Machine-gun Talk! 54

本当にこてんぱんにやられてしまった。何せ身長差が30センチ近くもあるもんだから、こっちがいくら手を伸ばそうが届きやしない。せめてあたしにディフェンスをかわせるくらいの技術と瞬発力があれば良かったんだけど、青峰くんの敏捷性を前にして振り回されるばかり。バスケしたら何か解決の糸口が見つかるかもしれない、なんていう甘い考えは速攻で打ち砕かれた。考える余裕なんて皆無。こんなバスケの魔王相手に黄瀬くんもよくワンオンワン挑めたもんだと感心する。放ったシュートを悉くブロックされ、ドリブルで抜こうとしたらボールを奪われ、ワンオンワンをしているはずなのに普通の練習のときよりも早く息が上がる。

「話になんねーな」

当たり前だよ!あたしがキセキの世代と渡り合えたりしたらそれこそビックリだよ!ベンチにへたり込むと青峰くんはボールをあたしに向かって投げた後にくるりと踵を返し、帰るような素振りを見せた。

「あ、ちょっと待ってお金!120円!」

慌てて鞄から財布を取り出して、200円(120円丁度はなかった)を渡すと青峰くんは不思議そうな顔をした。

「どうしたのその顔」
「いや……まさかマジで金返してくるとは思ってなかった」

マジで金返してくれるとは思ってなかった?何のこっちゃよく分からずに首を傾げると青峰くんは「もっと厚かましいのかと思ってたわ」なんて言い出した。そんな馬鹿な。確かに黒子くんにシェイク奢ってもらったり水戸部くんから飴貰ったり色々してるけど、決して厚かましい訳ではない。と、信じたい。水戸部くんはともかく黒子くんにはお金貯まったらちゃんと返してるし。好意に甘えさせてもらうときがあるのも確かに本当だけど。

「80円は今度会ったとき返してくれたらいいからね」
「80円くらい利子でいいだろ」
「駄目だよ80円あったらまいう棒何本買えると思ってんの」
「……紫原思い出す例えだな」
「それはあたしも同じこと思った」

じゃオレ行くわ、と言って黒い肌に白い服が映えすぎてる青峰くんは去っていった。その後一人でふらふら歩いてると黒子くんに遭遇した。というよりも気づかないうちにすれ違ってたらしく後ろから声をかけられた。やっぱり油断してるときに黒子くんに声かけられるとビクビクしてしまう。

さんを探していたんですよ」
「へ?」
「青峰くんからこんなメールを貰ったので」

そう言って黒子くんが見せてくれたメールには『テツんとこのマネージャー預かってんぞ』と書かれていた。預かってんぞ、って何その迷子みたいな扱い!これを見て黒子くんはあたしを引き取りに…いや、迎えに来てくれたって訳か。嬉しいはずなのに何だか複雑だ。まさかとは思うけど泣いてたこと言ったりしてないよね?並んで歩いてると不意に頭を撫でられた。

「悩んでる、と聞いたので」

やっぱり何か青峰くん言ったんだ……!ああああどうしよう。否定する訳にもいかないけど肯定する訳にもいかない。

「悩んでたけど、バスケしてるうちに解決したから大丈夫だよ」
「……そうですか」

本当は解決したんじゃなくて問題を先送りにしたというか、考えるのをやめたっていうか、青峰くんに一方的に話して泣いてちょっとスッキリしただけなんだけど。黒子くんに話したら絶対心配してくれるだろうから言えない。ただでさえ秀徳戦の前のピリピリしてる選手にこれ以上気苦労をかけるわけにはいかないのだ。

「……本当に大丈夫なんですか?」
「二人の自分が方向性の違いによって分裂しかけてたけどもう合体しかけてるから大丈夫」

それは大丈夫じゃないだろう、という怪訝そうな顔をした黒子くんを見て言葉のチョイスを間違えてしまったのだと悟った。いや、ここは下手に話すよりも他の話題だ。とりあえず話題。黒子くんの注意を逸らす他の話題を何か考えなくては、

「あ、青峰くんって意外と良い子だよね。背高いし口悪いし威圧的だから怖い人なんだと思ってたんだけど、ワンオンワンの相手してくれたしジュースくれたりしてちょっと見直した」
「…………」
「黒子くん?」

寡黙な黒子くんがいつにもまして寡黙である。何か気に障ることでもしちゃったのかな、と不安に思ったときに不意に黒子くんが「ボクはバスケが好きで頑張っている人は素敵だと思いますよ」なんて言うもんだからびっくりして立ち止まってしまった。何となく自分に言われてるような気がしたからだ。自意識過剰かもしれないけど、黒子くんなりに遠回しに元気づけようとしてくれてるのかもしれない。考えすぎかな。そうだったら嬉しいのにな。

「でもワンオンワンでさんが青峰くんの相手をするのはさすがに無茶だと思います」
「やっぱり?あたしもそれは思った。こてんぱんにされちゃったよ」

ふっと穏やかに笑う黒子くんの笑い方が好きだ。こう…安心するというか、コガくん眺めてるときに得られるあの感覚に近いものを感じる。花宮に言われたことを思い出すと今でも落ち込んでしまうのは確かだけれど、答えが出ないんじゃ幾ら考えたって仕方がない。誠凛のバスケ部の皆からはっきり言われてしまうまでは、我が儘だとは思うけどマネージャーも女バスも両方やらせてもらいたい。理由は簡単、だってあたしが両方ちゃんとやって男バスの皆に少しでも追いつきたいし認めてもらいたいから。秀徳に勝って花宮のいる霧崎第一と勝負するためにも、黒子くんには頑張ってもらわなくちゃいけない。激励の意味を込めて背中を叩くと「痛いです」と言われた。先輩からの愛は痛いくらいが丁度良いんだよ、きっと!

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