Machine-gun Talk! 58

「2号連れてきたァ!?」

安かったから差し入れに最適だと思って大量に購入したバナナはやっぱり誠凛だけじゃ食べきれなくて、秀徳さんにもお裾わけしに行こうかなと思っていた矢先にコガくんがまさかのカミングアウト。コガくんそれ確か出発前にちゃんと「2号連れてくのは二人だけの秘密ね」って打ち合わせしといたはずなんだけど…。ひいい日向キャプテンが伊月くんのダジャレと木吉くんのボケに2号失踪も合わさってめっちゃ怒ってらっしゃる!割と呑気な皆の中で一人だけめっちゃ怒ってらっしゃる!

「いやだってさんに2号どうしよっかって聞いたら、『別に連れてってもいいんじゃない?』って言ってくれたからさー」
「お前も共犯か!」
「えええ!?責任転嫁もいいところだよキャプテンあいたたたた」

バナナを持って逃げようとしたらすかさず監督に捕まって、拳骨でこめかみをぐりぐりされた。暴力!暴力反対!水戸部くんに助けてもらって「2号探すついでに秀徳にバナナお裾わけしてくるから!」と言い残して控室を出る。こりゃ一刻も早く見つけないと監督とキャプテンの機嫌がえらいことになるぞ。とりあえずバナナあげてから探しても遅くはないよね。秀徳の控室もすぐそこだし。

「秀徳さーん、誠凛のですけど、バナナのお裾わけしに来たんでドア開けてください」
「……何しに来たんだお前」
「だからバナナお裾わけしに来たんですってば」

ドアを開けて出てきたのは宮地先輩だった。余ったバナナを房ごと渡すと怪訝そうな顔をされたから「そんな顔しなくたって毒なんか入ってませんよ」と言うと「入ってたら大問題だわボケ」と返されて、そりゃそうだと思いつつドアを閉めようとする宮地先輩とドアの間に慌てて滑りこんだ。ちょ、宮地先輩危ない挟まる!挟まるからそんな全力でドア閉めようとしたらあたし挟まりますから!

「やめてください宮地先輩そんな勢いでドア閉められたらあたしぺちゃんこになっちゃいますよ!」
「お前なんかむしろぺちゃんこになってしまえばいいわ、出来れば緑間と共にな!」

何か発言に私的な怨念がこもってるように聞こえるのは気のせいか。ぐぐぐと攻防を続けていると「すまんな、宮地も少し気が立っているだけなんだ」大きな手が割り込んできて、見上げるまでもなくそこには大坪さんが立っていた。

「なあ緑間どこ行った?」
「何かおしるこ買いに行くとか言ってたっす!」
「はあ!?おしるこ!?」

大坪さん越しに見えた控室の中は何だかワイワイガヤガヤしている。誠凛の控室も(主にコガくんとあたしが)結構騒がしかったけど、秀徳も秀徳で騒がしいんだな。あそこに置いてある謎の置き物はきっと緑間くんのラッキーアイテムなんだろう。控室の中でも明らかに浮いてるもの。

買いすぎて余ったからバナナをお裾わけにしに来たのだと説明すると大坪さんが「わざわざすまないな」と言ってくれた。さすがはキャプテン。気難しい緑間くんを擁しているだけのことはある。帰り際に「次は負かす!」と宮地先輩が息巻いていたから、とりあえず親指を立てとくと「さっさと帰れ」って言われた。何か宮地先輩とは数回しか会ってないものの、段々邪険に扱われるようになっていってる気がするんだけどなあ。

もしかして外に行っちゃったんじゃないかと思って出ていってみると、大当たり、桃井ちゃんの腕に抱かれている2号を発見した。桃井ちゃんみたいな可愛い子に抱かれるとは何と羨ましい。ほのぼのしながら遠巻きに状況を眺めているあたしとは裏腹に、緑間くん黄瀬くん桃井ちゃん(よくよく考えると凄いメンバー)の間では何やら不穏な会話が交わされていた。

「よこすのだよ桃井」
「なんで!?」
「撃つ……!」

撃つ!?どこへ!?何か今緑間くんから危険な単語が聞こえた!2号が危ない!「緑間く、」声をかけようとするより先に目の前を誠凛のジャージを着た背中が横切った。黒子くんだ。

「テツくーん!」
「黒子っち!?」
「黒子……!」

さすがは個性豊かなキセキの世代の面々、個々の反応も様々である。仲良いんだか仲悪いんだか微妙なんだか判断しかねるね。2号も見つかったことだし黒子くんと一緒に帰んなきゃな、と思っていたら桃井ちゃんが倒れっ……倒れた。ええええ!?何で!?

「おーい緑間、って、ん?」
「あ、やっほー高尾くん」
「ちょっ…先輩、何なんすかこの状況!?」
「いや、実はあたしもあんまり状況把握できてないんだよね」

緑間くんによると桃井ちゃんはすぐに起きるらしい。良かった。安心した。いきなり倒れちゃったからどうしようかと思った。踵を返そうとしていた緑間くんがもう一度振り返って、黒子くんを見据えてこう言った。

「ウィンターカップでまた、やろう」
「……はい」

是非!是非また!やろう!!あの緑間くんから黒子くんや誠凛を認めたとも取れる言葉を聞けて嬉しい気持ちが爆発する。どのくらい嬉しかったかというと、手を振ったのに無視されたことに対しても笑顔でいられるくらいには嬉しかった。もし試合中の緑間くんがコガくんのいうようにちょっとだけ笑ってたなら、あたしや誠凛の皆と試合してるときに笑ってくれるようになる日もそんなに遠くはないだろう。そう考えると楽しくなって、次の霧崎第一戦に向けてもっと気合い入れていかなくちゃなーと思った。何としてでも、秀徳の人達や誠凛の皆がウィンターカップで一生懸命バスケする姿が見たいもんね。

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