Machine-gun Talk! 63

何度も言うようだけれど、まあ、あんな話を聞かされちゃ燃えない訳がない訳でして。いつもより張り切ってお茶を作って今吉さん率いる桐皇にもにこやかに手を振って、だけどあたしがいくら愛想をふりまこうが殺伐とした空気は拭えなかった。それは木吉くんと花宮の接触によってますます顕著なものとなる。花宮につっかかろうとする日向キャプテンを制さねばと思って駆け寄ったのよりも先に、火神くんと黒子くんが花宮の前に立ちふさがった。「潰せるもんなら潰してみやがれ」キセキの世代との対決以外でこんなに好戦的な目をする二人を見るのは初めてかもしれない。

バスケのコートの上で花宮と霧崎第一に会うのは初めて……というよりも、花宮以外の霧崎第一の選手に会うのは初めてだと思う。相手の動向と誠凛の皆の調子をチェックしつつお茶とかテーピングを整理していると、一年生三人がテーピングを巻こうとしている木吉くんのところへ駆け寄っていった。絶対勝ってください!と言う三人の勢いに押され気味な木吉くんは合点がいったような顔をして「まさか話したのか!?」と日向キャプテンに問いかけた。黒子くんと火神くんどころか誠凛二年総出で話しちゃったんだけどね。木吉くん愛されてるなあ。

いや、でもそれちょっとテーピング巻きすぎ……出来ましてない!それ全然出来ましてないから!見かねた監督が手際よく木吉くんの包帯を巻いていった。立ち上がった木吉くんは「……ありがとな」と言いながら一年生三人の頭をぽんぽん、として整列しに行った。やった!って顔する一年生めっちゃ可愛いけどずるい!あたしも一緒に便乗してテーピング巻きにいけば良かったな!

色々と不安要素を残したまま誠凛対霧崎第一戦がとうとう開始された。勝てばウィンターカップ最後の大一番だ。ジャンプボールを取ったのは誠凛で、ラン&ガンで飛ばすボールが黒子くんの手に渡った。ってことは…きたー!いきなり黒子くんのバニシングドライブ!相手を抜いた黒子くんのパスが木吉くんに渡ってアリウープ。最初からガンガン行っちゃえ!

霧崎第一のプレーはとにかく荒っぽくて、日向くんへのスクリーンや火神くんの足を踏んだことや肘を張って振りまわしてきたりしたことを考えても誠凛の選手を怪我させようとしていることは明白だった。特にエースや主力となる選手を確実に潰そうとする傾向があるみたいで、今回は日向くんや火神くんが狙われているように思える。あの死んだ魚みたいな目をした選手が肘で日向くんを攻撃しようとして、危ない……!と思った次の瞬間、木吉くんが日向くんをガードしていた。ホッと一息つく間もなく霧崎第一のカウンター。すれ違いざまに花宮に何か言われたらしい木吉くんは明らかに怒っていた。

「お前だけは必ず倒す!!」

いつも温厚なはずの木吉くんがここまで怒ってるのを初めて見た。今回の試合、本当に大変なことになるのかも知れない。

霧崎第一の10番の選手の肘が火神くんのお腹に直撃した。わざとだ。あの選手わざとスクリーンアウトさせようとして肘鉄食らわせてきてるんだ。ハラハラしていると予想通り火神くんが相手に殴りかかった。馬鹿!そんなことしたら全部台無しになるじゃん!

すんでのところで黒子くんが火神くんの足を掴んでくれたおかげで、騒ぎも大きくならずに済んだ。タイムアウトで一旦皆がベンチに戻ってくる。「何考えてんのバカタレ!」監督の鉄拳が火神くんの頭にお見舞いされた。まあ、あと一歩で試合台無しにするところだったんだからこれくらいは当然の報いだね!

霧崎第一の荒っぽいプレーのせいで日向キャプテンの肘が赤くなっていた。それを見て浮かない顔をする木吉くんの顔にいつもの和やかな印象は見受けられなくて。案の定とんでもないことを言い出した木吉くんは、日向キャプテンと監督の抗議をもろともせずに強いまなざしではねのけた。分かってる。あの二人の言うことにも耳を貸さないくらいなんだから、あたしの言うことなんて気にも留めてくれないんだろう。「恨むぜ」なんて言われたら、さすがの監督も黙ってしまった。

「木吉くん!」

コートへ歩き出そうとする背中に向かって声をかけると依然として鋭い目をしたままの木吉くんが振り返った。彼の目がちゃんとこっちに向けられているのを確認して、握りしめた拳を思い切り前へと突きだす。あたしの意図を理解してくれたのか、木吉くんは一旦引き返してくると少しだけ目尻を下げて、コツンと自分の拳をあたしの握りしめた手にぶつけた。頑張れ!と、無理すんなよ!と、もっと頼って!と、ここでちゃんと見てるから!と、全部の想いがいっぺんに伝わるように握りしめた手に力を込める。

「ありがとな」

そうやって優しく笑う顔が見たかったんだよ。

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