Machine-gun Talk! 71

ウィンターカップ、対桐皇戦まで残り半月。監督のお父さんであるカゲトラさんの特訓によって誠凛の面々は各自ウィンターカップを戦い抜くための必殺技を磨いていた。カゲトラさんからしたらあたしはただのマネージャーなので、必殺技に関してのアドバイスはあんまり貰えなかったのだけれど。男子バスケ部の面々は必殺技を完成させるべく、土日はファルトレクで基礎体力強化、平日は学校で個々のスキルアップに精を出していた。

ちなみにあたしの捻挫だけれど、安静にしておいたおかげでもうほとんど完治している状態なのだ。練習の合間の水戸部くんをつかまえてワンオンワンを挑むくらいには元気である。むしろ元気が有り余っている。シュート練習もいいけどやっぱり動きたくなるもんだよね。さすがにファルトレクに参加するのは自粛しておいたけれど、本音を言えば参加したかった。せっかく治った足をもう一回挫くような羽目にはなりたくなかったので、不本意ながらも自粛しておいたのだ。カゲトラさんは相変わらず「お父さん」とは呼ばせてくれない。

「調子はどうだいプッツンメガネくんよ」
「しばくぞ」

カゲトラさんのつけたあだ名は的を射すぎてるんじゃないだろうか。日向くんがプッツンメガネでしょ、木吉くんが天然ボケ男で、伊月くんがキューティクルサラ男。あとはコガくんがニャンコ小僧で……まあ、うん、以下略。ちなみにあたしはこれらのあだ名の中でキューティクルサラ男が一番のお気に入りなんだけど、伊月くんに「ようサラ男くん」と言うと無言で鞄からネタ帳を取りだされたのでそれっきり本人の前では言わないようにしている。コガくんは「ニャンコ小僧」って呼んだとしても笑い飛ばしてくれそうだから、たまに思いだしたときにでも呼んでやろうと画策中な訳だ。やっぱりね。誰から見ても猫っぽいんだよね、彼。

「日向キャプテンはそうやってすぐに『しばく』とか言うからカゲトラさんからもこういうあだ名つけられるんだよ」

自分で言っといてなんだが正論じゃないかこれ。納得いかない、という顔をしながらも思い当たる節はたくさんあるのか、キャプテンがそれ以上反論してくることはなかった。反論してくることはなかったがむすっとしてる。えらく不機嫌だ。あたしと一緒に練習してるときに楽しそうにしてるキャプテンって見たことないっちゃ見たことないんだけど。見たい。練習中のキャプテンって大概一年生か伊月くんのダジャレかあたしに怒声飛ばしてるんだもの。たまには笑ってバスケしたっていいんじゃないだろうか。

「これを機に日向キャプテンは気弱少年のこと謝りキノコって呼んだり津川くんのこと茶坊主って呼んだり、挙句の果てにはあたしのこともマシンガン馬鹿って呼んだりしてる日頃の行いを悔い改めるべきなんじゃないだろうかね」

そしてあたしの口はまたもや余計なことを言う。どう曲解したら「あたしと楽しくバスケしよう」が「日頃の行いを悔い改めるべきだ」に変換されるんだ。明らかに変換ミスである。だがしかし、知ってるんだぞ。キャプテンがことある毎にじゃなくてマシンガン馬鹿ってあたしのこと呼んでるのちゃんと知ってるんだぞ。

はっきり言ってしまえば、最近キャプテンの雷が落ちることもめっきり減ったこともあり、あたしは油断していたのだ。もしかしたらあたしにはキャプテンのイライラをことごとく増大させる才能が備わってるのかも知れない。キャプテンがお怒りにならないはずがなかった。

「そんな無駄口叩くぐらい元気なら三時間くらいファルトレクしてこい。お前に付き合わされる奴が可哀相だから一人で」
「一人で!?」

鬼ごっことかケイドロで誰かに追いかけられている訳でもないのにひたすら野山を一人で走りまわって来いという訳か。キャプテンからは厄介払いが出来て清々した!というオーラがひしひしと伝わってくる。何となく楽しそうだ。いや、あたしが見たかったのはこういう形で生き生きバスケする日向キャプテンじゃなくてだな。

「あたしもカゲトラさんに必殺技伝授してもらえばよかった」
「お前じゃ無理だろ」
「無理じゃないし。多分。……サラ男くんとニャンコ小僧のところ行ってくるね」
「特訓の邪魔するんじゃねーぞ」

しません。まるであたしがキャプテンの特訓を邪魔したみたいじゃないか。……実際邪魔したのか。マネージャーとして選手のコンディションをチェックしておこうと思ってたりしたんだけど日向キャプテンは大丈夫そうだなー。毒舌も絶好調だし。しばかれない内にコートの反対側で練習をしている伊月くんとコガくんがいる方へ移動する。キャプテンのシュートは精度上がりまくってるし伊月くんのイーグルアイは役立つしコガくんは無邪気だし、皆どんどん上手くなってるんだよなあ。あたしも鈍りをとるべく練習に励まねば。差は開いていくばかりでちょっと悔しいから心の中でプッツンメガネとサラ男その他カゲトラさんがつけたあだ名で呼び続けてやろう。

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