Machine-gun Talk! 43

そういやあたしはキセキの世代の中で一番最初に会ったのが黄瀬くんだったのにも関わらず彼のプレイスタイルを知らない。何度かダンクを決めているところは見たことがあるけれど、さすがにダンクが出来るってだけじゃキセキの世代なんて呼ばれないだろうし、彼にはきっと彼なりのスタイルがあるはずなのだ。ただの可愛い後輩ってだけで終わる訳がない。

黄瀬くん擁する海常には笠松さん含むレギュラーの皆さんがいるし、青峰くん擁する桐皇には桃井ちゃんとか気弱少年とか眼鏡のキャプテンとかがいる。正直、どっちが勝つかは予測不可能だ。中学の時一緒にプレーしていた黒子くんでさえも。勝負を分けるとしたら、きっとエース同士の実力の差だろう。あたしは黄瀬くんの実力を知らないから何とも言えないから言えないけど、あんなおっかないプレーばっかりする青峰くん(魔王)に勝てるのか?って思う自分がいるのも事実。眼鏡の人と握手をする笠松さんの背中を見てぎゅっと手を握った。全力全開でいけますように。

試合は海常ボールでいきなり青峰くんと黄瀬くんの対峙から始まった。うわ、黄瀬くん速い!でも青峰くんも速い!止めた!青峰くんのスティールのおかげで今度は桐皇からの攻撃。気弱少年のクイックリリースきたー!あれ自分で何回やってもタイミング合わないんだよね!リバウンドを取ろうと張り切る早川くん(コート外から見ても熱い)の目の前でシュートが決まった。あ、また黄瀬くんのボール…えええ今の気弱少年のクイックリリースじゃん!何で!嘘でしょさっきの一瞬でコピーしちゃったっていうの!?

「ちょ、黒子くん今の黄瀬くんのあれ何!?どうなってんの!?」
「……そういえばさんは初めてでしたね。黄瀬くんは人のプレーやスタイルを模倣することが出来ます」

やっぱり今のクイックリリース気弱少年の真似してたんだ!道理でそっくりだと思った!

焦る桐皇の中で一人だけ落ち着き払った態度の青峰くんが黄瀬くんのシュートに触れた。後出しで今のに触れるって…ないわ…いや実際目の前で有り得てるんだけどさ。

眼鏡さんのボールをすかさず笠松さんが奪い取る。か……笠松さん今のは痺れるタイミングだよ…!更にはスリーまで決めた姿に感激して称賛の拍手を贈った。日向キャプテンと監督の白い目をスルーするくらいのスキルはあたしだって併せ持っているのだ。パスかと思えばチェンジオブペース、更にそれを切り返して着いてきた黄瀬くんの意表をつくようにしてフォームレスシュートを放つ青峰くんの動きは相変わらずメチャクチャ。だけど黄瀬くんはそんな青峰くんを止めた。一気に歓声が上がる。黄瀬くんってやっぱり凄かったんだ……。

桐皇の怖いところはアンストッパブル青峰くんの他にもう一つある。桃井ちゃんのデータを生かしたディフェンスだ。笠松さんのターンアラウンドからのフェイダウェイジャンパーを完全に読んでいる眼鏡のキャプテン(そういや日向くんも眼鏡のキャプテンだったね)のディフェンス…を笠松さんの速さが出し抜いた。うわ!速い!生で見るとやっぱり全国区のプレーは圧巻で言葉を失う。次の手が分かってるのに追い付けないなんて何て速さなの!

青峰くんの強さは敏捷性にあると誰かが言った。予測不能なプレイスタイルを抜いたとしても、誰も彼には追いつけない…と。それが彼のエースたる由縁である、と。難しいことはよく分からないけれど、ただのバスケでは青峰くんに勝つことは出来ない。それだけは確か。そして、黄瀬くんは人の技術を自分のものにすることには長けているけれど、自分固有の武器がない。良くも悪くも自分の能力以上の相手を真似することは出来ないのだ。青峰くんを倒すのならまずは彼を圧倒できるような必殺技を手に入れないと、調子を上げてきた青峰くんの追い込みにどんどん迫られている海常は苦しくなる一方で。18対18の同点になったところで海常がタイムアウトをとった。戻ってきた黄瀬くんは青峰くんとのワンオンワンを避けるような素振りを見せて、笠松さんが果敢に体を張って青峰くんのシュートを止める。でも体格差があるせいで吹っ飛ばされた。すぐに起き上がった笠松さんに心配はいらないと判断したけれど、それにしてもあの人胆が据わりすぎてないか。あたしのバスケ魂を何回痺れさせたら気がすむんだろう。


色々と思うところがあるのかじっとコートを見つめていた黒子くんが口を開く。黄瀬くんは青峰くんに憧れてバスケを始めて、一度も勝ったことはなかったらしい。つまるところ青峰くんは黄瀬くんのヒーロー的存在だったってことで、きっと、追いつきたいと思いながらもどこかでずっと自分より上にいてほしかったんだと思う。憧れの存在であり続けてほしかったんだろうな。複雑だけど気持ちはよく分かるような気がした。やけに静かな、だけど闘志に燃える黄瀬くんに感じた違和感の正体が黒子くんの話を聞いた今なら分かる。

「黄瀬くんがやろうとしていることは青峰くんのスタイルのコピーです」

彼は憧れの人を超える決意をしたってことだ。

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