Machine-gun Talk! 69

右足を捻ったせいで二週間バスケが出来なくなったさんの落ち込みっぷりといったら本当にもう、目も当てられないくらいだった。コート内を激しく動き回るバスケには怪我はつきもので、それはさんにとっても例外ではない。喋りながらプレーをするせいか、さんは他の人に比べてもよく転んだりつまづいたりはしていたようであるけれど、今回は転び方が悪かった。いつもなら転んだとしてもすぐに立ちあがるさんが何やら顔をしかめていたのだ。

嫌な予感がしたのはボクだけではなかったようで、近くへ駆け寄って「大丈夫か?」と声をかけた伊月先輩は彼女の足を見やると「腫れてるからすぐに冷やした方がいいな。捻挫してるかもしれない」と言った。氷水に漬けられたさんの足は赤く腫れあがっていて、凄く痛々しかったのを覚えている。当の本人は「こんな寒い時期に氷水に足漬けなきゃいけないなんて拷問以外の何物でもない」とぼやくくらいには元気だったけれど、念のため病院には行っておけ、と監督に言われて帰った翌日に様子が一変したのだ。

「お医者さんに行ったら捻挫してるから二週間は安静にしてろ、って言われた……」

彼女がどれだけバスケが好きかを嫌と言うほど知っているボク達にとっても、さんが二週間バスケを自粛しなければいけないというのは衝撃的だった。二週間もあれば苦手なことを克服したり、新しい技の特訓をしたり、大抵のことは出来るだろう。ウィンターカップへの出場が確定して、これから待ちうけているであろうキセキの世代や全国から集まってくる強豪校を倒すべく練習しようと意気込んでいた矢先の怪我にさんは誰が見ても分かるほど落ち込んでいた。「うるさい」と怒られることも数多くあれど誠凛バスケ部のムードメーカー的存在の彼女がそういった状態だと、何だかプレーをしているこちらまでやりづらくなってしまう。

視界の端に映り込む彼女の姿を捉える度に気になって、シュート練習の結果はあまり良いとは言えない成績で終わった。元々ボクのシュートの決定率はあまり良くないのだけれど、それを抜いても、だ。

分かりやすく言えばボクは彼女を心配しているのだ。いつもは閉じられることなどない口が今日は固く結ばれている。普段ボクと一緒にいるときに彼女の口が閉じられるのはせいぜいシェイクを飲んでいるときぐらいだというのに、今日はろくに言葉を発していない。極端すぎではないか、とも思ったが、朝練でひたすらボールを床についていた寂しそうな背中を見ている身としては気持ちも分からなくはなかった。よほどショックだったのだろう。その人にとってとても好きなものが何かの不都合のおかげで出来ないというのは辛いことですしね。

そんな訳でボクは他の人と同じように彼女を案じている訳なのだが、それが本人にはあまり伝わっていないようで、「何でそんなに優しいの?」と言われてしまう始末。ボクは普段からさんに対して優しく接していたつもりだったのでどう返事をすればいいものか迷ってしまった。優しくすることや心配することに理由を求められても、困ってしまうのですけれど。ボクは貴女に対してはいつだって優しいでしょう。思ったことをそのまま口に出せば珍しく彼女は動揺した。普段あれだけ人を巻き込んで騒がしくしておいて、いきなりしおらしくなってみせられてもこちらが困るだけなのに。くしゃりと髪をかきあげる。椅子から立ち上がるときに右足に体重をかけて悲鳴を上げたさんに対する日向キャプテンの怒号が響くまで、あと5秒といったところでしょうかね。

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