。だけどコガくんや伊月くんは何故か依然として不味いと訴える。首を傾げていると、木吉くんの名推理によって原因が判明した。プロテイン、ビタミン剤、その他諸々のサプリメントがかかっていたのだ。恐ろしすぎる……!

監督の料理が上達したように見えたのも束の間、また今度は丸ごと煮込まれた寄せ鍋を見て騒ぐ部員たちを見て、炒飯とか簡単に出来るものなら合宿で作ってあげられるのになーと密かに思った。まあ悔しいし面白いから当日まで黙って様子を見ておくことにしてあげようっと!

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