Machine-gun Talk! 49

「たのもーう!」

相手チームのエースにガツンと言ってやる!と固く決意したあたしの頭によぎったのは『これはまさしく道場破りというべき状況なんじゃね?』ってことで、そう考えたら考えるほど楽しくなってきてしまったあたしはノリノリで桐皇の体育館の扉を開けた。…あれ?いない。桐皇の皆さんの視線が一斉に自分へ注がれるのを感じる。

「…………」
「…………」
「……あの、ど、どちら様です、か……?」

眼鏡のキャプテンさんに命令されて気弱少年が話しかけてきた。あたしと話すときもビクビクしてるってことはこの子はビビってるのがデフォルトってことでいいんだろうか。

「誠凛のだけど、気弱少年。青峰くんどこ行ったか知らないかな?」
「きよっ……あ、いや、スミマセン!気弱でスミマセン!あの人がどこに行ったか分からないんです役立たずでスミマセン本当に自分なんて虫けら以下です!スミマセン!」
「いやごめんそんなに謝んなくても……ていうか虫けらって、クイックリリースめちゃくちゃ上手いんだから全然虫けらじゃないじゃん。むしろ虹色に輝いてるから自信もってよ」
「じ、自信なんて勿体ないお言葉を女の人から貰うなんて……スミマセン!じゃあ自分なんて虹色の虫けら以上っす!」
「あ、虫けらなのは変わらないんだ」
「すっ……スミマセ「あー、もうええ桜井。自分とこのお嬢ちゃん話させてたらいつまで経っても埒が明かんわ」

桜井くんというらしい気弱少年を押し退けてキャプテンが登場した。

「堪忍な、桜井の謝り癖はいつものことやから。ワシは今吉翔一、……誠凛のマネージャーの子やろ?青峰に何か用あるん?」

あえてマネージャーだとは言わなかったのに今吉さんは眼鏡の奥の瞳を少しだけ開いて問いかけてきた。なんというか…邪心がちらつく瞳だ。日向キャプテンとか笠松さんとはまた違った感じの風格がある人だな。

「用っていうかちょっと桃井さんにブスって言ったらしい件について説教のついでに鉄拳制裁してやろうかと」
「……ほう」
「あ、キャプテンさんも青峰くん探すの協力してくれます?」
「ぶっ!」
「ちょ、若松さん!吹き出しちゃ失礼ですよ!」
「無茶言うな桜井、あの青峰に説教するって言う女が来たんだぞ!是非ともぎゃふんと言わせてやってほしいところだろうが!」
「若松やかましいで自分。まあ、とりあえず女の子一人で放っとく訳にもいかんし……入りや」
「いいんですか!?」
「とか言うて自分もう入る気満々やろ」

お言葉に甘えて体育館に入るともう練習は終わってしまっていたらしくあのめちゃくちゃ走るセンターの人(若松くんっていうらしい)とか桜井くんとかの他にも何人か見たことある人達がストレッチをしていた。転がってたボールをゴールに投げ込むとバシャッと気持ちのいい音がする。ダメ元で桜井くんにクイックリリースのコツ教えてもらおうかと思ったけど、「わざわざ敵さんにウチの切り札教えてどないするんや」と今吉さんに穏やかな口調で言われて断念した。あたしも黄瀬くんみたいに飲み込みが早かったら色々と捗るんだろうけどしょうがない。凡人と天才の差だもんな。

「お嬢ちゃん青峰来たで」
「……ああ?」

同い年と判明した若松くんと親睦を深めようとしたところでお目当ての青峰くんが登場した。「青峰テメエ練習サボってんじゃねーよ!」と詰め寄っていく若松くんのガッツが凄い。改めて試合じゃないところで見ても、青峰くんには迫力がある。キセキの世代のエースってやっぱり雰囲気があるよね。本当に魔王みたいだ。ってことはそいつを成敗しようとしてるあたしはさしずめ勇者ってところか。生きて返れるのか不安だけど制裁を加えてやると桐皇の皆さんに宣言した限りにはやらなくては。落ち着け、そもそも相手は黒子くんとか黄瀬くんとか桃井ちゃんとかと一緒の一年生なんだぞ!年下なんだぞ!幾ら迫力があるからっていっても所詮は可愛い年下、

「誰だよこのちんちくりん」

全然可愛くねええええ!ちんちくりんって言われた!確かに青峰くんぐらいの身長の子から見たら小さいように見えるんだろうけど、いや、そもそも190センチ近いところから見下ろされちゃ誰だってちんちくりんだから!分かってる!分かってるけどムカつく!

「桜井くんちょっとボール貸して!」

片付けの途中だった桜井くんに手を振ってボールを投げてもらう。説教しようとする若松くんとそれを宥めようとする今吉さんの間にいる青峰くんに向かって思いっきり投げつけた。避けられた!分かっちゃいたけど居ても経ってもいられなかったというか、いや、まずは落ち着け勇者。魔王の目の前で弱味を見せちゃ後は死ぬだけなんだからここはあくまで冷静にじっくりじっくり

「危ねえな何すんだよブス」

前言撤回する。これが落ち着いていられるものか。若松くんの後ろに立つと青峰くんの顔しか見えなくなったけどまあいい。姿は見えなくとも声は聞こえてるだろうしね!

「誠凛のっていう者だけど、青峰くん、ちょっといいかな」
「あー告白なら悪いけどオレ巨乳以外は受け付けねーから。掘北マイぐらいでかくなってから出直して来いよ」
「誰が出直すか!そうじゃなくて、あたしは桃井ちゃん泣かせた挙げ句にブスって言ったことに対して説教してやろうと思ったの!女の子にブスってのは禁句でしょましてやあんなに可愛らしい子に言うなんてさあ!男としてなってないよキミ!」
「はー?さつき?んなもんアイツが勝手にキレ返してきて泣いただけだろ、オレのせいにすんな面倒くせえ。ブス」
「あ、青峰……幾らなんでもブスって言いす「だからブスって言うなって言ってんでしょうがあああ!」

背を向けて歩き出そうとした青峰くんの背中に向けて、あらかじめ扉の外に用意してあった傘を斜め上に向けてバッと開くと青峰くんは後ろから水を被って「冷てっ…何すんだよこのクソガキ!」と叫んだ。ざまあみろ!心の声と後ろから聞こえた若松くんの声が重なる。今吉さんと桜井気弱少年はともかく、この人はきっとあたしの味方だ。色々規格外のルーキー抱えてるとお互い苦労するよね本当に。

「有り得ねえマジで女かよお前!おい!良、タオル持ってこい!」
「はっ……はい!スミマセン!」

桜井くんから渡されたタオルで機嫌が悪そうに濡れた体を拭く姿を見ていると説教し足りない気もするけれど、一応、とりあえずは気が済んだ。制裁と魔王退治の意味が最初と違ってる気がするけどまあいい。あの青峰くんに叫び声を上げさせられたことだけでもあたしは十分満足である。長居するのも悪いからそろそろ(ぎゃーすか言ってる青峰くんは放置して)お暇しようかな。

「ちょお待ち」

笑顔の今吉さんに肩を叩かれたっていうより鷲掴まれた。え、何か今吉さん笑ってるけど目が全然笑ってな……

「い、今吉さ、手に力入れすぎなんじゃ」
「まっさか自分が外に放り出したボールと濡らした床磨かんと帰る訳あらへんやろ?ちゃんと後始末やってってくれるよな?……なあ、お嬢ちゃん?」
「…………すみませんでした」

しまった。倒すべき魔王はまだ他に存在していたのだ。うっすら開かれた目に背筋が凍った。この後ちゃんとボールを拾いに行って床も拭いて今度こそ帰ろうとするも「ボール磨いてくれるなんてホンマ助かるわ~」なんて言った今吉さんにボール磨きをさせられて、心底誠凛が恋しくなったことは無事に帰れたら黒子くんにでも報告することにしよう。

果たしてバスケの魔王(青峰)と魔王マスター(今吉)の両方をいっぺんに敵に回してしまった勇者の選手生命や如何に?

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