Machine-gun Talk! 59

霧崎第一戦に向けて意気込む誠凛の前に立ちはだかる壁。それは、

「部室の掃除!?」

部員総動員での一大お片づけであった。

監督の話によると明日、部室棟に生活指導が入るらしい。知らなかった。ボオオオオッと火を燃やして「ろくでもないもんは全部燃やすわよ!」と言う監督に部員の顔に影が差す。アダルト系が出てくると監督に練習を5倍にされてしまいかねない。もし仮にあったとしても監督の目に触れないように上手く隠さなくちゃいけない。男子高校生の欲望と希望のとばっちりを受けるのだけはご免被る。その点あたしは何も燃やされる心配もないし一安心。なんてったって部室には着替えるためにちょこっと入らせてもらうくらいで私物も一切置いてないからね!鞄にポーチとかドライヤー入れると嵩張るから空いてるロッカー使わせて、って言ってるのに監督が全然オッケーしてくんないからさ!

「じゃあいっちょ……お片付けといきますか!」

そう言って勢いよくドアを開けた日向くんたちが固まったから、何があったんだろうと思って隙間から覗くとそこにはありとあらゆるものが散らばった異世界が広がっていた。いやー、ダメでしょこれは。改めて片付けるつもりで入ると早くも心がくじけそうになる。片付けられる気がしない。そんな中でも一番男前なのはやっぱり監督で、手始めに開けたロッカーの中は、……腐海だった。

「焼き払え!」
「できるか!」

腐海からおにぎりが落っこちてきて、ピクッ……と不気味な動きを見せたそれに全員が声にならない悲鳴をあげる。悲鳴を上げた監督がおにぎり(またはおにぎりだったもの)を全力で振りかぶって燃え盛る火の中へとぶん投げた。

「よーしもう出てきたもん片っぱしから焼くわよ……」
「え!?」
「燃えろ……すべて……」
「カントク!?」
「もうやだ監督が壊れたー!」

まずいあのおにぎりが監督の何か危険なスイッチを押した!目が全然笑ってないよ!汗だっらだらかいてるよ監督!もうやだ本当に帰りたい!

それから掃除を進めていくにつれて、コガくんがクリスマスツリー発見して監督に燃やされたり木吉くんが花札発見して監督に燃やされたり初号機が燃やされたりフィギュアが燃やされたりした。花札があるぞ!って嬉しそうに言ってたけど多分それ木吉くん本人の私物だよね。一時間経ってようやく全体が片付いて、あとは各自ロッカーの中に取りかかってもらわなければ。

コガくんのロッカーは開けた途端にパンツの雪崩が起きて、巻き込まれかけたのを間一髪のところで水戸部くんに救出された。助かった。日向キャプテンのロッカーではジオラマが出来ていてさすが戦国武将好き男子、と心の中で呟いてみる。長篠の戦いらしい。日本史の教科書でしか見たことなかったけどこんな感じなんだ。そういや日向くん日本史が得意科目だって言ってたもんね。水戸部くんはロッカーの中をひた隠しにして誰にも見せようとしないから、きっと何か見られたくないものが入ってるに違いないと推測してみる。スイーツ王国とか出来上がってたら面白いのにな。伊月くんのネタ帳は積み上げると凄い高さになってたから「これ限界まで積み上げて達磨落としみたいにスコーンッ!ってしてみたいよね」って言うと無言でネタ帳のうちの一冊でチョップされた。普段のクールな顔のまま無言で突っ込まれたのが怖かったからもう今後は間違ってもネタ帳で遊ぶようなことは伊月くんの前で言わないでおこうと思う。

コガくんが熱心に読んでた漫画を横から覗きこんでみたけど面白くて、二人で話してるうちに部員の中でどんどん広がって最終巻だけ残した全部を読破した状態になった。続きがめっちゃ気になる。どこを探しても何故か最終巻だけ見つからなくて、どこか探してない場所はないかと考えていると木吉くんが「まだ探してない場所が一つある」と言った。腐海だ。…………え?腐海?あ、何かすごい漫画の単行本っぽいのが埋まってる!

「よし!一年じゃんけんで負けた奴とれ!」
「イヤです!」
「センパイ命令だ!!」

キレる日向キャプテンに気圧されて渋々じゃんけんをする一年生をちょっと可哀相だなあと思いながら見つめる。こういうとき自分が二年生で先輩ポジションで良かったって思うよね。じゃんけんの結果、降旗くんと河原くんと福田くんが勝って火神くん黒子くんの負けとなった。やばくね。一番戦わせたらいけない組み合わせじゃねこの二人。まさかこんな試合でも何でもないところで闘志を燃やしまくる二人を拝める日がくるとは思わなかった。そして運命のじゃんけん(大袈裟)に負けたのは火神くんで、うわ…初めてみたよ黒子くんのガッツポーズ……落胆する火神くんとは対照的にめっちゃ生き生きしてるよ……。

びくびくしながらロッカーの中に手を突っ込む火神くんを固唾をのんで見守る男性陣とあたし、そして大して興味なさげに2号と戯れる監督という構図がここに誕生した。そして雄叫びにも似た悲鳴をあげながらズボッと漫画の最終巻(仮)を取り出した火神くんの左手に握られていたのは、………あれ?

「ちょっ待てそれ監督とには見せちゃだめだろ!」
「見せちゃだめってもう遅いよばっちり見ちゃってるよ伊月くん!日向キャプテンがアダルト系は事前にチェック済みだって言ってたじゃん!」

気を使って両目を覆ってくれた伊月くんの良心が痛い。ごめんなさい埋まってるのは漫画の最終巻だと信じて疑わずにめっちゃ期待しながらコガくんの隣りで火神くんの雄姿の一部始終を眺めてました。まさかナース倶楽部なんて怪しげな本が出てくるとは夢にも思いませんでした。恐る恐る振り返ると監督が笑顔で「5倍」と言っていた。こんなとばっちりの受け方するなんて最悪もいいところじゃないの!

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