Machine-gun Talk! 62

伊月くんの召集によって、お昼休みに日向くんと木吉くんと監督以外の二年生と降旗くん河原くん福田くんの一年生、そしてあたしが食堂に集った。各々ご飯を食べながら談笑している中でも伊月くんはどこか神妙な面持ちをしていて。しばらくその一挙一動を見つめていると、箸を置いた伊月くんが一つ一つ言葉を探すようにしながら話し出した。その声を聞いた途端にぴたりとお喋りをやめて、真剣な顔になった二年生を見て朝の話の続きをしようとしてくれてるんだと悟る。木吉くんとバスケ出来るのが一年限りかもしれないこと、皆の浮かない顔、歯切れの悪い語り口。どれをとってもどうも楽しい話じゃなさそうなんだよなあ。でも最後までしっかり聞かなくちゃいけない。折角こうして皆が話そうとしてくれてるんだから。

伊月くんとコガくんと水戸部くんとつっちーが代わる代わる説明してくれた去年の霧崎第一戦の全貌をまとめるとこうだ。木吉くんはこの試合でポイントガードとセンターを織り交ぜた独自のスタイルを試してみたいと言いだして、ぶっつけ本番で挑んでみればこれが大当たり。日向キャプテンのスリーも好調で、流れは完全に誠凛のものだった。ここで登場したのが花宮真。元々少しずつ負担のかかっていたであろう膝に、花宮の合図を聞いた霧崎第一の選手がわざとリバウンドのタイミングを遅らせて木吉くんの体重をかけた。しらを切る花宮に日向くんが「お前合図出してただろ!」と突っかかっていくも、怪我をした張本人の木吉くんに制されて何とか踏みとどまる。結果は一点差で誠凛の勝ちだったけれど、卑劣なプレーと「お前は怪我しなくてよかったなあ」なんていう花宮の言葉で後味の悪い試合となった。試合が終わってすぐ病院に駆け付けた皆に木吉くんは「全然大したことなかったわ!」と笑って捻挫だと説明して、だけどそれはただの木吉くんの痩せ我慢で、本当は捻挫どころじゃなくて手術せずにリハビリしても誠凛へ戻ってくるのには一年かかるほどの大した怪我だったのだ。当然その翌週の決勝リーグに木吉くんが参戦出来るはずもなく、鉄心を欠いた誠凛の快進撃は東京都ベスト4までとなった。

これが去年起こったことのすべてなのだ、と。話し終えた皆は疲れ切った顔をしていて、真剣に話を聞いていた一年生も神妙な面持ちをしていて、まず何から言えばいいのか分からずに弁当箱から適当におかずを探して口に運ぶ。卵焼きだった。想像していたよりも重い事実に言葉を失っているのは一年生達も同じのようで、皆の表情をちらりと窺ってから卵焼きを飲み込んでお茶を飲んで、一息つく。それから思い切って口を開いた。

「とりあえず……」
「とりあえず?」
「花宮と霧崎第一の皆さんには去年の借りを返さなくちゃね!」

一瞬呆気にとられたような顔をする二年生に言葉のチョイスを間違えてしまったかと不安に思ったのも束の間、「…そうだな」と微笑みかけてくれた伊月くんに一安心。とにかく前に一度だけ花宮に会ったときに感じた『関わらない方がいい』オーラは間違っちゃいなかったみたいだ。あのときも確かに馬鹿にされて痛いとこばっかり突かれて花宮に対して腹が立ったけれど、過去にそんなことがあったと知っては次の霧崎第一戦、燃えずにはいられないじゃんね。

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