Machine-gun Talk! 60

ようやく大掃除が終わって、どやどやと皆が帰っていく後ろで火神くんが写真とにらめっこしてたから後ろから覗きこむと一年前の誠凛の写真だった。懐かしい。笑顔の木吉くんとそっぽ向いてる日向くんを見るに、この二人の関係は部活結成当初から変わらないみたい。つっちーとコガくんと水戸部くん本当に変わってないなーちょっと髪伸びたくらい?後ろからこっそり見ているあたしを大して気にもとめずに、火神くんは一枚目の写真の下にあったもう一枚の写真に目を向ける。そして誰だこいつ、という顔をした。

「さっきから何見てるんですか?」
「黒子……コイツ見たことあるか?」
「……いえ。さんならこの写真が誰だか知ってるんじゃないでしょうか」
「あー知ってるよ。それはね、一年生のときの」
「そりゃオレだ!」
「え?」

もう下校時刻だからいい加減にしろ帰れ、と言いに来たらしい日向くんの顔を見て、火神くんと黒子くんは数秒間固まって、写真と日向くんの顔を見比べたあとお腹を抱えて笑いだした。

「似合ってな……ぶ、つかダセェ!!」
「あははは!ね!これあたしも一年の時から言いたかったんだけど似合ってないよね!」
「出るぞホラ!ボコボコにしてやるから!」

やっぱり思うことは皆一緒らしい。そういや今じゃ黒髪の短髪も見慣れたもんだけど一年の最初は日向くん金髪だったもんなー。しかもこうやって写真で見ると目つきが悪い。元々あんまり表情柔らかい方じゃないけどね。あたしは職員室に用事あったから日向くん火神くん黒子くんとは部室棟の前で別れたけれど、火神くんと黒子くんの二人はまだ写真を思いだす度に面白いのか肩を震わせっぱなしにしていた。経験談から言わせてもらうと日向キャプテンがキレる前に笑うのやめた方がいいんじゃないかな、と思いながら三人の背中を見送った。明日監督に空いてるロッカー何個かあるみたいだしあたしにも使わせてくれないかなって玉砕覚悟で言ってみよう。お菓子貢いだくらいじゃ折れてくれなさそうだし決定的な何かを献上したいけれど何も思いつかない。案外プロテインとかで釣れるかもしれないし今度監督の友達にこっそり監督の欲しそうなものとか聞いてみようっと。

「先輩たちのこと教えてくれませんか!?」

朝練を早めに切り上げて着替えてから誰もいない部室で特にすることもなくて、ボーッとしていると降旗くんと河原くんと福田くんがやってきた。何を言われているのか分からずに呆気にとられていると可愛い後輩三人は興奮気味に思い思いのことを口々にまくしたてていく。

「オレ達、その、火神と黒子から木吉先輩とやれるのは今年一年だけだって聞いて、どういうことか聞こうと思って……っ」
「お願いします!去年どういうことがあったのか教えてください!」
「こういう風に頼れるの先輩しかいないんです!」

な、なんていじらしくて可愛い……っ!じゃなくて。木吉くんとやれるのが今年一年だけって何だ。あたしも知らなかったんだけど初耳だぞ。火神くんと黒子くんから聞いたってことは、あの二人、あたしと別れた後で日向くんから何か聞いたのか。展開がさっぱり分からない。ちょっと待って日向くん一年生相手に一体どんなことを話したの。こんなことなら一緒に帰っとけば良かった。後輩が頼ってくれるのはすごく嬉しいんだけど、あたしが誠凛の男バスとちゃんとした関わりを持ち始めたのは今年になってからだから、去年の彼らについては全くと言っていいほど知識がない。プレイスタイルとかなら去年の試合のテープとか見たことあるし話せるかもしれないけど、この三人が聞きたいことはそういうことじゃないだろうし。え、本当にどうしようそんな必死な瞳で懇願されたら断るに断れないじゃない。

、テーピング探してるんだけどどこにあるか知らな……何やってんの」
「伊月くん!伊月く……うわあああ会いたかったよナイスタイミング伊月くんんんん!」

救急セットの中からテーピングを渡して、そのままの勢いで伊月くんを一年生三人とあたしで囲うようにして座らせると訳が分からないという顔をされたから、事情をかいつまんで説明すると伊月くんは少し驚いたように目を見開いた。まだ始業のチャイムが鳴るまでにはかなりの時間がある。木吉くんの件に関してはあたしも知らなかったし、一年生と同じように説明してほしい。四人に囲まれて困った顔を浮かべる伊月くんは「オレだけじゃ説明しきれないこともあるし、後から他の二年も呼んでいいなら話すよ」と言ってからぽつりぽつりと話し始めた。自分の知らない皆の顔を知るのはちょっとだけ怖い気もするけれど、これはきっと必要なことなのだ。体育座りをする膝を抱え直して、慎重に言葉を選んで話そうとする伊月くんの横顔をじっと見つめた。

prev | INDEX | next