Machine-gun Talk! 50

試合への十分すぎる意気込みのおかげで目が充血してしまっている火神くんを見るのはなんだか久しぶりな気がして、やっとウィンターカップ予選がやって来たんだなあ、と実感する。今までと違うのは今回がスタメン初復帰となる木吉くんがずっとニコニコしてることと遅刻してきた黒子くんがしれっと『え?ボクさっきからいましたけど?』みたいな態度をとるも見破られてしまったことぐらいだ。あ、あとユニフォームが新しくなったんだよね。木吉くんは気づいてなかったみたいだけどあたしはちゃんと気づいてたからねコガくん。

ウィンターカップ予選の出場校8校のうち、東京代表としてウィンターカップ出場権を得られるのは2校だけ。今日の試合でまずは勝った4校に絞られて、それからリーグ戦を行って出場校が決定される。今日の相手はインターハイ6位の丞成高校だ。決して負けることは許されないから心してかからなくちゃいけない。何故か今吉さん(魔王マスター)から激励のメールが来ちゃったもんだから尚更頑張らなくちゃいけない。そもそもいつの間にアドレス交換してたんだっていう。侮れない。恐るべし桐皇。メールから判断すると間違いなく誠凛の試合の偵察に来ると思うんだけどあの人が来ると応援とか色々やりにくくなっちゃうからどうせ来るなら桜井少年に来てほしい。本人目の前にして言えるはずもないからいない内に心の中で言っておきます。

整列の間もずっと木吉くんの顔は緩んでいて大丈夫なのかと少し不安になる。鉄心って書いた紙背中に貼りつけて「お前は鉄心だろ!思い出せ!内に秘めたる決して折れない心を!さあ!思い出すんだ木吉!」とか言って励ましたいけど、緩い雰囲気の中に不思議と安心感があるもんだから木吉鉄平っていう人は不思議だ。負ける気がしないっていうか、何というか。いつもへらーっとして天然な感じがするのに日向キャプテンとはまた違った意味で頼りがいがある。……これが所謂ギャップってやつ?

整列すると相手チームの9番の子が涙を流していて驚愕した。鳴海くんというらしい。誠凛の監督が女だって聞いてたのに…と嘆いている。まずい。嫌な予感しかしない。

「もっとこうボインっつーか……テンション上がんねーっつーか……色気ゼロじゃん!あと何なんすかあの隣に座ってるちんちくりんは!オレのトキメキを返せー!」

ちんちく……!?え、何それあたしのこと!?あたししかいないよね分かってるけどさ!恐る恐る隣の監督を見ると笑顔でブチ切れていた。怖い。怖すぎる。ウィンターカップ出場がかかっていることと今吉さんからの激励に加えて負けられない理由に『負けたら自分たちが監督にブチ殺される』が追加された。これは死に物狂いで応援するしかあるまい……!

試合が始まると、まあ予想はしてたけど火神くんにダブルチームがついて彼をイライラさせることこの上ない展開を余儀なくされてしまった。フラストレーション溜まりまくりの火神くんに黒子くんがため息をつく。確かにここまであからさまに集中狙いされると苛立つ気持ちも分からなくはないけど…とりあえず我慢してもらうしかないよね。どうやって彼のご機嫌を取ろうか考えていると木吉くんが火神くんをバシバシ勢いよく叩いていた。叩かれてる火神くんがめりこみそうな勢いだ。

「何言ってんだ火神、人はそうそうめりこまない」
「知ってるよ!」

たまーに木吉くんこういう訳分かんないタイミングで真面目にボケるよね。思わず芸人並みにベンチからずっこけそうになってしまう。「楽しんでこーぜ」と言う木吉くんの顔は自信に溢れているように見えた。

木吉くんは体も大きければ手もかなり大きくて、あわよくばいつか自分の手の大きさと比べっこしてみたいと密かにあたしは企んでいる。彼のプレーの強さはその手の大きさを活かした予測不可能なタイミングでボールを掴んだり離したりできることで、ディフェンスの動きを見てからどう動くか決められるから読み合いは無効化されてしまうのだ。パワーもあるしパスも出せる異色のセンターというのが木吉くんのプレイスタイルで、とても常人に真似できるような代物じゃない。まずあたしの手の大きさ…というより一般的なバスケプレイヤーだったらボールを掴むことなんて出来っこないし。おまけにセンターとしても強いんだから、つくづく味方で良かったなあと思う。敵に回してしまったらこの上なく厄介だ。それは黒子くんと火神くんも含む誠凛の選手全員に言えることだけれど。黒子くんからのパスを受け取った火神くんが跳んだ。高い。というよりも、高すぎるんじゃない?

ごっ……と鈍い音を立てて火神くんがゴールに頭突きしてそのまま落ちた。ずるずる引きずられる姿に「誠凛すげえ!」と歓声が上がるけれど素直に喜べない。いや、嬉しいしめちゃくちゃ凄いんだけどね!構図がダサすぎると思うんだよね!何はともあれこれが生まれ変わった誠凛の姿だ!と胸を張ろうとしたところでギャラリーの中に今吉さんと桜井少年を見つけた。悪い予感が当たってしまった。控え目に頭を下げてきた桜井少年にはにこやかに手を振って、今吉さんへの挨拶は無視…出来る訳がない。怖い。威圧感が怖い。会釈だけしておくと片手を上げられた。そこに何の意味も読み取れないけれど、『頑張れ』って意味だと勝手に解釈させてもらうことにする。何事も前向きに受け止めるのが重要なんだよきっと。うん。きっとね。

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