Machine-gun Talk! 74

とうとう開幕しちゃいました今年最後にして最大タイトルのウィンターカップ。初戦の対戦中、最注目カードだと実しやかに囁かれる誠凛対桐皇の試合が始まろうとしていた。

誠凛が入場したときとは比べ物のならないくらいの歓声が会場内に響き渡る。桐皇学園のお出ましだ。『新鋭の暴君』なんて格好いい二つ名つけられちゃってさ!羨ましい!整列の時間になる前に選手一人一人に目を向ける。うん。いい感じだ。あんなに練習したんだし、どっしり構えてたら大丈夫だよ。いやあ、それにしても、

「今度はもう絶対に、負けません……!」

まさか黒子くんのことをこんなにも逞しいと思う日が来るなんて思ってもみなかったな。

日向キャプテンと今吉さんのツーショットってなんていうか、こう、ゾクゾクする。今吉さんの目はいつ開眼するんだろうかという期待と、日向くんが堂々としててその後ろ姿に感激したのと、あと、やっと夢の全国大会の舞台に立つことが出来るんだっていう実感とが入り混じってゾクゾクする。最初のジャンプボールでボールを奪ったのは誠凛で、監督が試合前に言っていた「初っ端カマして主導権とる」作戦を遂行するため思いっきり攻めの姿勢に出た。よっしゃそのまま行け…るはずもなく、桐皇の堅い守りに行く手を阻まれる。桜井くんにボールが渡って、クイックリリースが来るのかと思いきや予想に反して桜井くんが放ったのはパス。一体誰に、なんてそんなの決まってる。ドギャッという音を立てて、青峰くんのアリウープが決まった。

強襲かけて主導権ぶん取る予定だったのがしてやられた!桃井ちゃんのデータ解析ぬかりなさすぎでしょ!しかしここでやられっぱなしの誠凛じゃあない。初っ端で主導権を握れたら万々歳だけど、握れなかったらそのときはとっておきの必殺技がある。黒子くんの改良型イグナイトパスだ!

黒子くんが木吉くんに繋いで、そこから火神くんのアリウープが決まった。盛りあがる誠凛ベンチ。青峰くんはボールに弾かれた自分の手をジッと見つめている。「ちったぁ楽しめるようになったじゃねーか、テツ」と言うその顔は悪役そのものだ。敵ながら格好良いなチクショウ。試合になると目が輝き出す誠凛の選手の方がそりゃ何倍も格好良いけどね!

このまま勢いに乗れるんじゃないか、と期待していたけれど新鋭の暴君はそんなに甘くない。誠凛の勢いに怖気つくわけでもなく、ただ桐皇がいつも通りにバスケをしているだけだ。基本のプレーだからこそ、格の違いってものが浮き彫りになってくる。さあどうする誠凛。固唾を飲んで見守っていると、とんでもないことが起こった。試合序盤のこのタイミングでエース同士のワンオンワン仕掛けちゃうの……?

ボールをもらったっきり、5秒近くなっても火神くんが動こうとしないもんだから内心冷や冷やした。状況を見極めたんだろうか、それともまだ勝てないと踏んだのか、火神くんが伊月くんにパス。そこで違和感を覚える。これまでの火神くんだったら強行突破しかけそうなものなのに。

「火神くんががむしゃらに突っ込んでいかないのって珍しいね。前なら多少無理してでも突っ込んでいく自己主体なプレーが目立ってたのに」
「火神も成長したってことなんじゃない?」
「そうなのかなー。やっぱり相手が桐皇ってきっついね、さすが新鋭の暴君。守りも攻めもガンガンくる。さすが新鋭の暴君だわ。こっちも新鋭の暴君が相手なんだから攻めて攻めて攻めまくっちゃわないと」
さん新鋭の暴君って言いたいだけでしょ」
「バレた?格好良いよねこの二つ名。誠凛にも何か二つ名みたいなの考えちゃおうか」
「そういうのって自分で考えたら意味ないんじゃない?」
「そんなもんなのかな新鋭の暴君」
「語尾にいちいち暴君ってつけるのやめよっかさん」

誠凛が一回目のタイムアウトをとった。コガくんと喋るのをやめて、スポーツドリンクを持って選手の皆に近寄る。真剣に次の作戦について話す皆とは対照的に、ゆるーい感じで日向くんが言った。

「とりあえずオレが外から一本とるわ」

コキッと首をならしながらパスをくれと宣言するキャプテンはクラッチタイムに入ってるときとは対照的な驚きのゆるさだ。だけどあたしたち二年生はそのゆるーい後ろ姿を見てこっそり目配せをする。二年生しか知らないことだけど、日向くんが首を鳴らすのは絶好調のときだけなのであります!こりゃ頼もしくて仕方ないね!

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