Machine-gun Talk! 55

無冠の五将相手に啖呵を切ったのはいいものの、このまま誠凛に戻ってもいいものなのかとあたしは思いあぐねていた。『お荷物』と『足手まとい』という花宮の言葉が頭の中でぐるぐる回る。自分でも薄々思ってはいたことだけれど、第三者からはっきり指摘されちゃうとやっぱりキツいなあ。マネージャーやるならマネージャーに専念した方が誠凛のためにも良いんだって分かってる。バスケが好きだから、プレイするのが楽しいって気持ちも本当。女バスも部員が揃わない限りは形だけの部活なんだし、プレイする傍らでマネージャーをやることをやめて、マネージャーだけに専念することなんていつでも出来るのだ。

それでもやらないのは女バスであり続けたいって、男バスみたいに強い相手と全力で戦ってみたいって望むあたしの選手としてのプライドが邪魔してるから。男バスの練習に混ぜてもらってプレイしてる間も本当はずっと不安だった。誠凛の力になりたいって思ってるのに、助けになるどころか足を引っ張ってるだけじゃないかって。適材は幾らでもいるだろうにどうしてあたしに構い続けてくれてるんだろう、って。頭の片隅で思っていても口には絶対出せなくて、誰かに相談しても部員がいない限りは解決しやしない問題だって分かってるからこそずるずる引きずってきた気持ちをよりにもよって花宮に言い当てられてしまったことが嫌だった。初対面の相手でさえ思うことなんだから、態度には出さないだけで誠凛の皆にも正直足手まといだよな、とか。思われてるのかもしれない。

こうやって確証のないことばかり考えて疑心暗鬼になっちゃう自分も嫌だ。話を聞いてくれる誰かに会いたいと思ったけれど、試合前のこの時期に他校のバスケプレイヤーを頼る訳にもいかないし、誠凛の選手になんて言えるはずがない。自分でさえまともに整理できてないことを気軽に聞き流してくれる誰かが欲しい。聞き流してくれるだけでいい。そんな都合のいい人間なんて存在してるはずもなく、行き場をなくしてフラフラと辺りをさ迷ってみる。ふと公園にあるバスケのゴールが目に止まった。…バスケしたらちょっとは気が紛れるのかな。

「げ!何でお前ここにいやがる!」

やっぱりいつもより気分が乗らないな、と思いながらもダムダムやってると後ろから誰かが声を上げた。振り返ると黒い肌に白い服が眩しい青峰くんがいた。何でここにいやがる!はあたしの台詞だ。返事をする気にもなれなくてシュートを投げ込むと外れた。もう何回も教えて貰ってるのに日向キャプテンみたいには中々入らない。

「下手くそ」
「…………」
「マネージャーらしいけどアンタも一応バスケ出来んだな」
「…………」
「……何か言えよ気持ち悪い」

あ、ダメだ泣く。これは泣く。自分の実力と立ち位置を思い知らされた悔しさとバスケに対するやるせなさと青峰くんとは言え知人に会えた安心感で目頭が熱くなった。まさか泣き出すとは思わなかったらしい青峰くんはギョッとした顔をした後あたふたし始めた。試合中の唯我独尊な態度とは全然違う一面が見れて面白いんだけど、つい先日桐皇まで殴り込みに行ったお前が言うなって感じだろうけど、今はそっとしておいてほしい。青峰くんの相手を出来るようなテンションじゃない。

「そ、そんなに下手くそって言われたくなかったのかよ」
「……違う」
「事実だから仕方ねーだろ」
「違うって言ってんじゃんかよ青峰くんのガングロ」
「は!?」

最早ただの八つ当たりだ。今回ばかりは青峰くんは何も悪くない。ただ居合わせてしまった場所とタイミングが悪かっただけだ。じゃり、と地面を踏みしめる足音が遠ざかっていった。ほっと一息をつく。ベンチに移動して深呼吸をして自分を落ち着かせると、泣いたからかさっきよりもかなりスッキリした。そして慌てていた青峰くんへの罪悪感が募る。黒子くんか今吉さんに頼んで代わりに謝っておいてもらおっと。視線を下に落とすと大きな影が落ちて、…………あれ?

「目冷やさねえと腫れて余計に不細工になるぞ」

ほらよ、とジュースの缶を渡される。そのまま青峰くんはめちゃくちゃだるそうにしながら隣に(ただし結構な距離を空けて)腰を降ろした。状況が上手く掴めない。ジュースくれるってことで、いいんだよね。

「……ありがたく頂きます」
「後で120円返せよ」

マジでか。いやでも嬉しい。値段以上の価値があると思う。財布に120円丁度なかった気がするんだけどまあ後で考えればいいか。火照った頬と瞼に当てると冷たくて落ち着いた。体温ですぐに温くなっちゃうのが勿体ないな。というよりも優しい青峰くんが珍しすぎて勿体ない。話聞いてる限りでは桃井ちゃんとか今吉さん困らせてばっかりの生意気一年生って感じだったのに。

「で、何でいきなり泣きだしたんだよ」

きた。やっぱりきた。聞かれると思った。

「答えたくない」
「はあー?」

何だそれお前オレの好意を無駄にするつもりかよ、と青峰くんがぼやく。缶を開けて一口飲むと炭酸飲んでるはずなのにほっとした。恐るべし青峰くんの優しさマジック。

「乙女心は常に複雑なんです」
「人に向かって水滴発射する奴のどこが乙女だっつーの」

なかなか根に持つタイプらしい。気軽に話が出来て聞き流してくれる誰か…とはあまりにもかけ離れてると思うけど、話してみるだけ話してみてもいいのかも知れない。

「青峰くんはさ、バスケの壁にぶち当たったことある?」
「ある訳ねーだろ」
「だよねー」

まあ期待はしていなかった。あるって言われた方が驚きだ。

「あたしね、誠凛のマネージャーやりなから女バスの主将もやってんだけど、部員少ないっていうか一人しかいないから男バスにバスケ教えてもらったりしてるんだ。で、マネージャーとプレイヤーの両方で今までやってきたんだけど、それって男バスの負担になってるんじゃないかって最近になって思い始めちゃって。そこに良いんだか悪いんだか微妙なタイミングで他校の人から『誠凛の足手まとい』って言われたのが、まあ……図星だった訳でして」
「長い。簡潔にまとめろ」

まとめられないから困ってるんだよ!無理やり愚痴を聞かせている相手にそんなこと言えるはずもなく。

「つーかバスケすんのにそんな難しいゴチャゴチャした考えなんか要らねえだろ」

挙げ句の果てには『ゴチャゴチャした考え』で一蹴されてしまった。やっぱりキセキの世代相手にこういうこと相談するのが間違ってたか。確かにバスケが好きだって気持ちだけで今までやってきたけど、やってきたからこそぶち当たってる壁なのだ。うーん……。

「あーもー面倒くせ、バスケで悩んでるんだったらバスケで解決すりゃいい話だろーが」

そう言って青峰くんはあたしが足元に転がしておいたボールを拾って、ゴールに向かって投げ入れた。やっぱり上手いなー。ボーッとその様子を見ていると「何してんだよ」と言われ、ボールを投げられる。

「どうせ暇だしワンオンワン相手してやる」

相手はキセキの世代だ。こてんぱんにされるに決まってる。だけど今は、誰かとバスケが出来ることが素直に有り難かった。

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