Machine-gun Talk! 64

本当に木吉くんは一人でインサイドを支えていた。ラフプレーのせいで痛めつけられた身体についた無数の痣が痛々しくて見ていられない。だけど木吉くんは任せろ!なんて言って笑うから、監督もあたしも黙って見守ることしか出来なかった。コートの中で指示を出す花宮が苛ついているのがここからでもはっきりと分かる。異変はその後すぐに起こった。霧崎第一の7番の肘が木吉くんの顔面を直撃したのだ。あいつ…また木吉くんを……!

花宮がまたのらりくらりと事故だと主張してかわそうとしたとき、木吉くんが立ちあがった。全員の視線が木吉くん一人に真っ直ぐに注がれる。

「どんな時でも体を張って誠凛を守る。そのためにオレは戻ってきたんだ!」

馬鹿じゃないの。あの人本当に馬鹿なんじゃないの。そんなの自分がどんどん痛めつけられるだけじゃんか。誠凛の皆を守って肝心の自分を守らなくてどうすんだ。本人は何でもないような顔をしているけれど、これ以上危なくなったら監督と一緒に抗議して無理やりにでも引っ込めさせるしかない。

「なんでそんな卑怯なやり方で戦うんですか」

第二クォーターの終わり、インターバルに入ると黒子くんが花宮に質問を投げかける声が聞こえた。卑怯な手を使って試合に勝ったとして楽しいのかと聞く黒子くんに「こうでもしなきゃどうやってキセキの世代や強豪に勝てるっていうんだ…!」と返す花宮の声が聞こえる。もしかして花宮も挫折と敗北を繰り返して、それでも勝つためにラフプレーに頼らざるをえなくなったのかな…。そんなあたしの予想は花宮の次の言葉で見事に打ち砕かれた。

「人の不幸はミツの味って言うだろ?」

そうだ。この男はこういう奴だったんだ。「去年のお前の先輩らなんて最高にケッサクだったわ」という言葉にとうとう堪忍袋の緒が切れた。離してコガくんあいつ一発どころか十発は殴ってやんないと気が済まない!ラリアットの刑にでも処してくれるわ!

ここで頭に血が上って殴ろうものなら誠凛も霧崎第一と相違ないものになってしまう訳だけど、頭では分かっていてもやっぱり腹が立つのは腹が立つものなのだ。水戸部くんとコガくんに半ば引きずられるようにしながら控室に戻ると黒子くんが物凄く怒っていた。その迫力にぞくりとする。何となく声もかけづらくて、木吉くんの応急処置に回った。前に火神くんを殴り飛ばしたときとはきっと怒りの度合いが違う。……黒子くんもあんな風に怒ったりするんだ。

第三クォーターの始まり、誠凛が5点リードしているけれどまだまだ油断は禁物である。黒子くんにパスが渡った瞬間、それまで黒子くんをマークしていた8番を押しのけて10番の前髪の長い選手が黒子くんの前に立ち塞がった。これには黒子くんもいきなりの奇策にびっくりする…はずもなく。バニシングドライブで二人を抜いたあと、後ろから飛んだ火神くんにボールをパスしてアリウープを決めた。火神くん、流れとはいえ人を飛び越えるのはどうかと思うけど…。会場も誠凛もベンチもめちゃくちゃ盛り上がってるから結果オーライなんだけどね。二人とも怪我しちゃ元も子もないんだからあんまり無茶なプレーはしないように!

黒子くんがベンチに戻ったのとほぼ同じタイミングで霧崎第一にも新しい選手が投入された。ベンチに座っているおじさんじゃなくて花宮が指示を出していたのを見て、今吉さんが「今の霧崎第一は花宮が主将と監督を兼任しとるんやで」と言っていたのを思い出す。あの話本当だったんだ。新たに投入された5番の選手のポジションはセンターらしい。何のために交代させたんだろう。まさかもっと危ないプレーで木吉くんの怪我にトドメを刺すつもりとか……?

そんな懸念は伊月くんのパスが突然花宮に立て続けにスティールされだしたことによって頭の中からぶっ飛んでいってしまった。おかしい。あの伊月くんがこんな何本もパスカットされるだなんて絶対におかしい。そこで気づいた。というよりも思い出した。そうだ今吉さんが「花宮アイツめっちゃ賢いからな」って言ってたじゃん…!きっと伊月くんのパスの正確さが仇となって花宮に攻撃パターンとパスコースを読まれてしまっているんだろう。結局得点は最初のダンクだけ、後はパスが全然通らないおかげで一向に点が取れないまま第三クォーターが終了してしまった。

このままじゃまずい。伊月くんのパスが通らない上に今日はまだ一本も日向キャプテンのスリーが決まっていないのだ。何とか打開策はないものか。そんなときに出された黒子くんからの提案は「ボクがチームプレイをやめれば破れるかもしれません」なんていう無茶苦茶なもので、何言ってんだと思ったけれど、こういうときの黒子くんは頼りになるってことをあたしは今までの経験から重々承知しているつもりだから。今回のピンチだってチャンスに変えてくれるはずだよね。

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