Machine-gun Talk! 65

黒子くんの「チームプレイをやめる」っていうのはつまり、「独断でパスコースを変える」ということだった。さすがの花宮も味方ですらいつ来るか分からないパスまで読むのは不可能だろう。黒子くんの活躍のおかげで点差は徐々に縮まりつつあった。だけど、まだ足りない。思ったことをそのまま言ってしまえば、今回の霧崎第一戦、木吉くんも日向キャプテンも正直入れ込みすぎなんじゃないかと思った。特に日向キャプテンのスリーポイントシュートが入らないとなれば、差は縮まりつつあるものの逆転するためにはまだ攻撃力が足りないんだ。中を支えてる木吉くんの体だって限界なはずで。色々と不安要素を残したまま監督がタイムアウトをとった。

「交代よ鉄平」

猛抗議をしかける木吉くんも「去年と同じことが起こるくらいなら……恨まれたほうがマシよ」と涙を浮かべながら言った監督に言葉を飲み込んだ。木吉くんが交代することに黒子くんも賛成する。守るって言われて嬉しかったのはあたしも同じだ。皆、木吉くんにもうこれ以上無理してほしくないんだよ。それでもまだイエスと言わない木吉くんに痺れを切らした日向キャプテンが「オレ達が約束やぶるとでも思ってんのか」と怒鳴りかけた。やぶる訳ないじゃん、って思う。そう感じたのは木吉くんも一緒だったみたいで、ようやく交代することを承諾してくれた。

「いい子にして待ってろ」という日向キャプテンの言葉にピースサインをしながら「待ってる!」と言うと「お前じゃねえよダァホ」と罵られる、この感じもなんだか久しぶりだ。入れ込みすぎなんじゃないか、って思ってた日向キャプテンだって吹っ切れたような顔してる。だからさ木吉くん、きっともう心配しなくても大丈夫だよ。あとは日向キャプテン達が何とかしてウィンターカップまでの切符をもぎ取ってきてくれるから。

とうとう吹っ切れた日向キャプテンのスリーが決まった。外が入るようになったおかげで中も生きるようになって、最終クォーター残り一分でついに誠凛が形勢逆転。一点リードにまで霧崎第一を追いつめた。流れは完全に誠凛のもの…だったけれど、花宮が黒子くんの目の前でボールを持った手を振りかぶったのを見て誠凛全員が戦慄する。黒子くんを潰すつもりなんだ……!

間一髪のところで避けた黒子くんに悪態をついた…かと思えば、「なんて言うわけねェだろバァカ」と言った花宮はドリブルで黒子くんを抜いてゴール下までそのまま突っ込んだ。ゴールよりもかなり遠い位置で踏み切ったのを見てまさかレイアップをするつもりなのか、と思いきや違う。ティアドロップだ……!

残り数十秒のこの場面でまさかもう一枚切り札を残していたとは思わなかった。再び形勢は逆転、霧崎第一が一点リードしていることになる。「虫酸の走る友情ごっこもおしまいだ」と笑う花宮にとうとう黒子くんの怒りが爆発した。超回転パスのフォームをとりながら「誠凛の夢の邪魔をするな!」と言った黒子くんのパスを火神くんが受けとめて、そのままゴールにぶち込む。71対70で誠凛再度逆転、そのまま最後まで攻め続けて結果は76対70で誠凛の勝利。それと同時に誠凛のウィンターカップ出場が決まったのである。……ここまで本当に長かったなあ。

実は誠凛男バスのマネージャーになって、木吉くんが復帰してから、日向キャプテンと木吉くんがハイタッチを交わすところをあたしはまだ見ていなかった。見てないというよりも、もしかしたらあの二人本当にちゃんとハイタッチ交わしたことないんじゃないかな。つまり何がいいたいかっていうと、ここまできてようやくキャプテンと日向キャプテンのハイタッチする姿を見れて何だかあたしまでジーンときてしまっているわけなのです。そして嬉しそうにはにかんで笑う監督が可愛かった。本人には言わないけど。

ラフプレーを連発しながらも霧崎第一は霧崎第一なりに全力を尽くして試合に臨んでいたようで、肩で息をしながら呆然とする選手の中で一人、花宮が「今まですまなかった」なんて言い出した。だけどそれもやっぱり「なんて言うわけねぇだろバァカ」で覆されて、「次は必ずつぶす」なんて言う花宮に、あろうことか木吉くんは笑いながら「やっぱすごい奴だと思ったよ」「またやろーな」なんて言う。本当に誰に対してもあんな感じなのかあの人は……。懐が深いっていうか、人が優しいっていうか。お人好しなのにも程があると思うんだけど!

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