Machine-gun Talk! 48

目的のためには手段を選ばない氷室さんの戦略で紫原くんとも戦うことになった。火神くんが氷室さん、木吉くんが紫原くんを相手にするポジショニングらしい。何か木吉くんの顔ちょっと怖いんだけど…と思ったらイグナイトパス来たー!木吉くん取れるんだあのパス!さすが!さすが誠凛バスケ部を創った男!そのままダンクを決めた誠凛に歓声が上がる。それにしても木吉くんと紫原くん一瞬険悪な雰囲気だったんだけど大丈夫なのかな。氷室さんがボールを持って、火神くんのディフェンスをかわしてシュート……お、おおおお!超ビューティフルシュート!上手い!思わず見とれてしまった。

火神くんの反撃に紫原くんが反応しようとしたそのとき、いきなりザアアアアッと雨が降りだした。慌ててタオルを被るもタオルごとびしょびしょになっちゃって全くの意味なし。氷室さんが何やら火神くんに持ち技らしきシュートを披露しているのが見える。……ブロックをすり抜けた!?

唖然とする誠凛の前で紫原くんと氷室さんの二人が立ち去ろうとする。あ、ちょっと待って、あたしまだ紫原くんに言い残したことがあるんだけど、

「ちょっと待って、紫原くん!」
「んー?」
「ちょっと予約しておきたいんだけどさ」

振り向いてアンタ誰だと言いたげな顔をする紫原くんに構わずあたしは言葉を続けた。言いたいことは決まってる。

「今度試合とかで会ったときあたしのこと持ち上げてくれないかな!」
「……は?」
「はぁあああぁあ!?」
「ちょっ何言ってんすか先輩、いや!言うんじゃないかとは思ってたけど!」
「キャプテンと監督に聞かれたら怒られますよ!」
「だからあの二人がいないときにわざわざ予約してんじゃないの」
「そういう問題じゃねェ!」
「で、紫原くん、あの、返事は……」
「あーうん、どうでもいいしまいう棒奢ってくれるならいいよ」
「いいの!?」
「まいう棒奢ってくれなかったらヒネリつぶしちゃうかもだけど」
「……まいう棒奢るだけでいいんだ……」

これから紫原くん達のいる陽泉と対戦することになる日まで毎日まいう棒チェックしよう。固く決意すると後ろから火神くんに控えめに頭を叩かれた。痛い!手加減したんだろうけど痛い!何かポカッて感じの音したんだけど!

「火神くんあたし女の子なんだからもうちょっと優しく!ていうか何で叩くの!」
「何で叩くのじゃねーっすよ先輩キセキの世代相手に何言ってるんすか!お父さんのときの二の舞だろうが!」
「いやだって二メートル越えてる男の子見たらなんていうか……こう……持ち上げてほしいなーって血が疼くじゃん?」
「疼かねーよ!そんなことしたがるの先輩だけだっつーの!ですよ!」
「タイガ、お前もまた面白い子を彼女にしたな……」
「彼女じゃねーんだけど!?」
「そんなことはまあいい、次会うとしたら」
「冬だな。次はお互いユニフォーム着てやろうぜ」

氷室さんにそんなこと扱いされたのが何気にショックだったけど横槍を入れた木吉くんがやけにキリッとしてたから口を挟むのはやめて、目的(野望)は果たした訳だしさっさとテントに入りにいくことにする。あ、また紫原くん黒子くんの頭をポンポンって!ポンポンって!おい!「紫原くん、今でもやっぱりバスケはつまらないですか?」と言う黒子くんの声が聞こえた。紫原くんが何て言ったのかは雨の音であんまり聞こえなかったけど「向いてるからやってるだけじゃダメなの?」と答えた声だけは何とか聞き取れた。…あれだけ身長あったらバスケが楽しくて仕方なくなりそうなのに、そういうタイプの人もいるんだなあ。羨ましいようで羨ましくないような複雑な気持ちだ。紫原くん約束とかすぐ忘れちゃいそうな感じだけどウィンターカップではちゃんと約束守ってくれますように。

駅につくと全員びしょ濡れになってしまっていた。テントに避難したのも一瞬だったからTシャツが絞れるくらいに濡れてお母さんに怒られると思うと憂鬱になる。黒子くんの紫原くんに関するあれこれを聞いてると、凡人には理解できない天才なりの悩みとかがあるんだろうなーという気にもなってきてしまった。人はそういうのを贅沢な悩み、とかいうのかも知れない。誰にだって悩みはつきものだもんね。でも、バスケに興味ないのに才能があるからどんどん上手くなっていっちゃうのってある意味残酷なんじゃないかな。才能すらないお前に言われたくねーし、とか本人には言われちゃうかもしれないから口には出さないでおくことにするけど。パパさん以来の念願の抱っこをしてもらう前にヒネリつぶされちゃたまんないもんね。

火神くんとあたしの携帯に監督からの召集メールが届いた。木吉くん以外の二年生全員でざわざわしてる体育館からキレてる監督が出てきて、さらにその奥から涙を浮かべた桃井ちゃんが飛び出し…黒子くんに飛びついた。え、えええ……?

どうやら劇的な展開はまだまだ終わらないようである。

監督の説明を要約するとこうだ。休みなのにも関わらず普通に練習をしてしまった二年生のところに、制服でびしょ濡れの桃井ちゃんがやってきた。まあ当然のことながら超ドキドキしてしまった二年生は監督の怒りの沸点を上げてしまって外周を命じられて走りに行って、あ、帰ってきた。おつかれー。それで、困ったときの黒子くんを学校に呼び寄せて泣きついた桃井ちゃんが発した言葉が「私青峰くんに嫌われちゃったかもしれない……!」で、ますます深まる謎の事態。一体どういうこと。

落ち着いてきた桃井ちゃんがゆっくり話した内容をさらに要約すると、肘を故障した青峰くんを心配した桃井ちゃんが監督に青峰くんをスタメンから外すように言ったところ、それが本人にバレて青峰くんは荒れまくった挙げ句に「余計なお世話なんだよブス!」的な暴言を吐き捨ててショックを受けた桃井ちゃんにガングロ呼ばわりされ、桃井ちゃんは桃井ちゃんで黒子くんに助けを求めにきたっていう訳だ。分かるよ、さりげなく上着を貸してあげるところからして黒子くん紳士だもんね。泣かせちゃった火神くんとは違うもんね。頭をよしよししてあげるのも紳士がなせる所業だもの。

「すいません、じゃあボクちょっと桃井さん送っていきます」
「おーう」

黒子くんは紳士だし泣かせちゃった火神くんはそれを見習うべきだと思うけど、それより青峰くんがまず黒子くんを見習うべきだと思う。幾らなんでも女の子にブスって言うのは頂けないなーましてやあんなに可愛らしい子に。

「じゃ、あたしはちょっくら青峰くんに鉄拳加えに桐皇まで行ってきますか」
「おーう……って、おおう!?」

何か今日はやけにドラマティックな展開に遭遇することが多いなあと他人事のように思ってしまった、女心を諭すため行動力だけを頼りに桐皇学園まで旅立って参ります。驚きながらも「死ぬんじゃねーぞ」って一人で送り出されたあたり、あたしと桃井ちゃんの扱いが天と地ほどの差があるような気がすることについてはこの際目を瞑ってやろう。それにしてもあんな可愛い子をブスって言ったりして泣かせるなんて、青峰大輝、バスケの腕は認めるけど女心に関しては全く理解してないのだとお見受けする。ほとんど喋ったことないけどとりあえず桐皇に行ったら「桃井ちゃん泣かせるなんて許さないぞ!」って言いながら思いっきり説教してあげるから待ってろ青峰。お前は桃井ちゃんの何なんだって聞かれたらどうしようもないけど、あたしにまで「うぜえんだよブス!」とか言ったら往復ビンタの刑に処してやるんだから。……言われる気がしてならないのは今は気にしちゃいけない問題なのである。

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